【短編小説】別れ話の先に

松下友香 

プロローグ

その日、君はいつもの喫茶店でうつむいて佇んでいた。

僕は、声を掛けるのを少しためらった。


ようやく僕が君の斜め前に座ると

君は少し顔を上げて僕の方を見て微笑んだ。


その微笑みはいつもと何も変わらないようで、

いつもと全く違うようでもあった。


そして君は意を決した表情で僕を見つめた。

「私たち、もうダメかもしれない」

僕は思わず、低くうめいた。

「別れましょう」

きっぱりとしたその言葉は、僕の胸を切れ味よく刺した。

その瞳は僕を真っ直ぐ見つめていた。



とっさのことで、僕はそのひと言に返す言葉を

何も持ち合わせてはいなかった。









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