俺はウィーケ -暇つぶしの空中散歩-
若涼
相棒と俺
第1話 退屈な世界
「……ふぁあ」
俺はあくびを噛み殺し、雲の上に寝転がる。
背に生えた黒翼がふわりと俺を包み込んだ。
この世界は退屈すぎる。
争いはおろか、娯楽だってとんとねえ。
まあ風に乗って飛んでみたりはするが……俺にとってはもはや日常。
この国の人間は、みーんな翼を持ってやがるからな。
「……つまんねえ」
そう呟いて、体を起こす。
んー、下界でも見に行くかあ。
ぽりぽりと頭をかき、俺は翼を広げた。
俺のからだより、何倍もでけえ翼が風を掴む。
さーて、今日の雲穴はっと……。
あたりを見渡しながら、空を行く。
前方からぶわっと風が吹き、俺の黒い髪がなびいた。
「多分、そろそろ近えよな」
目を細め、ぐっと目を凝らす。
「……あそこか」
雲間に風の通り道を見つけた。
こういう場所は、下の世界が見られんだよな〜。
口笛を吹きながら、雲穴に近づく。
「ラッキー! 誰もいねえみてえだな」
俺は淵に腰かけた。
ごおっと吹き上がる風が、いつもより強い。
下をのぞけば、でけえ城が見えた。
その中庭には、広めの水場と赤土がある。
「まーたここかよ」
俺はため息混じりにぼやいた。
その時中庭に、ぞろぞろと背鰭を持った人間たちが現れる。
「おっと、海国人のおでましだぜ」
そいつらは、一直線に水場へと飛び込んだ。
どいつもこいつも、背鰭を自慢げに揺らしてやがる。
今日はいつもより空気が薄いのか、奴らの表情までしっかりと見えた。
……楽しそうな顔、しやがってよ。
やがて中庭には、陸国人たちがやってきた。
準備体操でもするように飛び跳ねている。
軽く動いているように見えるが、簡単に空まで届くんじゃねえのってぐらいの跳躍力。
——今日も陸国人の勝ち……だよなぁ。
姿勢のいい銀髪の男が、顔をぴくりとも動かさず小砲を掲げる。
ああ、こいつもいつもと変わんねえなあ。
海国人と陸国人が一人ずつ、それぞれのスタートラインに立った。
海国人は水場、陸国人は赤土のスタートライン。
この、"いかにも代表!"みたいなやつらは元から決まってんのかねえ。
小砲が鳴らされる。
海国人、陸国人が同時に飛び出した。
あー……あの海国人、泳ぎにくそうだなぁ。
全然加速できてねえじゃねえか。
陸国人は一歩踏み出すたびに、ぎゅんぎゅんスピードが上がっていく。
海国人との差は歴然だ。
やっぱりあの足、反則なんじゃねえの?
そのまま陸国人が逃げ切ってゴールイン。
いつもと同じじゃねえかよ。
「っかー! つまんねえ〜!」
俺は腕を投げ出して後ろに倒れ込む。
——ああ、俺はずっとこんな日々を繰り返して生きていくのか。
ぼんやりと宇宙を眺める。
星が燃えるのが見えた。
毎日毎日燃えすぎだろ。
いったいどうなってんだよ。
風がふわっと俺の頬を撫でる。
からだを預けている雲が、揺れた気がした。
「……くぁああ」
なんっか眠くなってきたなぁ。
ここで昼寝っつーのも、まあ悪くねえか。
俺はゆっくりと瞼を閉じる。
それと同時に、妙に明るい声が俺の上から降ってきた。
「暇そうなやつ、はっけーん!」
「……あん?」
目を開けると、口の端を吊り上げ俺を覗き込んでる奴がいた。
身体を起こし、そいつを舐めるように見る。
短く整えられた髪。白い翼。手をポケットに突っ込み、見るからに遊び人って感じだが……着てるもんはやけにちゃんとしてるな。
翼も俺と同じぐらいでけえし。
「なんなんだよ、お前」
俺は片方の眉を吊り上げる。
そいつはにやっと笑い、こう言った。
「俺と暇つぶし、しねえ?」
「……ああ?」
風穴からびゅっと風が吹き上がる。
俺らの翼が大きく揺れた。
目の前の遊び人が俺に手を差し伸べる。
俺は頭をかくと、迷いながらもその手を握った。
遊び人は満足げに笑うと翼を広げる。
俺もそれに続いた。
暖かく柔らかな風が吹く。
俺たちは同時に風を掴み、雲を蹴った。
……なんかよくわかんねえけど、面白そうだし、いいよな。
——
これが俺とウォルス……いや、俺と相棒の最初の出逢いだった。
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