第46話・恋のクッキング

 部活中、和気あいあいと談話していると、突然ドアが開いた。

「たのも――――――――――!」

 ガラガラピシャンとドアが開き、女子生徒が顔を出す。

 その子は茶色の髪を二つにおさげにしている見た目だった。

 登場の仕方が男らしくて、一同呆然としている。

「ま、まぁ、落ち着いて……席に座ってもらって」

 部長が言うと亞殿先輩があわてて椅子を用意する。

 俺も慌ててお茶を入れてそっと机に置いた。

「お茶まで、ありがとうございます!」

 元気の良さそうな返事が返ってくる。

 ひとまずは落ち着いただろうか。

「私は久留巳くるみ胡桃こもも。2年生で人間族です」

 お茶をぐいーっと一気飲みして、カツンと机に置いた。

「こちらが相談したら100%上手くいくこいあい俱楽部と聞いてきました!」

「いやいや、それはちょっと誇張されてるねぇ」

 部員の顔を見るとみんな困惑してるようだった。

 たしかに今のところ好調ではあるけど、100%って前振りがあるとこちらとしても困ってしまう。

「100%ではないけど、相談は聞くよ?」

 部長がぐるりと体を入れ替えて、机から伸びる。

「ええ! 聞いてください! こ、恋の悩みなんですけど……

 私の好きな人が、同じ2年のクラスメイトのフェルディナンド・アルベインくんで、メデューサ族です。

 彼との仲がもっと親密になりたいなーって思っていまして……」

 段々と顔が赤くなってるところは可愛いなぁと素直に思う。

「親密になりたいっていうのは、付き合いたいってこと?」

 与羽瀬先輩が聞くと、久留巳先輩がこくりとうなずいた。

「いま、同じ学年、同じクラス、同じ料理研究部に所属してるんですけど、やっと友達にはなれたかなーぐらいで。そこから少しでもいいから恋愛に近づきたいなぁと……」

 ふむふむ。接点が多いのは良い事だと思うが、あとはアルベイン先輩がどう思っているかだと思う。

「久留巳ちゃんは、アルベインくんを想って結構経ってるん?」

 亞殿先輩が聞くと、久留巳先輩はぱっと顔を上げた。

「はい! と言っても学園に入ってからの2年ですけど。その間は彼の事を良く調べて、できるだけ近づけるように苦心してきました!」

 まさに恋に生きるという感じだ。

「でも成績を落としたりしたらアルベインくんの所為になっちゃうから、勉強も頑張ってきました!」

「それは素晴らしいわ」

 赤延先輩が手と髪とで拍手を送る。

「あとはアルベイン先輩が実際どういう人なのか見たいですよね」

 俺の意見を言うと部員みんなの視線が集まった。

『それなー』

 皆に言われながら指もさされる。すこしイラっとするけど、部長のちいさい手で指をさされるのも可愛い。

 ということで現地調査を行うことになった。


 次の日、都合がついたのは与羽瀬先輩と俺の二人だった。

 料理研究部の料理実習を隅から覗いている。

 友人たちも協力してくれているのか、久留巳先輩とアルベイン先輩は隣同士で作業していた。

「二人の共同作業とは良いねぇ」

 与羽瀬先輩がポツリと呟く。

「本当にメデューサ族なんですね。髪がうねうねの蛇だ」

 俺も呟く。アルベイン先輩の髪は途中から蛇になりうねうねと動いている。今は三角巾を被っているが蛇たちは元気よくうごめいている。

 その一匹が邪魔になりそうな位置に移動してきた。

「アルベインくん、蛇が……」

 久留巳先輩がその蛇に手を伸ばそうとした時、

 シャー!

 蛇が噛みつこうと襲いかかる。

「危ない!」

 すんでのところで、アルベイン先輩が手の甲で蛇を受け止める。手の甲にがぶりと蛇が噛みついて、そして蛇は気まずそうに口を離した。

「大丈夫か? 今日はこいつの機嫌が悪くてな」

 アルベイン先輩は噛まれた手を振るが、血が垂れてきている。

「貸して!」

 久留巳先輩はアルベイン先輩を噛まれた手を取り、傷口にキスをした。

「⁉」

 身をこわばらせるアルベイン先輩だったが、久留巳先輩は手の甲の傷を吸い、シンクにペッと吸った血を出した。

「ホントは器具で吸い出すんだけど、毒あると大変だから、ごめんね!」

 何回かアルベイン先輩の手の甲を吸い、血を吸いだした。

「あぁ、こいつは毒が弱いから大丈夫だ。それに蛇の毒は俺には効かないから……」

 もごもごとアルベイン先輩が言うと、久留巳先輩が徐々に赤くなる。

「好きな人の手を握ってること、手の甲吸ったこと、今気づいたっぽいね」

 与羽瀬先輩が指摘するとおり、二人とも赤くなっている。

「これは既にいい雰囲気なのでは?」

 誰に言うでもなく呟いた。

「んね。聞いてたよりいい雰囲気だねぇ」

 それでもこいあい俱楽部に来るということは先に進めないのではなかろうか。

 これで進めないのは確かにつらいかもしれない。

 このあとも調理実習室の片隅で二人を見張っていたが、まぁ、久留米先輩が照れで繰り出す暴走をアルベイン先輩がフォローしつつ、暴走するという、料理が料理になってなかった。

 料理研究部の部員の人にもそれとなく聞いてみたけれど、やっぱり仲は良いらしい。雰囲気もいいので部員たちは邪魔しないようにしているらしい。

 ただ、2年間それ以上距離が進むことが無いのだそうだ。

 それはそれでもどかしい。

 お互いが好きなのに、それ以上進めないのは逆に苦しいだろう。

 そう思うと二人に協力したいという気持ちが強くなっていく。

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