第29話 浮気ですか…?
「あ…、が…」
俺は野郎ども達に言いようにやられ、机に突っ伏す。
何も悪くないはずなのになんで俺が一番ボロボロなのだろう…。
『それでさぁ! せんぱいったらもうほんとにかっこよくてね! 私心臓がいくつあっても足りないよ』
放送越しに聞こえるこのバカの声は未だにやらかしている事に気付いていない様子。
俺がボコられている間もとろけるような声で惚気話を語りまくっていた。
(あいつこれで一回大変な思いしたってのにほんと能天気なやつだ…)
『それでさそれでさ! この前なんか――』
『ねぇちょっとまって渚…、これ…』
『んん? なぁに未来ぃ。せっかくせんぱいの話で盛り上がってたのにぃ…』
『そんな事言ってる場合じゃないよ。これ見て』
『なぁにもう〜、放送機材がどうしたのっ……て、これ…』
放送越しに渚の声音がハッキリと変わる。どうやら彼女らも気づいたようだ。
顔など見なくてもわかる。
今頃渚の表情はとても見られない顔になってるに違いない。
『ま…まさか…今の話…、全部……』
『うん…、たぶんね』
『あ…あぁ……うぅ…』
渚の声がか細くなる。今頃真っ赤な表情で俯いているんだろうな。
頭の中で想像してみると、可愛かった。
『ぴゃ……――』
『ぴゃ?』
『ぴゃあああああああ//!!?』
渚の謎の叫び声を最期に、放送がプツンと切られた。
渚の最後の渾身の叫び声によって、俺やクラスメイト、そして学園の生徒全員が僅か2秒間ほど、目を回すのだった。
(これは確実に怒られるやつだ。どんまい渚…)
――――
それから午後の授業を終え、放課後になった。
俺は教室で渚を待っているが、渚が来る気配はない。
いつもいつも彼女から来てくれるのはあれなので、今回は俺から行ってやることにした。
俺は1年生編の階である2階の渚の教室までやってくる。俺は渚の教室の中をチラッと覗く。
まだ生徒が何人か数える程度に残っていた。その中には渚の姿もあった。
渚は机に突っ伏して顔を俯かせている。
俺はそれを見てどうしようかと頭をかく。
「凪先輩」
突然聞こえた背後からの声に俺の肩はビクッと反応する。そして反射的に後ろを向くと、そこには未来の姿があった。
「なんだ未来か…、驚かすなよな」
「ただ声かけただけなんですが」
「それでもいきなり後ろから声が聞こえたらビビるだろ」
「ふ〜ん」
未来は興味なさそうに適当に返事をする。俺はため息ついた。
こいつだって外見は渚に負けず劣らずの美少女だ。愛想さえもう少し良かったらモテると思うんだがな。
「浮気ですか?」
「へっ?! な…なんで?!」
「だって凪先輩の目が浮気者の目だったので」
「してない! 断じてしない!」
「先輩最低ですね。あんなかわいい彼女がいるのに他の女の子に浮気とは…。渚がかわいそうです」
「だからしてないって! 話を聞け!」
「まぁそんなことはさておき…」
未来は淡々とこの話を終わらせた。なんだかこいつとは話してて疲れる。渚とはまた違った面倒くささがあった。
「渚ー、凪先輩来てるよー」
未来の声が教室に響く。その瞬間、先ほどまでうつむいていた渚がガバっと身体を起こしてこちらを見る。
「せんぱい!?」
渚が俺の方を見て驚いたように声をあげた。
俺は気まずそうに頭に手を置く。
渚は俺達のいる廊下の方までトコトコと駆け寄ってくる。
「なんでせんぱいがここに?」
「なんでって…、お前が今日は教室にこないから俺からしてやったんだよ」
「え?! それって…。 え…えへへ~、せんぱいそんなに私と帰りたかったのですか?」
渚がいつぞやのニヤニヤした表情で聞いてくる。そんな様子の渚に、俺はハッキリと言った。
「当然だろ。だって俺達付き合ってるんだからな。彼女と一緒に帰りたいって言うのは当たり前だろ」
そこで渚の表情が一瞬固まり、すぐに顔を真っ赤にさせて慌てふためく。
「へ?! かのじょ…?!」
「そうだよ。もしかして…、違うのか……?」
「い、いいえ! 違くないです…! 私はせんぱいの彼女です!!」
「それじゃあ早く一緒に帰ろうよ」
「はい…!!」
渚は嬉しそうな表情で元気よく返事をしてから、軽やかな足取りで荷物を取りに行った。
「……見せつけてくれますね」
それまで黙っていた未来がジト目で俺を見ながら呟いた。
「別にそんなつもりは…」
「別にいいんですよ。私としても2人が付き合ってくれたのはうれしいので」
「そっか……、ありがとな」
「別に…礼なんていいんです。そのかわり、渚を泣かせたら許しませんからね?」
未来が今までに見たことないくらいの真剣な表情で俺を見て言った。
それに対し、俺も「もちろんだ」と力強く頷く。
俺がそう言うと、未来がほんの僅かに微笑んだ気がした。
「さて…と、それじゃあ邪魔者はここで失礼しますね。先輩、また明日」
「え? お…おう、また明日」
未来は去っていった。ほんの僅かに見せたあの笑顔、めちゃくちゃ可愛かったな…。
「浮気ですか…?」
「えっ?」
気づけば、カバンを持った渚が俺の元まで来てジト目で言った。
俺は必至に否定する。
「ち…違う! ただ話してただけだ!」
「それにしては最後に未来が去っていく様子を見る先輩の目があれでしたけど?」
「違う! それは違うんだ!」
「うぅ…付き合って早々浮気されるなんて…、せんぱいヒドイですよぉ…」
渚が上目遣いで涙ぐんだ表情を向ける。そのあまりの可愛さに俺の心臓は収まることを知らない。
「……泣かせましたね?」
気がつけば、去っていったはずの未来がそこにいて低い声で言った。
「違う! いや違くないけど違うんだ!」
「何をいってるのかまったく理解できませんね。猿でもまだうまく説明できますよ。手ぶり足ぶりですがね」
つまり今の俺はその猿以下として見られているのだろうか。
なんだろう…。自分の身体の中で何かが砕け散る音がした。
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