第11話・本人たちは真剣です

「でも、触れ合うってことは、特に恋人同士では重要やん?」

 亞殿先輩が言うのに俺も続く。

「さっきもですけど、御子柴先輩が項垂うなだれてるとき、有栖先輩が背をさすってたように、触れ合いはできてますよね……」

 俺が言うと二人は驚いたように顔を見合わせた。

 いや、気づいてなかったんかい。

「そういえば……」

「背をさすってもらうのは平気っすね……」

 改めて有栖先輩が御子柴先輩の両頬をつねると、彼の顔がキューっと一気に赤くなる。

「触れた時に意識するとダメみたいですね」

「らめみらいっふ」

 有栖先輩が頬を離すと、また彼の顔色が戻っていくのは見ていて楽しくもある。

「うーん、難儀だねぇ」

 部長がうなりながら宙で身をよじった。

 そんな中、赤延先輩が自慢の黒髪で挙手をする。

「はい、赤延君」

 部長の言葉に立ち上がる赤延先輩。

「見ていて感じたんですけど、御子柴先輩はセックスとかエッチなものに対して、エッチだからダメ、という意識があるのでは?」

 ずばり包み隠さない言い方に他のメンツが面食らう。

「だから、その意識を変えないと、たぶんなかなか進展しないんじゃないかなって」

 正論オブ正論に部室内で、ちょっとしたスタンディングオベーションが起こる。

 赤延先輩は照れながら着席した。

「たしかに。琉生の口癖なんですよね「エッチなことはダメ!」って」

「意識してみると、確かにそういうところはあるっすね……」

 二人はふむふむと頷いている。

 そこに亞殿先輩が真似て手を上げる。

「はい、亞殿君」

 部長もきっちり名指しした。

「ノベちゃんの意見も最もやし、改善するのは重要やけど、パートナー側からのサポートもあった方がええんちゃうかなって」

 と、有栖先輩を見る。

「スキンシップを男性に任せる文化もあるけど、女性からいってもええんちゃう?」

「それは……」

 有栖先輩はうつむいてしまう。

「それこそ恥ずかしいかもしれへんけど……」

 言い終える前にそれは爆発した。



「やっぱり女から襲ってもいいんですよね⁉」



「真里亜のエッチ―!」

 言って御子柴先輩は手で顔を覆ってしまう。

「肉食女子だったん!?」

 亞殿先輩もこれにはおどろきである。

「いつも隙あらば襲おうと思ってるんですけど、これでもシスターを目指す身。はしたないと我慢に我慢を重ねてはいるんですが……」

 シスターを目指していたのは初耳だが、見た目が清楚系なのもシスターを目指す一環なのだろうか。

「やっぱり、うら若き10代ですからねぇ……」

 飢えた野獣のような目で有栖先輩は、御子柴先輩を睨みをきかせている。

「そんな目でオレを見ないでー!」

 もう御子柴先輩のセリフは女性のものでしかない。

「琉生、そんなことを言っても貴方も成人の儀を迎えないといけないでしょう!?」

「そ、それはそうだけど……」

 おもむろに有栖先輩が立ち上がり、御子柴先輩の顎をクイと持ち上げる。


「大人しく、私に抱かれなさい」


「はわわ~♡ 真里亜かっこひい♡」

 

 ある意味で御子柴先輩が有栖先輩に落ちた理由もわかりそうな一幕である。

「これで問題ないなら良いんだけどね……」

 部長の一言がまさに正鵠を得ていた。

 ここまで出来る二人であっても、なかなかこの先には進めないのである。

 その証拠にお祈りのポーズをしている御子柴先輩の顔が真っ赤で、そうとう恥ずかしいのを我慢しているのがわかる。

 二人は空咳をして、居住まいを整えて椅子に座る。

 その顔は真剣に悩んでいる人の顔だ。

 何か、この人たちに言えることはないだろうか。

 必死に脳内を回転させる。

 そして、

「はい」

 俺は挙手をした。

「はい、多田野君」

 部長に指され、ゆっくりと起立する。

「2年で恋仲まで進展できたのなら、もう2年かけてはどうでしょうか?」

「でも、淫魔族の成人の儀があるっす」

「そこが問題なんですよね。きっともう2年かければ、きっと二人は円満に進展できると思うんですけど……すみません」

「いえ、一緒に悩んでくれて、ありがとうございます。確かにあと2年あれば二人とも円満にセックスできたと思います」

「真里亜、せっかく多田野君が誤魔化したのに強調しなくていいんだよ……」

 ちょっと泣きっ面に蜂です、有栖先輩。

 玉砕した俺に亞殿先輩の目が優しい。その先輩が挙手をする。

「はい」

「はい、亞殿君」

 先輩は起立すると懐からRPGの冒険モノの様な革の袋を取り出した。

 小さな声で部長が「おっ、それ出すんだ」と言ったのを俺は聞き逃さない。

「まぁ、最後の手段といいますか、おれ、ユニコーン族やん。今は馬の姿はしてないけど。だからこの角に強力な水の浄化作用あってな。それを使って、うちの家系みんな生薬とかを育ててる薬屋なんよ。だから俺も常備薬とかはこうして持ってる」

 机にそれを広げる亞殿先輩。葉っぱやらカプセルやらいろいろなものがビニールのパックに入れられて、ちょっとしたヤバい売人のようだった。

「見た目はちょっとやばめなんやけど、例えばこうして、コイツとコイツとコイツ。この三種類を合わせると、ちょっと男がムラムラしちゃうお薬になったりする」

 三種類の生薬を混ぜて、カプセルに仕込む。そうして2つの生薬カプセルができた。

「ムラムラしちゃうお薬ですか!?」

 思いっきり食いつくのは肉食女子代表の有栖先輩。

「……でも」

 御子柴先輩は恥じらうかと思いきや、難しい顔をしている。

「淫魔族にそれがどれだけ効くかっすね……」

「そう! このカプセルは人間ベースで作ってるから、そんなムラムラする薬に長けてそうなインキュバスにどれだけ効くかわからん。だから今回は……」

 三種の生薬をさらに持ち出して、また2つの生薬カプセルができた。全部で4つのカプセルが並べられる。

「人間ベースの薬が4つ。ハッキリ言ってこれはヤバい。致死量とまではいかないけど、人間が全部飲んだら救急車に運ばれるレベルや」

 その4つのカプセルに部室内の一同の視線が集まる。

 だれかのゴクリという唾を飲む音も聞こえたが、自分かもしれなかった。

「試しに2つ飲んでみて、効きが弱いと思ったら順々に足していく。どや、やってみるか?」

 静かな部室がさらに静まり返った。

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