ガトクタル

コトプロス

第1話 台辺城県 八梅市 岡科流町

 この世界には闇の結社や異世界からの放浪者、宇宙からの侵略者の危険に晒されており、人知れずそれらと戦う超常の力を持つ戦士達が存在した。しかしその超常のチカラを持つ人間は年々少なくなっていた。


 まあ、理由は単純に死亡率が高いのと、農家が少なくなったり、山で獣を狩る方の猟師が少なくなってるのと同じで割に合わないからと家業を継がずに一般職に子供が流れて行ったのが理由であったりする。


 そこでそういうのから日本を守るという影の組織である超常対策庁の管理職に付いている面員不楽めんいんふらく長官は人間に友好的な大妖や神獣に相談した所「台辺城県の人間をスカウトするが良い」との言葉を賜った。


 曰く、あの地は龍脈地脈のチカラの集まる所であり、良い悪いの区別無く「チカラ」が渦巻いている地域であると。だからあの土地の人間はパワフルが過ぎてつい問題行動を起こしがちだが、それはひるがえって超常のモノに対抗するチカラになるであろうと。


 台辺城県、八梅市、岡科流町はたいへん危険であり、ヤバいと評判で、その町に住むと頭がおかしくなるともっぱらの噂である。


 その町にある一大事高校の生徒は他校の学生から「アイツら何かヤバいブツでもキメてるんじゃないか?」とまことしやかに囁かれる様な問題児ばかりであった。


「もしもし?私だ。岡科流町という町の一大事高校に………」



 ◇◇◇



 俺の名は「江末斧月えすえふづき」は一大事高校の2年で無類のSF好きだ。キッカケはロボットアニメなんだが、ロボット以外にもスペースオペラみたいな宇宙戦艦モノや近未来的なガジェットでドタバタする系とかも好きだから大きくひっくるめてSF好きを名乗っている。


 時期は10月、俺はここ最近文化祭が近いからと友人の「東英二あずまえいじ」と「古見空也こみくうや」の3人で俺の家に集まってお手製のコスプレ道具を作ってる。バイトして貯めた金で念願の3Dプリンターを買ってさ。


 そんな何気ない日常、SF好きの俺としては「あぁ〜、宇宙戦艦が降って来ないかなぁ」とか「合体ロボが生えて来ないかなぁ」とか益体も無い事を漠然と思いながら歩くいつもの道。何気ない毎日。………だった。



 学校に到着し、靴を履き替え教室に向かっていると「全校集会があります。登校した生徒は速やかに体育館に向かって下さい」そんな校内放送が流れる。


 察するに、タバコや飲酒の形跡でも見つかったか?文化祭の時期だしありそうだけど、それで全校集会するか?


 体育館に入って並んでいるとしばらくして生徒が集まったのが確認出来たのか、体育館の扉が閉められる。


 「本日は我々ダークネスフィクサーズがこの国の超常対策課に先んじてあなた方の様な金の卵を確保しに参りました。パワーが渦巻くこの地で生命力溢れる若者を捧げる事により我々の神である暗黒神エターナルトゥナイト様をこの世界に召喚するのです!!」


 登壇した見覚えの無いおばちゃんがニッコニコで訳の分からない事を言い始める。え?何言ってんのこの人。頭イカれてるのか?いやまあこの街にはそういうの多いけどさぁ………


「薄汚い在野の術師や異世界からの干渉を我々が跳ね除けてこの国の覇権を握る為の糧となるのです!!」


 あー、魔法とか異世界とかがあると信じてる世界観の住人でしたか…………たまにこの街に湧くんだよね…………いつものか。


「あの忌々しい星々から見下ろしてくる異形のバケモノ、宇宙人を殲滅する方舟の為!あなた方は我々の神への捧げ物となるのです!!」


 宇宙人を殲滅する為の方舟かぁ、宇宙戦艦とか乗ってみたいよね。そこから「斧月、ナントカカントカ、出る!」みたいにロボに乗って出撃したい………


「ワケ分かんない事言わないでよ!捧げ物ってさぁ!アタシそんなのになりたくないんだけど!あ!もう教室帰って良い?!」


 すぐ近くに座っていた女子が野次を飛ばす様にして壇上のおばちゃんに食ってかかる。和釜舞子わがままいこさんか…………ワガママの体現者だからって傍若無人すぎるだろ!逆上して暴れられたら大変なんだぞ!


 「私は風紀院健平ふうきいんけんぺいである!私は一大事高校の風紀委員会として貴女の行いは看過出来ない!!今警察をよ……び………何故だ!何故スマホが圏外なのだ!これでは外部と連絡が取れないではないか!!」


 健平くんが取り乱してる。えっ、マジで圏外になってる?!ひょっとしてジャミング出してる機材とか用意したのか?もしあるならちょっと見てみたい気がする。


「話がダークネスナントカだけなら戻って良いスか?授業無いなら野球部の出し物準備したいんスけど」

「サッカー部も同じく」


 運動バカの勝戸橋かつとばし球坂修斗たまさかしゅうとが立ち上がり、他にもあちこちで生徒が呆れた様に体育館から出ようとする。


 「うるさい!! 生贄がガタガタ喚くんじゃないよ!! 少しは異常事態に怯ろ! 竦め! 日頃の行いを悔いながら死んでゆけ!!」


 おばちゃんが玉みたいなのを掲げると足元になんかでっかい空間の裂け目?みたいなのが出来る。マジか!空間に作用する何らかの力を働かせられる技術力がこの世界にあったのか?!ならSFガジェットとかも存在の可能性が高くなったな!


 俺が若干ワクワクしていると地面の感覚がなくなり裂け目に落っこちる。 

 ヤバいヤバい!落ちてる落ちてる!


