第13話
ガシャン、と着地音を立てて櫓のてっぺんに乗る。
このステージではここが一番高いようだ。
さあ、よく見える場所にマトが出て来てやったぞ。
撃ってこい!
ピピッとレーダー内に熱源反応が入ったことを示す音が鳴る。
お。正面側か、ありがたい。
相手は長距離武器を持っていないのか、武器を構えてはいるもののまだ撃ってこない。
俺は、範囲を絞って距離を伸ばしたレーザー砲を浴びせる。
「わ、うわ」と相手の声が聞こえる。
相手はボイスをオンにしていたようだ。
俺のボイスはオフだが、相手がオンにしてれば相手の声だけは聞こえるんだな。
もしかしたら、まだボイスの設定にも気づいていない初心者の可能性はあるが……。
……悪く思わないでくれよ。
俺は、そろそろ届くようになったマシンガンで更に与ダメージを増やす。
相手は、戸惑いの声を漏らしながら、武器を使う間もなく爆散した。
「よっし! まずは1勝!!」
[勝利]と書かれたウィンドウが眩しい。
0ポイントだった俺のポイントが10ポイントになる。
そういや、連勝できればさらにボーナスで3ポイントつくんだっけな。
俺の今のランクはブロンズD。
各ランクはさらに4段階に分かれていて、ブロンズAの上がシルバーDとなる。
次勝てば、早速ブロンズCに上がれるな。
ブロンズランクの間は負けてもポイントが減らないから、とにかくたくさん戦ってたくさん勝つぞ!
俺は早速2戦目の出撃ボタンを押す。
「この調子で行くぞ!」
俺は気合を込めて『準備完了』のボタンを押した。
***
[昇格]
[シルバーランクに昇格しました]
「っしゃあ!」
俺は自分でも驚きの8連勝で、ストレートにシルバーランクに到達してしまった。
いやあ、連勝ボーナスって連勝が続くほど増えるんだな。
まあ、PvPの初回で初日ということもあり、とりあえず入ってみたという感じの非対人武装機が多く、俺の実力と言うよりは、たまたま相手に恵まれたってとこではある。が、それでも嬉しいものは嬉しい。
まさか初日でここまで来れると思ってなかったからな。
試合ペースも1試合に5分程度でまだゲーム開始から1時間ほどだし、まだまだ戦える。
やっぱあれだな、アサギ達と行った迷宮ダンジョン。あそこで貰った特別報酬……いわゆる迷宮ステッカーの効果がデカいな。
このステッカータイプのアイテムは、機体に貼ると何のコストも無しに永久的に効果を発揮する、使い勝手の良いブーストアイテムだ。
張り替えもローコストだしな。
数年も経てば、ランキング上位の機体にはこんなステッカーがベタベタ貼られるようになる。
王様ネズミの落としたステッカーは王冠のイラストの奥にネズミのシルエットが入っていて、デザインも悪くない。
何より効果がリロード時間の2%短縮とかなり有難い性能だった。
あれにはリボルバーも喜んでたしな。
あの早撃ちに、リロード時間の短縮が加わればものすごい効果だろう。
しかもこのステッカー、同一機体に同じステッカーが3枚まで貼れる。
当然、俺達はすでに3回、王様ネズミを倒していた。
迷宮ステージはクリアまでにどうしても時間がかかるが、それでも迷宮ボスさえ倒せば確実にステッカーが手に入るってのはありがたいとこだよな。
そんなわけで、俺とアサギとリボルバーのリロード時間は6%短縮だ。
俺がさっきから遠距離レーザーをホイホイ撃てているのも、これのおかげだな。
レーザー武器は1発が強力な分リロードに時間がかかる物が多いが、そこが短縮されれば時間あたりのダメージが随分違ってくる。
本当はゼンにも取らせてやりたかったんだが、俺とアサギとゼンの3機だと、ネズミの群れは何とか3機全員でスタンさせまくれば倒せるんだが、王様ネズミで全滅するんだよな……。
それに、俺たちだけだと、王様ネズミに行くまでも相当時間かかるしな。
