私が悪役令嬢でいる理由

alice

第1話

最近、長年勤めていた会社をクビになった私はゲームにはまっていた。

もはや依存していると言っていいほどで昼夜逆転は当たり前だし、ここ一週間ぐらいは外にも出ていない。


「くぅ〜やっぱサイコ〜!」


ビールを飲んだあとのおじさんのような声が誰もいない部屋に響き渡った。


いったん区切りがついたので、ゲーム機の画面から目を離すと目がシバシバしてきた。

浮かんできた涙が一人でいることが寂しくて泣いているように思えてきて慌てて浮かんできた涙を服の袖でゴシゴシ拭うと再び画面に目を戻す。


私は今話題のゲームである『約束の丘で』をちょうど2週し終えたとこだ。

ゲームの画面からはエンディングとともに主人公とヒロインのキスシーンが流ている。


「最後の主人公とヒロインのキスシーンが何度見ても一番ぐっとくるんだよねぇ〜」


このゲームは平民出身の主人公が魔王を倒しヒロインと結ばれるというよくある普通のゲームだ。


始めはそこまで面白くないんだろうなぁ〜ぐらいにしか思っていたのだが蓋を開けたらなんと……めちゃくちゃくちゃ面白い!


何かにつけては虐めてくる悪役令嬢とその取り巻きや時には主人公が国外追放されかけるなど色々な障害があったものの最後には2人は結ばれるのだ。


ハッピーエンドほど嬉しい展開はない。


胸いっぱいの満足感を胸にゲーム機を手に持ったままベットへとダイブする。

ボフッという間の抜けた音がしてベットが私を優しく受け止めてくれた。


昂った感情をどうにかして抑えようとして枕の傍にあったお気に入りのぬいぐるみを抱えてごろごろとベットの上を転がる。


「ん~~……!」


数分ぐらいそうしていただろうか、ふとゲーム機の画面に何か映っているのに気づいた。


ごろごろするのをやめて座り直し、改めて画面を見る。


「……ん?何これ?〜私が悪役令嬢でいる理由〜……?」


画面には見たこともない聞いたこともない題名のゲームが表示されていた。

その前には約束の丘でと書いてある。

なのできっと私の知らない『約束の丘で』の新作なのだろう。


そんなのあったけと不思議に思いながらも私はベットの上に座り込みう〜んと腕を組む。


「これって悪役令嬢アイリスのこと……。だよね?」


アイリスとは主人公とヒロインを虐めていたキャラで特に努力もせず学年のテスト順位はいつも下の方だった。

ただ爵位が公爵家なのもあって平民出身の主人公と子爵家の令嬢では公爵令を簡単には追い払えないのだ。


まぁ貴族社会だし、逆らったら村八分みたいなことになるからねぇ〜。

だからネットではファッ○とか色々と悪口を言われていたけど……。


指が確定ボタンと戻るボタンの間を行き来する。


まぁとりあえずやってみるかぁ〜


そんな軽い気持ちを抱きながらまたベットに寝転がると確定ボタンを押した。



ジジジというノイズとともに映像が流れだす___。









午後の穏やかな風に吹かれながら婚約者である2人は薔薇が咲き誇っている庭園を歩いていた。

ちょうど今が時期らしくどこを見渡しても薔薇が綺麗に咲いている。


この場所は私とルクス様が初めて会った思い出の場所だ。


私達とも親同士が決めた婚約だったし始めはお互いに特に興味もなかった。

だけど、今までそんな子がいなかったからかたとえそれが政略結婚であったとしてもいつの間にか2人はお互いを好きになっていた。


そして今隣りにいるルクス様は忙しいにも関わらず私のために予定を開けてくれたのだ。

そのことを思うと嬉しくて顔が火照ってしまう。


いつものようにからかわれたくなくて火照った顔を隠すようにハーフアップにした黒髪の一部を指に巻き付けたりほどいたりして気持ちを落ち着かせる。


少し下を向きながら歩いていていると隣を歩いていたルクス様が急に立ち止まった。

驚いて火照っていた顔のことも忘れてルクス様の方を見る。