 ぶべ!と地面に叩きつけられて変な声が出てしまったぜ……


 気づけば洞窟の様な所で1人立ちあがる俺。しかしここはドコだ?体育館じゃあないよな。いやまあ察するにエターナルトゥナイト様とやらが支配する亜空間みたいな感じかな?俺はアニメを見てるから詳しいんだ。


 しかしまさかこんなファンタジーな事象が本当にあったんだなぁ。あと………エターナルトゥナイト様は今更だけど名前ダッサ!


 とにかく孤立しているのはマズい。誰か居ないかと洞窟の中を進んでいるとギャー!という叫び声が聞こえる。

 ダッシュで向かうとついさっき壇上で演説してたダークネスフィクサーズとか名乗ってたおばちゃんに食って掛かってた「和釜舞子わがままいこ」が黒っぽいガリガリに痩せたイヌに襲われていた。


 明らかに普通の犬とは違うと分かる目つきで妖怪や魔物的なファンタジー系の怪異だと確信した俺は咄嗟に後ろからイヌを蹴っ飛ばす!


 ギャン!と言って走って洞窟の向こうに消えるガリ犬。舞子の方は両手の皮膚が裂けて服が真っ赤に染まっていた。


「舞子……さん、大丈夫か?」

「は?コレが大丈夫に見えんの?アンタ目ん玉腐ってんじゃない?もっと早く助けに来なさいよ!それよりあのオバサンが魔法?みたいなのを使う前にどうにか出来たでしょ!アタシの腕がこんなになって後遺症とか残ったらどうするつもり慰謝料は誰に請求すればいいのよ!アンタ?!あのオバサン?!」


 パニックになっていらっしゃる……まあいきなり犬に襲われてケガしてるからな……


「血とヨダレでベトベトだから着替えたい。水道で傷口洗いたい。アンタ………水持ってない?」

「あぁ、麦茶で良ければ使ってくれ」

「タオル」

 

 俺は無言でカバンから取り出す。傷口に麦茶をバチャバチャと掛けてタオルで拭く。その細腕に痛々しい生傷が現れる。女の子にコレは可哀想だな………跡が残らないと良いが。


「非常事態だからアンタのでガマンする。シャツちょうだい」


 俺は内心でため息を付きながらも上着を脱いでその下のカッターシャツを渡す。


「うへぇ生暖かくて気持ち悪い。でも血だらけベトベトよりマシか。」

 

 シャツをひったくると何をしているのか手鏡を取り出して暴れてボサボサになった前髪をいじり始める舞子。今そんな場合じゃないと思うんだけど………


 まあパニックになられるよりマシか!


 しばらくすると洞窟の奥、ガリ犬が逃げて行った方向から足音が聞こえた気がした俺は、無いよりマシだとカバンから3Dプリンターとホムセンの材料で文化祭の出し物として用意したガジェットを取り出す。


 鈍い金属光沢を放つ

(※缶スプレー塗装)

 無骨な重厚感を持つ手甲と

(※3Dプリンター製)

 戦闘用グローブ

(※塗装した軍手、手の甲と掌にそれぞれダイオードによる発光ギミック有)


 それらをしっかり右腕に嵌めてフィット感を確認するとタイミング良く暗がりから飛びかかって来たガリガリのイヌを咄嗟に殴り返す。


 ギャンッ!と鳴いて後退るが、舞子の事を諦めていないのかギラギラとした目でコチラを睨見つける。


「ヒッ!!は、早くなんとかしなさいよ!!そのバケモノを近づけないで!!」


 手のひらを眺めながらぐっぱぐっぱとグローブ(※ただの軍手)の具合を確かめる。


「な、なによそのグローブ……まさかアンタも魔法みたいな何か使えるの?回復魔法とか無いの?!」

「これは文化祭の出し物の小道具でただの軍手だ!!無いよりマシかなと思って付けてるだけで、魔法のパワーとかは………無い!」


 ガリ犬と格闘しながら舞子に説明すると背中に視線が突き刺さってる感覚をヒシヒシと感じた……


 しかし、この犬ガリガリに細いのに凄い力強いな!

 動きが雑になってしまったのかパンチが空振りした所で右腕に噛み付いてくるガリ犬。3Dプリンター製の手甲がミシミシと嫌な音を立ててひび割れ始める。


「いってぇぇ!明らかに普通の犬じゃなくて悪い魔法使いが操ってそうなクソ犬め!人間の叡智を喰らえ!!!」


 右腕に噛みつかれているという事は、俺の目の前にクソ犬の頭がある事だ。そして俺の左手はフリー!


「必殺!ヒヒイロギミック!」


 ポケットに入っている自転車のカギを左手で引っ掴むとクソ犬の目ん玉にぶっ刺す。


「ギャン!」


 しめた!右手から犬が離れた!


 犬の頭を両手でシッカリ掴むと両腕を振り回して地面に叩きつける!


「くたばれ!くたばれ!」


 3回ほど地面に叩きつけた後は倒れたガリ犬目掛けて全体重を掛けてストンピングを繰り出す。


 すると事切れたガリ犬は灰になって崩れ去って行った。やっぱ魔法の産物だったか………


「た、倒したの?」

「ひとまずは。でもコイツ一匹だけとは限らないし、早く誰かもっと多くの人と合流しなきゃな。脱出の仕方も分からないし」

「使えないわね。でもアタシは優しいからご褒美あげる。おぶって」

「足はケガしてないだろ歩きなよ」

「おぶって」


 ヒヒイロガントレット(※橙色発光ダイオード)で照らしつつ、背中の重みにため息をつきながら俺は洞窟の奥に歩みを進め始めた。



 

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