影-6
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「えー、大変お騒がせしております、えー、我が息子の…死と、厚生労働省、そして関連施設である影の国立研究所に圧力をかけた、という件ですが…えー、息子の死はおおむね事実でありますが、圧力や、冤罪で犯人に仕立て上げたというのは事実無根でございます」
登場した時から太陽も驚くレベルのフラッシュがたかれていた。話し出すと太陽が分身でもしたのか、ってくらい。眩しそうに目を細めながら、いかにも中年という体の上にちょこんと載っている禿げ頭に光る汗を拭きとった。海外ブランドの高級なハンカチだ。
安全ピンで留めていた腕章がずり落ちる。留めていたはずなのに、とフラッシュに舌打ちをまぎれさせながら腕を確認するとおろしたてのジャケットに小さなほつれが見えた。留めたというより意図に引っ掛けただけだったようだ。大枚叩いて購入したのに、ともう一度体の芯には響くように舌を鳴らした。
適当に肩まで腕章を引き上げて、出遅れ感ありながらもカメラを構える。いい位置にいる上に、ハンカチのブランドまでばっちり。この写真を持って帰った暁にはヒーローだ。喋る内容も気になるが写真が全ての印象を決める。白黒の記事は黒何だか、白なんだか分からないのがいいところ。表紙はカラーになってしまうだろうが、タイトルや見出しで善人も凶悪犯罪者に映る。
ハオランも俺がそうした。
お前の息子が死んだとか死んでないとかどうでもいいんだよ。
圧力をかけたとかかけてないとかどうでもいいんだよ。
厚労省だとか、国立研究所だとかどうでもいいんだよ。
世間が求めるのは責めどころ。落とし前。誠意。つまり辞職。という名のイレギュラー。繰り返しのような日々を生きるのは拷問に近しい。だから人は何かに没頭してなるべく早く時間が経つように仕向ける。雑誌なんていい媒体だ。読んでいれば時間が経つし、物議をかもすようなことなら物申すことで誰かと繋がることもできる。分かり合えたら仲間の獲得、分かり合えずとも論破なら正義のヒーロー、負けたとして逃げてしまえばいい。手頃で実に優秀なコンテンツだ。
何度も額の汗を拭いながら、息子が死んだことについての説明に入った。
涙を流せ、涙を流せ、泣け、泣け、と。記者たちは腕は組まずとも、隙間をカメラで埋め、フラッシュを焚き、スクラムを組んで逃がさない。純粋な報道精神でやっている人間はこの業界には残れない。求められているから、と承認欲求が満たされていく感覚で留まり続ける。いつの間にか、腐っている。
自覚しているだけ俺はまだマシだ。あくまで綺麗、という体。寄り添う、という体。全部が『体』。ちょうど涙を流し始めた総理大臣様も悲しんでいる、という体。そう映るように俺たちは仕向けるのだ。
「息子さんの死が承諾なくネットに公開されたことについてはどう思われますか?」
「影についてのいじめを苦に、というのは本当なんですか?」
「影の研究所の予算が今年は減っていましたよね?息子さんのことは何も気づかなかったからですか?」
肉親が死のうとも何の権利もなくそれについて淡々と話さなければいけない。感情を見せても自分の取り巻く世論が逆サイドにいれば自業自得と言われる。
「親が気付いてあげられないって息子さんも気の毒だな、気の毒『だった』なぁ!」
俺もヤジを飛ばした。
そこから疑問をぶつけるのではなく、自分の感想を言うだけの時間になった。司会進行が静粛に、と何度も繰り返す。情報に貪欲な俺たちがそんなもので黙るわけがない。やめてください、で止まるならこの世に犯罪など起きないのだ。やめて、が通用しない場所があり、ここはそういう場所だ。総理大臣は国会議員から選ばれる。国会議員は立候補制だ。
自分から飛び込んできたくせに?と俺たちは正々堂々言うことが出来る。
「っかー、いいネタになったな」
「っすねー。総理泣き始めた時はビビりましたけど」
「なに?まだビビるって段階?ダメだよー、もっと正気トばさなきゃあ」
「っすねー」
