第31話 お兄ちゃんのバカぁぁぁ!!
今日は三学期の終業式。
俺はこれで高校2年生の生活は終わりかと噛み締める。
ほんとにいろいろな事があった1年だと思う。きっと一生忘れることはないだろう。
俺はいつも通り、楓と共に学校に向かう。
俺が渚と付き合った事を報告したあの日から、楓は中々に機嫌を損ねてしまった。
下手に刺激をすれば、また以前のように暴走する恐れがあるため、俺はしばらく放っておくことにした。
――っのだが…、
「うへへへぇ、お兄ちゃぁん♪」
「……………」
登校中なのにも関わらず、楓はなぜか朝から俺の腕に引っ付いてはそんなとろけた声を出す。
すれ違う人からは変な目で見られ、近所の人達からは優しい目を向けられる。
仲睦まじい兄妹のスキンシップとでも考えているのだろうか…。
正直、楓からこうやって甘えられるのは嫌ではない。
だってそうだろ?
かわいい妹から上目遣いを向けられながら抱きつかれたら、嬉しくない兄なんているはずがない。
……ただ、一つの懸念点だけはある。
そう、渚だ。
もしこんな所を渚に見られでもしたら、また前回のように浮気を疑われてしまう。
俺だって可愛い彼女を何度も不安にはさせたくない…。
「お兄ちゃぁん♪ ふふふふっ」
ただ、こんな幸せそうな妹をみてしまえば俺はこいつを無理やり引き剥がすなんてとてもできない。
俺はなんて優柔不断なのだろう。
彼女がいるのにも関わらず、この有様。
ハッキリ言ってクズである。
「あれ? お兄ちゃんどうかしたの? 元気がないみたいだけど…」
「え? あぁ…、大丈夫大丈夫」
「そう? ふふ、でも元気がなくなったらいつでも言ってね! 楓が元気付けてあげるから♪」
楓がふふんと胸を張りながら鼻を鳴らす。
俺は苦笑しながら「あぁ、その時は頼む」っと軽く返事を返す。
時期は冬が終わり、春に突入する。
今は三月。
三年生は卒業し、俺や渚は進級し、新入生徒には楓達が入ってくる。
(残り1年…)
俺は彩る桜並木を見上げながら呟く。
徐々に「その日が近づいてきている」と考えると少し億劫だが、今はこの日常を噛み締めようと思った。
「お兄ちゃんは、絶対渡さない…」
「ん? 楓何か言ったか?」
楓が何やら呟いた気がしたので、俺は聞き返したのだが、楓はすぐに笑顔で手を左右に降って「なんでもないよ!」と言った。
――――
最近身体の調子が良いため、自然と心も元気になる。
終業式は俺が居眠りしてる間に終わっていた。
まぁただ座って話を聞く時間だけだから眠くなるのは当たり前。
俺は悪くない。
「せんぱぁい! 帰りましょー!」
教室の扉が開き、笑顔の渚が顔を出した。
もはやこれが今や日常茶飯事なので、クラスメイト達は一瞬渚の登場にビクッとしたものの、すぐに友人達との会話に戻る。
だが男どもからは相変わらずの嫉妬の目線がつらい。
渚が教室に入ってきて、トコトコと俺の席まで来る。
そしてあろうことか、渚は俺の近くまで来ると俺の腕に引っ付いてくる。
「な…渚?! なにを…」
「抱きつきたくなったから抱きついたのですが、ダメでしたか?」
「い…いや、別にダメってわけじゃないけど…」
「じゃあ問題ありませんね♪」
そう言って渚は腕に引っ付きながら小動物のように頬をすりすりさせてくる。
俺は顔が熱くなるのを感じ、顔を逸らす。
「ちっ、凪の野郎…」
「見せつけやがって。ムカつく」
「さっさとしねよ」
男どもからの憎悪に塗れた言葉と目線が俺に突き刺さる。
正直に言うと、この視線に対してはもはや慣れてきたまであるが、渚からのスキンシップにはいつまで経っても慣れそうにない。
「せんぱいの匂い…」
だが、男どもの視線に気づく様子もない渚は俺の服に顔を埋めて何かをしている。
そして同時に男どもの憎悪の視線が殺意へと変わる。
「渚! もう帰ろう」
「えっ! ちょっとせんぱい、手を引っ張って…」
「あ? 何言ってるのかわからんが早く帰るぞ」
流石に命の危機を感じた俺は渚の手を引っ張って足早に教室を去る。
学校を出て、俺達は帰路につく。
今日は学校が早めに終わったため、太陽もまだ空高い位置にあり、雲一つない晴天の景色が広がっていた。
時期も春。爽やかで温かい風が俺達に当たる。
「懐かしいなぁこの道…」
ふと渚が目を細めながら呟いた。
この道はいつも通ってるとは思うが何かあっただろうか?
「せんぱい…、ピンときてませんね?」
渚がジト目で俺をみて言った。
心なしか、渚がどこか不機嫌になっている?
「ご…ごめん。何かあったっけ?」
俺は正直に謝って訊ねる。
「なんで忘れてるですか! あれですよ! 私がせんぱいに宣言した!」
「宣言……、あっ!」
そこで俺は思い出した。
学校から下校中、暗い道に街灯の光が灯る中で、渚が自信満々の顔で俺を落とす宣言した事を。
(そうか…、確かにそんなこともあったな)
結果的には俺は宣言通り"落とされ"、今じゃ渚なしの生活は考えられなくなっている。
「やっと思い出しましたか? 全くせんぱいったら、忘れてるなんて酷いです」
「ご…ごめん」
「でもまぁいいです。私今幸せだから許してあげます♪」
そう言って渚はその幸せを噛み締めるように再び俺の腕に引っ付いてきた。
ドサッ
「ん? ドサッ?」
どこからか何か物を落とす音が聞こえた。俺が音のした方へと目を向けると、そこには顔を青くしながら俺達を見つめる「楓」の姿があった。
「お兄…ちゃん…?」
楓は信じられないといった様子で震える声で俺を呼ぶ。
「楓?!」
俺も突然の楓の登場に目を見開く。
この状況は非常にまずい…。
今渚は俺に引っ付いている状態。いわゆるイチャイチャ状態だろうか。
そんな所を楓にガッツリ見られてしまえば、絶対に良からぬことが起きる。
「あれ? 楓ちゃん?」
ようやく渚も楓に気が付き、楓の名前を呼ぶ。
その瞬間、楓はキッと渚の顔をみて泣き出しそうな表情で叫んだ。
「気安く呼ばないで! 私からお兄ちゃんを奪ったどろぼう猫の癖に…!!」
「か…楓?」
楓は敵意剥き出しで渚を見て叫ぶ。
突然のことに、渚はしばらく呆けていたけど…。
「うわぁぁぁん!! お兄ちゃんのバカぁぁぁ!!」
楓は叫び声を上げながら走り去っていった。
俺達は楓の小さな背中が見えなくなるまでその後ろ姿を呆然と見つめるのだった。
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