いつの間にかこちらを向いていた顔は少し赤くなっているような気がした。


___きっと気の所為に決まってるわ期待なんかしないほうが身のためよ


どこからか音声が流れてくる。


自分のことなのになぜか他人事のように思えるのはなぜだろう。


___あぁ、そうだ。きっと、これが夢だから……きっともう過ぎ去ったことだから……。


するとルクスは近くにいた侍女から綺麗に包装された包みを受け取るとおずおずと差し出してきた。


「その、遅くなったが……アイリス、誕生日おめでとう。」


ぶっきらぼうに言ったのは照れ隠しだろうか。

それが少しおかしくて私はクスリと笑いありがとうございますと言って包みを受け取る。


その包みはずっしりと重かった。

中身が気になった私はその場でゆっくりと包みを開ける。


「わぁ……」


その中に入っていたのは私の目の色と同じ色のアクアマリンのペンダントだった。

こういう物に疎い私でもこのペンダントが相当高価なものであるということがわかる。

もらったペンダントを太陽にかざしてい笑っていると


「気に入ってくれたようで何よりだ。」


とルクス様が朗らかに笑った。


これは学園に通っている令嬢達が黄色い歓声を上げるわけだと一人納得する。




すると突然

バリィンと音を立てて景色が砕けた。


砕けた先の景色は王宮だった。

雨の日なのか重く苦しい空気が流れている。


「アイリス、……すまない。婚約が解消されることになった。」


そういうルクス様の顔が苦しそうで…でも今思えば私も酷い顔をしてない他に違いない。


___私は、


またバリィンと何かが割れた音がした。


「アイリス姉様。ごめんなさい……わたしのことはもういいから……。」


青白い顔をしながらか細い声でそういった妹のセナはすべてを諦めたような光が灯っていない目でそう言った。


「そんなこと言わないで……。セナは私が守る。きっと大丈夫よ」


だから後少しだけ頑張ってと泣きそうになりながらも無理やり笑みを作った。


___本当、は……



また景色が音を立てて砕けたと思えば自室が映った。



「……分かってたでしょう?どう頑張ってもこうなるんだって」


目に涙をにじませながら唇を血がにじみそうになるほど強く噛み締めた。

遅れて針に刺されたような痛みがやってくる。


「お姉様やお兄様がそれを証明していたじゃない……っ」


でも、どうしても希望が捨てきれなかった。心どこかで自分はうまくやれると思っていたのだ。


それなのに……この有様。姉様達と何も変わらない、変えられない。


「大事なのはあきらめないこと」


いつか姉様が言った言葉だ。

そうやっていつも姉様は私を励ましてくれた。

だから今まで心が折れずにやって来れたのだ。


私は黙ってただ過去の自分が苦しんでいるところを見ていた。


___こんなにも苦しんで、ほんっとバカみたい。滑稽ね。


今なら過去の自分の苦しんでいる自分を見ても同情はできない。

もう自分は戻れない所まで来てしまったのだから。


__私は前に進むだけよ。もう何もかも手遅れだとしても。











いつの間にか寝ていたのか目を開けると外は暗くなっていた。


「……ん?ここどこ……?」


マンションの部屋に居たはずなのに私はいつの間にか西洋風の豪華なお屋敷のベットの上にいた。

しかもいつの間にかひらひらした白い服を着ている。


視界の端に見えるのは『約束の丘で』に出てきた悪役令嬢のアイリスと同じ長く美しい黒髪が見える。


ハッとして近くにあった化粧台に走って行き、自分の顔を確認する。

鏡に写ったのは前の自分とは似ても似つかない悪役令嬢アイリスの顔が映っていた。


「………えっ…ど、どういうことぉ〜!?」


おおよそ令嬢が出してはいけないような大声が屋敷に響き渡った。















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