荷物持ちの後輩と今俺はペアを組んでいる。アポを取らせたり、場所取り、機材の搬入など。業務を嫌な顔することもなく『っす』とやってくれる。一度教えればやっておきました、と気が利くようになる。
「いい画撮れました?」
「じゃじゃ馬根性いいねぇー」
カメラが入っているバッグを抱え直した。
「俺のおまんまちゃん、美人さんでちゅもんね」
「赤ちゃん言葉きめぇー」
「言うようになったな、この野郎!どうせ、帰るだけで褒められるし昼だけど飲むか」
「いっすね」
「いつものところでいいか?」
「あそこって昼営業あるんすか?」
「酒に飢えた人間がいる」
「最高っすね」
子供がはしゃぐ公園の横を通った。ジャケットだと少しだけ寒い。枯葉混じりの目隠し用の木が土地開発を邪魔する日本家屋から飛び出ている。
「こういう平和な風景を映さなくなったのはいつからだろう」
「あ?」
「とか考えてそうな間だったんで」
「考えてねぇよ。俺、お前と違ってカメラ小僧じゃなかったし」
「そうなんすか?めっちゃ写真上手いのに?つーか、俺だってガキの頃からカメラが好きだったわけじゃないっすよ。大学の頃に写真研究部、みたいなのの展示行って惚れてサークル入って、今はゴシップを映してる、みたいな」
違う時は違う、ととことん訂正する後輩。その時ばかりは饒舌になる。流石高学歴、と皮肉に言いたくなる言葉選びが節々に見えるがどれも赤ん坊のよちよち歩きを見ているように落ち着けるから人間味、として好きだな、と思う。
「食うためなんだから上手くもなるよ」
会話に笑いが零れながら、頭の中で記事のラフを描く。文章の始まりは何にしよう、見出しサブタイトル、構成はどういう風にしよう。追加情報をネットで探して、あの暴露チャンネルの記事書くスペースをもらっても言いな。覆面ヒーロー、ってありきたりか。
「お前さ、記事書く?」
「え、書かせてくれるんすか?総理案件?」
「馬鹿野郎。そんな重要なのお前みたいなぺーぺーに任せるわきゃねぇだろ。暴露チャンネルのさ、やつ。ネットオンリーになるかもしれねぇけど、よさげだったら編集長に掛け合ってやるよ。紙媒体の枠一個増やすくらい簡単だろうしな」
「いいんすか?ざす」
「あ、から言え。あ、から」
面倒くさくもない。気が利く。融通も利く。便利屋にもほどがあるくらい。任せた仕事は期待以上。優秀な後輩に恵まれるとこんなにもタバコがうめぇのか。
「歩きたばこは条例違反っすよ」
「見つかったら金でも払う」
「じゃ、いっすね」
歩きながら煙草を吸って、歩きながらスマホを操作する。一眼レフで撮った覚悟も画質もいい写真は雑誌に使うとして、ネット用の写真は編集長に送っておいた。雑誌の記事の方がネット記事よりも上、みたいな風潮がある。俺は特ダネを一回掴んでからネット記事を書くことはなくなった。これを出世と呼ぶことにしている。
片手間で撮影した中からいい感じ、でもトップではない。そんな写真をいくつか選ぶ。
「歩きスマホもっすよ」
「え、禁止されてたっけ?」
「案自体は出てるっぽいっすよ」
「ま、言われたら止める」
結局俺を裁くことが出来る権力に見つかることもなく目当ての居酒屋にたどり着いた。
顔見知りの店主が好きな席に座れ、とカウンターを顎でクイッとやった。手早く席についてコートをたたんで背もたれにかけた。木材の主張が激しい椅子が故にコートをかけるくらいしないと長時間は居座れない。
「昼間っから酒盛り?元気だねぇ」
「一発ドデカいの上げられそうだからね。お前、ビールでいい?」
「あ、うす」
「先輩がもう板について来たね。たっちゃん」
「たっちゃんて…女将毎回思うけど、そんな子供じゃねぇぞ」
「たっちゃんはたっちゃんでしょ。子供の頃、お父さんに連れてこられてたのが懐かしいわあ」
「何年前の話してんだよ。俺、もうアラフォーよ?」
「はいビール。年齢差はいつまでたっても変わらないでしょー」
そりゃあそうだけど。後輩の前で子供扱いされるとむずかゆい。全く気に留めていない感じで先輩の俺の乾杯の合図を待っている。待てができる犬のようだ。後輩をそんな風に例えるもんじゃないかな。
