第7話 迷子と少女

「マジでどこに迷い込んだんだよ…お前は!」

「ごひぇんなさい……(ごめんなさい)」

カムイにほっぺたをつねられながら、路地裏で休んでいた。

「全く……お前はめんどくさいことしかしないなー」

「ごめんってー、でも、カムイが僕を家まで送らないといけないと思うよー、そうじゃないとカムイが困ると思うから」

「はぁ?何で俺が困るんだよ?」

「だってー、カムイは家に帰れないから。僕と共に帰らない限り」

「はんっ!!何言ってんだ!帰れるに決まってるだろうが!!」

「そっか…、なら帰れば?」

「ふん!!言われなくても帰るさ!」

カムイの背中に真っ白な羽が現れた。とても大きくて、ふわふわの羽だった。

バサバサと羽を上下に動かして、空に飛び上がるとそのまま屋敷の方へ飛んでいった。

カムイの姿が見えなくなる頃に、僕は構えた。

そして……

「ルウィン・オーダー」

魔法を唱えた。魔法陣が現れて、また、カムイが登場した。

「へ?」

「やぁ!カムイ!飛んでいた時の快感はいいものだった?」

ギギギッて鈍い音が鳴るような雰囲気をさせながら、振り返って僕を見てきた。その顔はとても驚いている顔と共に絶望したような表情になった。

「……てめー」

「あはは!!言っただろ?僕を連れて行かないと困るのはカムイだって!」

「くっ……お前と契約したのが最悪だったわ」

不貞腐れた表情をしながらカムイは僕に着いてくることにしたようだった。


「それで、カムイ家の方向分かる?」

「はぁ…俺を道案内に使うなよ……」

トボトボと歩きながら、辺りを見回した。どこもかしこも壁……壁壁壁壁…

頭がおかしくなりそうだった。右に曲がったり、左に曲がったり……行き止まりになってて引き返したり…

「もーーー!!どこだよー!!ここはーーー!!!」

嫌になって叫んでしまった。その時だった。

「止まれ!ゼオ!」

「え?」

突然カムイが僕に向かって叫んできた。凄く睨みつけているカムイを見て、何かある!と感じた。急いでカムイの元に戻ると……

「何かいる……」

「え?……何も感じないけれど?」

辺りを見回しても建物の壁しかなかった。

「ここじゃねぇ、もう少し先の方からだな……多分魔力だと思うが……これは…人間か?」

カムイは極微量な魔力も感じるらしい。そして、その魔力は人間のものらしい。

「……この先にいるみたいだな」

「え、この先って僕らが帰る方向だよね?」

「……そうだな」

「マジかー……どうする?」

「ふむ……」

カムイも悩ましいことらしい。うーんと唸っていた。

「覗くだけ覗く?」

「まあ、何があるか気にはなるからな」

「よし!それじゃあ!行こう!!」

また、歩き始めた。何かいるその先に……


「………マジか」

「……ふむ、めんどくさいな、あれは」

建物の影から様子を見てみた。人は6人、2人の女の子と1人の女性、それ以外は男性だった。

女の子達は僕と同じか少し年齢が上ぐらいで、女性は大人ではなく子供で多分、マリアさんと同い年だと思う。

男性達は物騒な武器を持っていた。多分、盗賊とかそんな感じの……

「おうおう!金目な物を持ってそうだなー…おいガキ!よこせ!」

「い、いや!!来ないで!!」

「お嬢様!!離しなさい!!クズども!!」

「はんっ!!威勢だけはいいよなー…クックックッ……こういう奴の心をぶっ壊すのが楽しいんだよなー!!おい!この女を好きにしてもいいぞ!」

男の1人が女性に襲いかかった。

「いや!!やめて!離して!!触らないで!!いやーーー!!!!」

女性が悲鳴を上げた。

「ルワン!!離して!ルワンを離して!!」

女の子の1人が泣き叫びながら女性を離すように訴えているようだった。

「がははははは!!愉快愉快!おい!もっといじめてやれ!」

「「おう!!」」

男達が次々と3人に襲いかかった。

「うん……確定でめんどくさいね、これ」

「……どうするんだ?ゼオ」

カムイが僕の顔を見てくる。すっごく嫌そうな顔で……

「ふっふっふっ……当然!!行くよ?」

「はぁ……」

僕たちは突撃していった。


「誰か……助けて…」

女の子が小さな声でそう言った。

「大丈夫!助けるよ」

「え?」

「ごぁぁぁぁぁあああああ!!」

男の1人が吹き飛んだ。

「何だお前!!」

僕は手を前にかざして、男達を睨んだ。

「その子達を離せ」

「はんっ!!ガキか……1人で俺たちの相手をするのか?」

バカにしたような表情で僕を見てきた。

「……舐めてると痛い目に遭うよ?」

きょとんとした顔をした男達は、大声で笑い出した。

「がははははは!!痛い目に遭うって?どうやって?ガキの攻撃なんて聞かないんだよ!!」

「そっかー……じゃあ、容赦なくやっちゃっていいよね?」

「あ?」

次の瞬間……

「グガァァァァァァァァアアアアアア!!!」

「ひっ……」

僕の目の前に大きな白い狼が現れた。雄叫びを上げて、男達を威嚇した。

「さぁ!やっちゃえ!カムイ!!」

「美味そうな人間どもだな……クックックッ……食い尽くしてやる」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