リボルバーとゼンの時間が何とか合わせられればと思ったんだが、リボルバーにこの事を話したら「下手くそはアサギ1人で十分だ」って言われたからな。
「いやいやいや、アサギはうまいだろ。かなりうまい方だろ!」って思わず叫んだが、まあリボルバーから見れば全員下手くそに見えるんだろうな、とは思う。
つまり、リボルバーとしては戦力になるやつならともかく、足手まといの面倒を見る気はないって話なんだよな。
そんなわけで、ゼンが迷宮ステージをクリアする日はもうしばらく先になりそうだ。
俺が、封印したUR武器を持ち出せば何とかなりそうな気はするんだが、人助けだとか言って一度使い始めたら、もう手放せなくなりそうだからな……。
正直俺は、自分の自制心に自信がない。
ゼンには悪いが、俺とアサギがもうちょい成長するまで待っててほしい。
俺は、頭の隅でいつも虹色に輝くURプラズマキャノンの存在を振り切るように頭を振って、操縦桿を握り直した。
「このまま、ゴールドランクまで行くぞ!」
ありがたいことに、PvPでは消費した武器やエネルギー、機体の損傷は全て一試合ごとにリセットされる。
だから、遠慮なく戦える。
俺は9戦目の『出撃』ボタンを押して、『準備完了』のボタンを押した。
***
目の前に広がったのは、ジャングルだ。
シルバーランクのステージはジャングル、荒野、コンテナ工場の3つからランダムで選ばれる。
荒野は視界が広く長距離武器が有利なので俺向きだし、コンテナ工場も高低差のある立体マップで、ジャンプに強い逆関節機向きだ。
そんな中で、このジャングルステージは俺にとって唯一不利なステージだった。
まず、視界を遮る物が多く、長距離砲が役に立たない。
頭上も木々に覆われていて、高めに飛ぶと引っかかることもある。
初っ端からハズレステージか。
俺は自分にバフをかけると、なるべく大きな樹を背にして周囲を見渡す。
熱源感知センサーの範囲よりも視認の方が遠くまで確認できるんだが、この木々の中じゃ難しいよな……。
急旋回のできないこの機体じゃ、後ろから来られるとアウトだ。
軽く素早くセッティングしているこの機体の装甲では、重量級の砲撃を至近距離で喰らえば一発撃破もありえるからな……。
「見つけましたわ!」
またボイスオンの相手か。
数瞬遅れて俺のレーダーがピピッと熱源反応音を立てる。
そっちか。
俺は軽いバックジャンプで距離をとりつつレーザーを放つ。
「あら、逃げられてしまいましたわ」
敵機は俺を見失ったらしく、キョロキョロと辺りを見回している。
今のうちに、索敵用センサーのギリギリまで詰めて……。
「仕方ありませんわね。そこら中燃やしてしまいましょう」
敵機が装備をグレネードランチャーに交換する。
何だって!? URのグレネードランチャーじゃないか!
俺は慌てて散弾で頭上を覆う木々を撃ち壊す。
「きゃっ、こんな近くにいらしたんですの!?」
敵機は俺に照準を合わせ直そうとするが、既にトリガーは引かれている。
着弾より一瞬早く、俺は地を蹴って飛び上がった。
ぐんぐん上昇する高度。
眼下にはグレネード弾に焼き尽くされてゆく森。
俺の想定より威力も範囲も上だ。
まさか……、あのURグレネードは完全覚醒済なのか!?
「きゃああっ、痛いですわ!」
どうやら敵機は、俺に照準を合わせようと最後に砲身を下げたせいで、広範囲のグレネードに自分も焼かれているらしい。
何だか残念なお嬢様だな……。
自分の武器の攻撃範囲くらい、しっかり把握しといた方がいいぞ。
俺は、せっかくの力を発揮できないURグレネードを若干不憫に思いつつ、降下に合わせてレーザー砲とマシンガンを連射する。
ついでにカニバサミで毒も入れとくか。
これで終わるだろう。
そう思った俺の予想に反して、敵機は俺の攻撃を受け切った。
「なかなかやりますわねっ! ですが私のエネルギーシールドの前では無力ですわ!!」
エネルギーシールド!? 1枚1万円の課金専用UR装備じゃねーか!!