乾杯、と低い声がハモりながらグラスが当たる音がする。暖房の生温い風が足元を攫う。この店は夏にしかエアコンを稼働させない。冬場はカビじゃなく苔でも生えるんじゃないかってくらい静かだ。
「あ、達水(たつみ)だからか」
「気付いてなかったのね???愛おしいやつだなぁ、お前は」
「ちょ、やめてください」
本当に今気づいたみたいなテンションで俺の下の名前をなぞって言ったもんで可愛くてかわいくて頭を乱暴にかき回す。俺からしたらまだまだ産毛のような毛が手に絡みつく。
「暴露チャンネルの記事って何書くんすか?」
「別にあの編集長がお前に渡すって言ってもコラムくらいの軽さだから気張らんでもいいよ。あのチャンネルがどういうものなのか、歴史、過去見られたコラボやら企画、ミスとか言ってっけど本当に女なのか。今回は珍しく実写だったからな」
「性別ってセンシティブじゃないっすか?」
「だーら、いいんだよ。あえてよ、あえて。確かに、大手雑誌が女か?男か?って明確にトピックにするのはタブーだけど、個人ブログみたいな人間が書くことは何となく許されてるところはあるだろ。そういうサイトは総じてビュー数も多いし。あれも何かしらのハラスメントではあるらしいけどな。性別は知られていない、程度にすれば文句はまず言われない。女性的行動、とかも避けた方がいいがネットなら削除も出来るし、挑戦の場としては最適なのよー」
「現代人が何をセンシティブに思うかを炎上するかしないか、で測ってるってことっすか?」
「そうそう」
「そういうもんなんすか?」
「そういうもんだよ」
ビールを一気にあおる後輩を煽った。いいねぇ、もっと飲め。そして酔え、と。
「俺も、達水さんって呼んでいいっすか?」
「いいけど、なんで?」
「なんとなくっす」
入ってからハイペースで飲み続けて、かなり耐えた方だと思うが夕方のチャイムが鳴る頃には限界が見え始めていた。早い夕暮れに女将が表の明かりをつけたくらいに急に名前で呼んでいいか聞かれて、曖昧な理由を返されてから机に突っ伏して寝息を立て始めた。
「自由な後輩だなぁ…」
「懐かれてていいことじゃないの」
「ま、可愛いよ。コイツは」
厨房を切り盛りしている忙しそうな店主を見る。混み始めるのはもう少し後だけどそろそろ帰ろう。コイツを送り届けて、事務所で記事にしよう。スマホで撮った写真に対してか、メッセージが飛んでくる。そろそろ返事をしないと流石に怒られるだろう。
「帰るわ。お勘定」
「はいはい。また帰って書くの?」
「その前に、可愛い可愛い後輩を家に届けるけどな」
「いい先輩ね」
駅前まで出て、タクシーを捕まえる。過去何度か送り届けた経験から場所は分かっている。
目を覚ます気配のない後輩のカバンの中から鍵を探りあてて、思ったより早く見つかってしまったので手の中で弄ぶ。電子マネーで支払いを済ませた後、鍵でオートロックを開ける。エレベーターに乗り込み、後輩の部屋がある階まで上がる。たまたま出てきた隣人に会釈をして、家の中に入る。
二十代前半独身男性の部屋らしい部屋。1DKの手頃な部屋だ。物は少なく綺麗に整頓されている。死なないように水でも飲ませるか、と思ってウォーターサーバーを見つけて、コップを探すより前に冷蔵庫を何となく開けるとミネラルウォーターが常備されている。俺の家じゃそんなことはない。水道水直飲みだ。
マットレスの上に放っておいた後輩の頬をぺしぺし叩くと唸ったのでとりあえずは死んでいないようで安心する。冷たいペットボトルを首にあてると驚いたように目を少し開けた。だんだんと覚醒してきた。
「俺もう帰るけど大丈夫か?」
「はぁい…らいじょうぶ、れす…」
「大丈夫じゃなそうだけど…」
「たぁつみ、しゃんは…かかなきゃ、なんでしょおー!」
若さを感じながら俺は後輩の家を後にした。
酒が入った状態で行っても歓迎はされないが、許される。記事は書き直せと言われることもあるけど、よほどのことがなきゃ言われない。そのくらいまであの会社の中で成り上がることが出来た、ということ。驕り昂らずにはいられない。
