🌕月の清掃隊
たねありけ
【急募】月の清掃隊
宇宙歴三百六十二年。アース第三衛星軌道に浮かぶクロスゲート管理室にて——
「孫課長、“ケンタα観光社”より要望書が届いてます」
「ありがとう、狼川主任。何々……?」
——拝啓、アース管理者様。日頃より大変お世話になっております。先日、弊社の『アース・オリジンツアー』にて、地球を観光させていただきました。その際は特区公園への滞在にご高配を賜り誠に感謝しております。超古代遺跡のピラミッドや万里の長城など人類文明発祥地の巡礼を終え、お客様からはご好評いただけたところです。しかし一方で月に関するクレームが多数寄せられました。『うさぎが餅つきしている姿が見えると聞いていたがどこにいる!』、『超古典にあるように満月のときには魅惑的な白い姿が見られると思ったのに、どうしてカラフルなの?』といった具合です。確かに現地から見上げても、古典文学家の言葉通りに見えることはありません。母なる地球への敬意もこめて、是非ご対応をお願いします 敬具——
孫は管理室の遮光壁を透過モードに切り替えた。
目の前に浮かぶ母なる青き惑星、地球。
その傍らに浮かぶ第一衛星の白磁の月。
だが——そこあったのは色とりどりの何かで埋め立てられた無残な月の姿だった。
「おい、兎田係長」
「何でしょう、課長」
「貴様、第一衛星の巡回をサボったな……?」
「え? そんなことありませんよ。ちょっと火星のおばあちゃんちでおはぎを食べたり、“アステロイドにこにこ貸出農場”で畑を耕したりしたくらいで……僕も現地の調査は行っていますよ」
「ならどうして、これほど無残な姿になっているのだ!! 峡谷が不法投棄で埋め立てられているのだ!! 異常事態なのは見ればわかるだろう!!」
「え、えっと……その……どうしてでしょう?」
じろりと睨む孫の視線に俯いた兎田はそのウサ耳をぴくぴくさせた。
「孫課長、よろしいでしょうか。あたし、少し気になることがあります」
「どうした、狼川主任。気になることとは?」
「はい。先日、シリウスβ幻想社より発売された『イデア具現化装置』はご存じですか?」
「CMを見た覚えはある。電送文学を具現化して観測するという、贅沢なお遊び装置だろう」
「そうです、それです。その装置から出力された汚い言葉が、ちょうどあの不法投棄のような色合いなのではないかと……」
「何!?」
管理室の面々は急遽、現地調査を行った。
その結果、予想通り月の上空に『イデア具現化装置』が発見された。
「よし、無事に除去したな。これで新たなゴミは発生しないだろう。まったく誰だ、こんなものを浮かべたのは……」
「でもこの具現化された概念物質、どうします? 物理除去じゃ予算も時間も足りませんよ」
「具現化したものなら、概念対衝に決まっているだろう?」
「え? そんな高価なもの、うちの予算じゃ……」
「係長。もちろん君の給与の前払いに決まっているだろう?」
「そんなああぁぁぁぁ! ご無体なあぁぁぁぁぁ!」
こうして月に溢れた“汚れた”概念物質除去のため、概念対衝装置を用いた“綺麗な”言葉による除去作戦が始まった。
だが、彼らはすぐに大きな問題にぶち当たった。
「ダメだ、私には文学的才能がない……たった千文字でもう限界だ……」
「僕もですぅぅ。AIも使わずにこんなに概念を量産できるの古代の文学家だけですよぉぉぉ……」
「あの。あたしに良い案があります!」
「何だ、言ってみろ、主任」
「亜空間ネットワークに接続して、綺麗な言葉を書ける人に書いてもらうんです! 餅は餅屋ですよ!」
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【急募】月の清掃隊
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