第28話・吸血鬼友達

 瀬名と吸血鬼トークを話しながら、血液を操作して凝固させる芸も、彼に見てもらった。

「おお、血液操作できるじゃん。純血はいざしらず、ハーフブラッドがやれるっての初めて見たわ」

 そう言ってもらえて、ちょっと俺の鼻も高くなる。

 高くなった鼻は、瀬名が見せてくれる硬質化した完璧な血液の剣で折られるのだが。本場はすげぇ。

「なら今度はオレの見せた変身も習得しないとな」

 綺麗な顔でさらりとそんなことを言う。

「いや、それって高度な術じゃない?」

 言うと、瀬名が笑う。

「ハーフブラッドで出来た奴みたことないけど、一士は頑張ればできそうだからさぁ」

 やったことがないから、試してみるのは面白いかもしれない。

 うーん、と唸りながら「変身しろ!」と念じる。

 ボンと音と煙は上がるものの、変身できたのは足の先や手の先だけだった。

 失敗した鱗の手足を見て、瀬名が言う。

「一応変身の流れができてんのはすごいな。しっかし、何になろうとしたんだ?」

「いや、龍になれるかなぁって。部長みたいな」

 言うと瀬名が大きな声で笑った。

「あー、龍は難しいって! 属性が高位だからなかなか上手くいかない。それをやろうとする奴も滅多にいないけどな!」

 バンバンと背中を叩かれる。

 龍は高望み過ぎたか……ここは、亞殿先輩みたいな角付けるだけとか、狼の獣人になる、とかの方がいいのかもしれない。

「でも一士はすごいな。ハーフブラッドなのに血液操作や変身もできるのは見た事ない」

「すごいと言われても全然実感ないけどね。一発でうまくできてるわけじゃないし」

「そうは言っても潜在的なポテンシャルが高い。こりゃー、噛みついた奴は高位の吸血鬼かもな」

 ここでようやく、噛みついた彼女についてのヒントが出てきた。

「ハーフブラッドのポテンシャルもが高い、イコール噛みついた相手は高位ということ?」

「多分そういう事なんじゃないかな? あんまオレもわからんけど」

 でも、大きな一歩のような気がする。

 彼女は高位の吸血鬼かもしれない。

 それだけしかまだ分からないけど、それだけでもわかって嬉しかった。


 瀬名から、血は輸血パックからだけでなく、自分の身体から出すこともできると聞いた。

 手のひらに念じると、シュルシュルと渦を巻くように小さな赤い渦巻が出てきた。

 それは手を傷つけることなく血を体外に出せる技だった。

「まぁ、血を出すのやり過ぎたら、当たり前に貧血になるから注意な」

 瀬名に念を押される。

 結局、血液操作で武器作るなら輸血(紙)パックがあった方が良いということが分かった。

 手の中の赤い渦は『戻れ』の命令で手の中に戻っていく。

 そしてこの前の吠崎先輩が腹部を怪我して、その失血を止めた話をすると、瀬名が青い顔をした。

「いや、それ上手くいったからいいけど、いや一士だから上手く言ったのかもしれないけど、体外の血だけを固めたのはグッジョブだな。下手しい、ちょっとした命令違いで、相手の体内の血を止めかねない。おれは怖くてできないな。しかも他人の血だろ? こえーわ」

 と言われてしまったが、あの時は無我夢中であまり覚えてないが、必死だったのは嫌でも覚えている。

 どうやら吸血鬼の認識では他人の血を使うのはちょっと怖い。というのがあるらしい。

 俺は最初から他人(輸血パック)の血でなんとかしていたけれど。

 でも確かに、自分の血を操作する方が楽の様な気がする。


 そんな中で俺は瀬名に何気なくきいた。

「小嶋先輩もいずれは噛むの?」

 そう言うと、瀬名の笑顔が固まる。やばい振る話を間違えたか。

 瀬名の目は遠くを見るように中庭をみている。

「そういうのはやっちゃうと、俺のエゴみたいになるじゃん」

 確かに。自分の種族に引き入れようとはしたいけれど、説明もなく噛めばエゴになる。

「そもそもハーフブラッドって、寿命どんくらいなの?」

「今の医療技術なら治療すれば3年で治るし、何もしなくても20年くらいは老化が止まる。でも時が過ぎればいずれ老化と寿命はくる。だから本当に吸血鬼になりたいやつは『シングルブラッド』にするための儀式をする」

 新しい単語がでてきた。

「シングルブラッド?」

「昔はあんまり使われてなかったけど、純血って意味だ。簡単に言うとハーフの血をシングルにする。そうしたら純血の吸血鬼。不老不死になれるってわけ」

 ふむふむと頷く俺に、瀬名はふっと笑う。

「お前もそうだし、瞳子もそうだし、二人ともどっちを選ぶんだろうな」

 人間か吸血鬼か。

 あらためて吸血鬼になりたいとは考えた事が無かった。

 気づいたときにはハーフブラッドになっていたのだ。

 不老不死も求めてはいないけど、改めて見ると、不老不死に近い知り合いは多い。

 彼らと共に長く暮らしたいとは思うが。

「二人ともオレは尊重する。たぶん。でも寂しくはある」

 瀬名は優しい目をしている。

「俺は」

 3年後も20年後も、

「精一杯、みんなと今を楽しむ」

 いまはそれしか思いつかない。それしか思いつけないのが少し悔しい。

「そうだな」

 瀬名がニコリと笑った。

「改めて……」

 彼に向かって俺は手をだした。

「友達よろしく」

「よろしく」

 がっしりと握手した。

 何年後も、何十年後も、そうありたいと思う。

 命の長い大事な人が、できるかぎり寂しくないように。

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