一人その事実にほくそえみながら事務所に向かう道を歩いて行った。退勤後のサラリーマンのくたびれたスーツの流れを逆走していく。この世に逆行している感が否めないところが愛おしい。
「へんっしゅーっちょー」
「お前今の今までどこに行ってたんだよ」
「来る途中見ましたけど、ネット記事大好評じゃないですか。最新刊の売り上げは過去最多間違いなしですって」
首根っこを掴まれて耳元で怒鳴るようにどこに行っていたのかを問い詰められる。来る道すがら記事の反響を見たのは事実だ。いい角度からの写真に、ネットならではの炎上を躊躇っているようには見えない大胆な言葉遣い。そういう雑誌、そういう会社として受け入られていると大胆さは偲ばせることを学ぶべきだ、とは言われない。
むしろ『もっとやれ』と言われる。
「はぁ、まぁ、いいわ。どうせお前のことだ。いい写真引っ提げてきたんだろ。こっち側に渡したのはスマホで適当に撮った写真。公式SNSに流すようの音源も送ってくれたはいいが、どうしていつもこんな音質なんだよ」
「いてて…胸ポッケに入れてるから仕方ないじゃないっすか」
「スマホでカメラと同時にレコーダーオンにしてんだろうが、どうせよ。自分の功績を取り上げられたくない気持ちもわかる。お前の過去には同情するし、お前の実力も認めてる。お前を評価するために情報を平等に渡せ、と言っているんだ」
数秒の間の後、
「マジできょとんとするんじゃねぇよ」
そう言われた。そして編集長は俺から引いていった。
こういう類のことは何度も言われている。その上で渡してやらなきゃいけない理由がわからない。過去の実績を評価されて、人数制限が厳しい公の場所に屋う¥次馬として乗り込み、マスゴミと言われることも多々ある中、前線に立つ。一方情報を待っている奴らは前線に立つために努力を怠ったんだ。
俺がした努力をしなかった。それだけだ。テレビでリアルタイム配信されている音声しか取れなくたって、遠くの方からガビガビ画質の写真しか手に入れられなかったとして、文句を向ける矛先は少なくとも俺ではないはずだ。
この職場は戦場だ。出来高制だ。実力が全てだ。いいネタを強いれることは出来ても、自分だけが掴んだ情報で一冊は作れない。それを分かっているからある程度の情報流すし、共有もするし、無償で教えることもある。自分の立場を守るためにここからは有料エリア、ってゾーンを設けているだけ。友情ごっこで繋がり合っているわけじゃない。雇用主と雇われの身ってだけ。繋ぎとめておこうとする方が不毛だ。
「酒飲んでたんだろ。明日までに記事上げろよ。今日はもう帰れ」
「珍しくブチ切れてます?」
「分かってんだったらせっかくお越しいただいたのに悪いけどお帰りいただけますか?この野郎」
「口が悪いっすよ。編集長。この時代何がパワハラになるか分からないんすから。ホラホラ、俺に優しく」
「お前が俺に優しいならそうしてやるよ」
「ちぇっ、冗談なのに。通じねぇ人だな。ま、言われた通り帰りますよ。その前に、ネット記事だけ差し替えさせてください」
「…何があった?」
「続報っすよ。ミス・ハイマーについての項目を全て削除します」
「その意図は?」
「ミス・ハイマーに情報を流していた人物が乗り出してくる頃だからです」
内閣規模の話題をたかがいち暴露チャンネルごときが手に入れられるわけがないと思っていた。どこから漏れ出たのかをずっと考えていた。内閣の仲良しちゃん?って考えたけどハイマーとの繋がりが分からなかった。だからミス・ハイマーが暴露チャンネルを本業をしていないことなんて分かりきっていた。
これまでの数々の暴露でもどこから仕入れた?と思う情報とその精度には驚かされていた。ミス・ハイマーに情報を流したい人物は内閣の崩壊を望んでいる人間、と考えるのが妥当。与党がしっかりと議席を確保する選挙の結果が続く今、そんなクーデターが成功するとは思えない。
「内閣総理大臣、深三國郎がミス・ハイマーに流したんですよ」
「何故?証拠は?」