カムイが次々と男達に噛みつき出した。丸呑みにされた者、手足を噛みちぎられた者、泣き叫ぶ者……様々だったが、カムイのおかげで男達が壊滅した。


「うむ……不味いな」

「不味いんかい!美味そうって言ってたじゃん!」

「心が腐ってる奴は不味いんだよ……はぁ……肉食いたい…」

「家帰ったらあげるから我慢して」

「クソッ……」

ゆっくり歩いて、女性のところへ向かった。男達にやられたのか服がはだけていた。

「大丈夫ですか?」

「……は、はい」

ブルブルと震えていた。僕は自分の上着を彼女にかけてあげた。

「これ来たらまだ、マシになると思うから」

「……ありがとうございます」

小さな声でそう言った彼女は、とても辛そうだった。

僕は立ち上がると、2人の女の子のところに向かった。

「大丈夫?怪我してない?」

コクンッと頷いた女の子。緑色の綺麗な髪で、くりくりとした大きな目で僕を見てきた。

もう1人は、ひどく怯えていた。

(まあ、そりゃそうだわ、カムイのを見ちゃったしね)

怯えている子には話しかけないようにして、緑髪の女の子が話せるかどうか様子を見た。

「良かったー、無事なら……えっと……とりあえず、この場所から出ようか」

僕がそういうと、3人とも何とか立ち上がった。

「カムイ、3人の護衛頼んだよ?」

「了解」

3人をカムイに任せて、僕は先に行くことにした。


「よし、ここなら大丈夫じゃない?」

「まあ、何も気配がしないから大丈夫だと思うぞ」

カムイからも許可が降りたので、あの場所から数十メートル離れた場所で休むことにした。

「3人とも大丈夫そう?」

女の子達に話しかけたんだが…

「………」

まだ警戒されているのか、それとも、怖いのか、話してくれなかった。

「あの…」

「ん?」

女性が僕たちに話してくれた。

「どうして、あの場所に?」

「あー、実は、迷子になっちゃって」

「ま、迷子……」

「たまたま、あの場所にー……」

「そうなんですね…」

(あ、これ、信じてない感じだな…)

訝しんでいるような雰囲気があった。だから…

「カムイーそうだよねー」

「はぁ……そうだな…絶賛迷子中だ」

カムイにも同意を求めておいた。

「君たちこそどうしてあんなところに?」

すると…話さなかった女の子が口を開いた。

「薬…」

「え?」

「薬を買いに来たの」

「薬?誰か病気になってるの?」

「ママが……ママが死んじゃうの!!」

女の子が泣き出してしまった。

「……死ぬのか?」

女性に聞いた。

「……はい、このまま治療がしっかりとできなければ……だから、そのための薬を手に入れようとこの街に来たのです…」

「なるほど……」

「ですが、どこにもなくて……ヘトヘトでくたびれていたところにあの男達が……」

「ふむ……つまり、その薬があれば大丈夫ってことか……」

「はい…」

悲しげな表情をしながら頷いた。

「ちなみにそのお母さんの病名って分かる?」

「は、はい…『黒点病』です。」

『黒点病』とは、体中に黒い斑点が現れ、その斑点が日を追うごとに大きくなっていき、全身を覆い尽くす。最終的には体が真っ黒に染まり、死に至る病気だ。最初は風邪みたいな症状だから、気づく人が少ない。

この病気の厄介なところは、特定の薬草を混ぜ合わせた薬でしか効き目がなく、その薬を扱っている店が少ない……だから、探しても見つからないことが多い…

(黒点病か……この子達にとってお母さんって大事だもんなー………うーん…はぁ…しゃあないなー)

悩みに悩んだ僕は、仕方ないって思った。

そして…

「なら、あそこに行こうか……もしかすると作ってくれるかもだから……カムイ!」

「はぁ……ほんとお人好しだな…その場所まで連れていってやる」

カムイがゆっくり起き上がると、体を大きくした。そして、軽々と3人を抱え出した。

「な、何を?!」

「嬢ちゃん達、じっとしとけよ?舌を噛んでしまうぞ?ゼオ!乗れ!」

「ああ!」

ひょいっとカムイの背中に乗ると、バサバサと羽を動かして飛び上がった。


「ゼオ!あそこでいいんだな?」

「ああ!頼むよ!…それと、これ使って。あったかいよ?」

風がビュービュー吹いていた。女の子達が寒そうにしていたので、僕が持っていたマフラーを渡した。

「……ありがとう」

小さな声で感謝してくれた。

「あの!どこに向かってるんですか?!」

女性が不安そうに聞いてきた。

「黒点病を治す薬を売っている店!」

「え?!あるんですか?!」

「ああ、ちょっと変わった店だけれど、薬に関してとても詳しいんだ。そこの店の人に頼めばもらえると思う」

女性が少しだけ喜んでいるように見えた。


※あとがき

ゼオとカムイの掛け合いとても楽しそうですよねー

カムイは人も食べれるそうですよー?


次回、どんさん店 回復の薬

お楽しみにー

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