第10話 星の燃え尽きる場所で

肩を落とし、俺は雲穴へと戻る。

俺とワルが出逢った場所だ。


さっきのあれは……やっぱりワルだよな。


なんであんな格好してるかなんて、考えてもわかんねえ。だが俺の勘が、あれはワルだと確信を持たせていた。


雲穴へと降り立つ。

先ほどと変わらず、おっさんが淵に腰掛けていた。

「何やってんだ、ウィーケ」


俺はため息をつき、ぼそりと呟く。

「……うるせえよ」


「あのお偉いさんたちに、俺らなんかが相手されるわけねえだろ?」

おっさんは鼻で笑いやがる。


俺は倒れ込むようにして、その場に座り込んだ。

「それはそうかもしれねえけどよ……」


だけど、あれは絶対にワルだったんだ。


あいつは俺の——。ある言葉が脳裏をよぎる。だが俺は、すぐにそれを打ち消した。


あいつの夢を邪魔した俺なんかが、使っていい言葉じゃねえよな。


黙りこくった俺に、おっさんが片眉をあげ問いかける。

「どうしたんだ?」


「……いや。なんでもねえ」

俺は声を絞り出す。もう全てがどうでも良かった。


上を見上げれば、今日もたくさんの星が燃えてやがる。

そのうちの一つがちょうど燃え尽き、輝きを失った。


……俺もこのまま、消えてしまいてえよ。


冷たい風が俺を撫でていく。

それは、湿った頬から静かに熱を奪っていった。


「ああ、そういやさっき言ってたあの子! 俺が最後に見たのは、お前が捕まったと風の知らせで聞いたすぐ後だ」

おっさんが膝を打ち、声を上げる。


「ああ?」

俺は反射的におっさんへと視線を移した。

「あの子は北の方へ向かってた。すごく焦った様子だったぞ」


やっぱりあいつは、陸国へ行けなかったんだな。

……俺のせいだ。


おっさんは顎に手を当て、頷きながら話す。

「あの辺は星屑の溜まり場しかねえはずだから、不思議に思ったんだよな」


今更そんなこと言ったって意味ねえんだ、おっさん。

あいつはもう——。


雲穴から風が吹き上げ、宇宙へと昇っていく。

おっさんの視線が風の行方を追っていった。


俺もつられて宇宙を見上げる。

その時、燃え盛る星が一つ流れていった。


あいつと星のカケラを探したりもしたよな。

北の方の、濁った雲の中で——


……待て。


俺はふと立ち上がる。


『少し、星が気になって』

白装束のあいつはそう言った。


俺は翼を広げ、風を掴む。

胸の中が、あの言葉の嵐みてえにざわついていた。


あそこに行けば会える気がする。


おい、ワル。

あの場所へ来いって、俺に言いたかったんだろ。


俺は濁った雲が漂うあの場所へと向かう。

俺とあいつが隕石を探した場所だ。


近づくにつれて、宇宙から引かれる力が強くなる。

俺は暗いその場所に、白装束をまとった人影を見つけた。


ぜってえ、ワルだ。


俺は声をかけようと息を吸い込む。

しかし俺が言葉を発するより先に、背の高い白装束の奴がワルの元に降り立つのが見えた。


そいつは、遠目に見てもありえねえぐらい翼がでけえ。

あいつは一体、なにもんだ……?


俺は付近に降り立ち、そっと様子を伺う。

風に乗って二人の話し声が聞こえた。


「……お前のやる事は分かっているな」

低く威厳のある声。でけえ翼の奴のもんか……?


つーかこの声、どこかで……。


「ええ。もう逃げも隠れもしません、お父様」

こっちはやっぱり、ワルの声だった。


「ならば良い。ライトメル一族の誇りを忘れるな」

そう言うと、でけえ翼の白装束が飛び立っていく。


俺はその場から動けなかった。

息をすることも、忘れていた。


ゴオッと音を立て、頭上に星が流れていく。

ぱらぱらと燃えカスが俺の足元に降り注いだ。


ワル、お前——。

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