「あくまで想像ですよ。きっと二人の間には何かしらの不可侵条約があります。同情票を計算にいれたとしても許されないことくらいは分かっているでしょうし、円満に問題意識を芽生えさせようって魂胆ではないと思うんです。ミス・ハイマーはインプレッション数を稼ぐことが出来るし、脅せるだけのなにか材料を持っていたんじゃないでしょうか」
「材料…?深三はミス・ハイマーに対して何の力も持てないなら不可侵条約ではないだろう。一方的な脅迫だろう」
「俺があえて不可侵条約と言ったのには理由があります。脅迫しされ、って関係ではない。ミス・ハイマーの動画を見ていて気が付いたんですよ。やたらと芸能界や、クリエイター業界の裏事情に詳しい。その中でも政治関連の汚職については野次馬根性だけで生きているマスメディアも敵わないところがある」
「要すると?」
「ミス・ハイマーの暴露チャンネル以外の姿は知りません。今後探ればぼんやりとは分かっていくでしょうが。政治関連に強いってだけで導く出すのは安直で危険かもしれないですけど、恐らく内閣総理大臣を揺るがすほどの何かを持っていた。そしてミス・ハイマーはそれを正規のルートでは手に入れていない。法スレスレのことをこっちはやってんだ。プライバシーだなんだ、っていうのだってあってないようなところで戦ってる俺たちが知り得ない情報を掴んでる奴は犯罪でも犯してないと納得できないじゃないっすか」
脆い想像なのは分かっているが今のところ立てられる仮説としてはそれしかない。
「どうして深三はミス・ハイマーに情報を流した?まさか問題意識を芽生えさせるためとか言わないよな?。あれだけ世間を騒がせる問題児がそもそもそんな情報で御されるとは思えないんだが」
「それもある意味あってるんでしょうけど。私情に流されたって可能性もありますよ。ミス・ハイマーも今回の深三の息子の自殺には同情した、とかいろいろ。調べればわかることです。調べてみますけど、念には念を入れて、っと。消した記事が出来ました。公開するかしないかは編集長が決めてくださいよ」
俺が言えるのはここまでだ。新刊の記事を家で書いて、それを明日ここに持って来たならあとはミス・ハイマーの正体と、アイツが握っている(と仮定する)秘密を探り出すのが仕事だ。
それを探り出した暁には正義のヒーローっぽく教えておいたし、興味もなければそう映るだろう。後輩が書く記事が効いてくる。正義のヒーローは金に、情報に執着をする薄汚いドブネズミだった、って記事でドカン。正義のヒーローはミス・ハイマーでも、深三でもない。俺だ。
「あたりはあるのか?ミス・ハイマーの正体に」
「何となくなら」
「お前のことだ。意味のないことはしないんだろうが…やめておく」
「ご忠告痛み入ります。何とかいいネタ掴んできますよ」
「いつか刺されちまいそうだな」
「背後を気にする生活には慣れてます」
電気を消してくれ、と頼まれたから数人が残っているエリアと編集長が記事のラフを吟味している場所以外の照明を落とした。浮足立ちながら家に帰った。明日から行動を起こしても遅くはない。何なら早い方だ。本人たちはバレていないと思っている。このまま思い通りに事が進んで行くと思っている。
深三は圧力をかけていない、ということの証明をまた犯人を適当に見繕って、今度はそれをミス・ハイマーに流すことなく事態を終結させる。ミス・ハイマーは誤情報だった場合には謝罪をすることで有名だ。その姿勢を取る。それは今回も誠実、と評価を受け、底上げされた基本的な視聴数でがっぽがっぽと稼ぎを増やす。
そうはさせない。ミス・ハイマーがどこで情報を掴んでいるのか。それが本当に違法ルートなのか。深三は何を握られているのか。出来れば違法ルートに二人で存在していた痕跡が欲しい。
そんなにうまく行かないだろうな、と思いながら帰路を辿った。
大変な道こそ面白い。今後何が待ち受けているのか分からないが、暴こうとする俺はヒーローを名乗るにふさわしい。その自己肯定感で涙が出るほど。腹を抱えてしまいそうなほど。人目も気にならなくなりそうなほどに愉快だった。
ーーー
続く
ーーー
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