幼馴染たらしの冒険日記~一人前の冒険者を目指す僕と強くて過保護な勇者3人~
ほつれ
第1話 夢見た仕事、冒険者
ある日、村に来た占い師に言われた。
「あなたは……どう頑張っても背は伸びないし、強くはならない。でも、きっと……あなたにしかなれない“何か”になる。だから、迷わず突き進みなさい。その先に、答えはあるから━━━」
その言葉を信じて、僕──アラトは今日も夢を追い続ける。
一人前の、冒険者になるために。
◇◇◇
「よ、よし!」
緊張、躊躇いもあるのか。
少し古びれて、重く感じる扉を開ける。
中に光が差し込むと同時に、豪傑な男たちから僕に飛ぶのは奇異、異物を見るような目線。
外と比べて嫌な活気に満ちている。
なんというか、生々しいというか、酒と鉄の匂いがそうさせるのだろうか。
「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドへ」
僕は、虎の尻尾を避けるように、慎重に受付へと足を進める。
「あ、あの登録を……」
「はい?」
「いやあの……冒険者登録したく…て……」
言い切った。
こんなことなのに、達成感がすごい。
「ああはい登録ですね……お名前は?」
紙を取り出し、話しながら筆を進める受付嬢さん。
「アラト・イオラです」
「はい……職業は」
「あの、見守り役……です……」
「は?みまもり……?」
そう、神から与えられるという“職業”。
あれは、8歳のころだった。
◇◇◇
「おお!あなたの職業は……勇者と剣士!」
「っしゃあ!」
3個前にいる友達が、歓喜の声を上げる。
「あなたの職業は……勇者と神官!?」
「承りました。我らの神に誓って、名に恥じぬ活躍をして見せます」
粛々とした祈り。
「あなたは……勇者と魔法使いです!」
「……」
何も動じず、後へと戻る。
「これで3人目!?」
「こ、この村も安泰じゃ……」
見慣れた人たちの、聞きなれない声。
声色だけで伝わってくる喜びの感じ。
一歩前へ出る。
やっと僕の番だ。
この流れなら、もしかしたら……
「あなたの職業は……見守り役?です」
少し疑問めいた声。
淡い、短い夢だった。
期待した分だけ、落ちてしまう。
「はい……」
そんな感情が、声に漏れてしまった。
それを察し、憐れむように見つめる前の神官さんは……。
「アラト・イオラ。落ち込むのではありません。神は、人にそれぞれ職業として、役割を与えているのです。それが人と違うだけ。だから、前を向きなさい」
◇◇◇
あの時の神官さんの顔、忘れられない。
心労をかけさせてしまった。
今度帰ったら謝っておこう。
「みまもり……なんですかそれは?」
「いやその……よくわかんなくて」
そう、本当によくわからない。
何かできた試しもないし、そもそも同じ人を見たことがない。
「え?」
「あ、でも生活魔法くらいなら魔力なしで使えるみたいです」
「はあ……まあとりあえず、はい」
スッと渡されたのは、横長のカード。
ずっと欲しかった、夢見たものが、僕の目の前にある。
「はああ!!」
「これに血を垂らしたら、登録完了です」
「ありがとうございます!」
そう聞いて、僕は早速手持ちのナイフで指先を切る。
「いてっ」
垂れた血を、円が描かれた部分にこすりつける。
すると、淡く光ったと思うと血の跡が消えたと共に、Gという文字が浮かんだ。
「早速依頼受けたいんですけど!」
「はい、それならスライム退治でも行ってください。どうせその掲示板にあると思うので」
「え、そういうのって渡してから行くもんじゃ」
「あとで取っておくのでいいんですよ。じゃあいってらっしゃい」
「あ、はい行ってきます……」
そうして、僕はギルドを後にした。
◇◇◇
そんなこんなで到着した。
スライムの生息地だけど、この辺りだと森に少し入ったぐらいが多いので、今は森の、縦に少し開けたところにいる。
「えっとスライムスライム……」
辺りを見回す。
ぬちゃ……ぬちゃ……わずかにそんな音。
音の方に近づくと、草むらの奥から半透明の水色が出てきた。
ジェル状というか、これが生きてるなんてという、なんとも不思議な見た目。
「いた!」
これが、図鑑で見たスライムだ。
弱いの代名詞。
冒険者の登竜門的存在の魔物。
前にも2回ぐらい見たことはあるけど、図鑑より少し気持ち悪い。
「確かコアは……」
よく見つめると、スライムの体内に濁りのようなものが見える。
それを、このナイフで━━━
「やっ!」
一突き。
すると、一応原型をとどめていたからが、地面に同化していった。
そして残ったのは、なんだかぐちょっとした塊。
「やった!まずは1体!」
少し手にまとわりつくような塊は、スライムの魔石。
魔物はこのような魔石(生きてるうちはコアと呼ぶ)と僕らと同じ臓器とかの生物的機能のあるもので生きているらしい。
「よし!このまま依頼分とっちゃお!」
◇
そんなこんなで、依頼分どころか、ちょっと多めに取ってしまった。
「取りすぎちゃったかな……」
チラッと見た紙に書かれていた数より、いくつか多い。
やりすぎて生態系を壊してしまわないためにも、これから気を付けなくては。
「もう終わりかあ……」
少しの寂しさを覚えながら、帰ろうとしたその時。
「アギャ?」
少し奥から、何やら声が。
(も、もしかして……)
奥から近づいてきて、正体がはっきりした。
僕より少し低いくらいの背に、緑の体、小さい角、長くはないが尖った耳。
そして手には、粗雑に作られた石のナイフ。
間違いない。
「ご、ゴブリン!」
確かゴブリンは、Fランクの魔物。
今の僕はG,勝てるかどうか……
「ギャギャギャ!」
短い脚を走らせ、こっちに近づいてくる。
小さい体だけど、命を狙ってきてるのがわかるからか、怖い。
「やー!」
僕は闇雲にナイフを突き出す。
鈍い感触。
ちょうど持ってる方の肩に刺さったみたいだ。
「アギャー!」
少しひるんだと思ったが、その手は止まらず、ゴブリンの一振りが僕の頬を掠めた。
互いのナイフに、それぞれの血が着いている。
「うっ!」
あの指を切った時よりも、少し深く入ったようだ。
頭の中を襲ったのは痛みだけじゃない。
目の前の小さな怪物へのさらなる恐怖と、絶望的な非力さ、情けなさ。
(やっぱり、僕なんかじゃ…冒険者は……)
そう思った時。
ちょうど上の木から、ガサッと音がした。
そして━━━
「俺の」「「私の」」
「「「アラトに」」」
「何してんだ!」「何してるんですか!」「何してる」
声と同時に、吹き荒れる突風。
それが僕を吹き飛ばした。
「な、なにが起きた…の……」
前を見ると、見慣れた三人の風になびく背中。
「大丈夫か、アラト?」
「怪我はないですか?」
「動けないなら言って」
そんな、心配そうに僕を見つめる三人の後ろには、夢かと思うくらい大きなクレーターが出来上がっていた。
「あ…はは……」
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