レーザーに強いとはいえ無力ってことは……。
俺は敵機の損傷度を目視する。
いやほぼ無傷じゃねーかよ!
本当に……当たったのはマシンガンだけだってのか!?
まさかこのシールドも完全覚醒済なのか!?
4万円のエネルギーシールド!?
俺は着地と同時にもう一度跳ぶ。
案の定、着地狙いの弾が俺の足元を掠めた。
ってこれURのレーザーガトリンングか!?
弾の速さと速射性が思った以上だ。
くそっ、このままじゃ当たるっっ!!
俺は仕方なく小さなバックジャンプを繰り返して相手から距離を取る。
「私のレーザーガトリングに当たらないなんて、すばしっこい方ですわね」
まさかあのレーザーガトリンングまで完全覚醒なのかよ……。
一体いくら金をかければあんなに強化できるんだ?
くそぅ。仕切り直しになっちまったが、まだこっちの被弾はゼロだ。……と、思いはするものの、あんな重課金機相手じゃ勝てる気がしないな……。
敵機が装備を変える。
あれは……、俺の愛するプラズマキャノンだ。
あいつまさか今回のピックアップUR全覚醒済なのかよ!
くそっ。
レーザーガトリングを引っ込めたなら、距離を詰めさせてもらうぜ。
俺は機体を前傾させて大きく斜め前へジャンプする。
こいつが森を焼き払ってくれたおかげで、動きはとりやすくなった。
俺の横をプラズマキャノンが掠めてゆく。
やっぱ完全覚醒済か。そうじゃなきゃプラズマ弾の生成に時間のかかるプラズマキャノンがこんなにすぐ撃てるはずがない。
俺はレーザー砲を構えて、届くギリギリのところから撃ち始める。
ん?
よく見りゃこいつの機体、元がピンクと紫でわかりづらいが、今もしっかり毒が入ってるな。
てっきりすぐに消されたのかと思ってたが……。
まさか……気づいてないのか!!
それなら、もう少し粘ってみるか。
戦力差はものすごいが、諦めるにはまだ早そうだ。
「きゃあっ、前が見えないですわ。盾はどちらだったかしらっ」
おーい、アネモネ出てきたぞ。
やっぱこいつピックアップUR全部揃えてんのか。
つーかアネモネ持ってるならバフ入れればいいだろうに、入れてないよなこいつ。
俺が60秒効果のカニバサミアネモネをかけ直す間に、こいつは2回振らなきゃいけないはずだが、そんな様子は一度もない。
ようやくエネルギーシールドを展開した相手へ。俺は持ち替えたばかりのショットガンでスタン弾を撃ち込む。
「あらっ!? まあっ、どういうことですの!? 動きませんわっ」
俺は秒数を数える。
3、4、5。と同時にもう一度スタン弾を打ち込む。
お。流石のお嬢様も状態異常抵抗は持ってなさそうだな。
これならあとは5秒おきにスタン弾を放り込むだけで時間が稼げそうだ。
俺のショットガンのリロード時間は5秒ちょいだが、ステッカーのおかげで今はギリギリ5秒だ。
これなら永遠にお嬢様をここに足止めできる。
「スタン? 爺、スタンって何ですの? まあ、機械なのに麻痺するんですのね!?」
近くにいる誰かとリアルで会話してんのか。
機械だって麻痺はするさ、信号がうまく届かなきゃ動けなくなる。完全に遮断できなくてもノイズが多けりゃエラーになるしな。
「あら!? いつの間にこんなにHPが減ってしまったんですの!?」
お。ようやく毒に気付いたか。
「毒!? 機械なのに、毒にかかるんですの!?」
あー……、それはな……。
俺的には、化学的腐食、疲労破壊、クリープ現象とかの時間依存型累積損傷メカニズムが短時間で起こってんじゃねーかな。って感じで解釈してるけど、まあ、普通に考えたらちょっと納得いかねーよな。そこは認める。
「これを使ったら毒が治るんですのね?」
俺は自分にバフをかけると、スタンにかかったまま毒状態から抜け出した敵機に、もう一度毒をかけた。
「変わりませんわよ? えっ、もう一度毒にかかったんですの!? 酷いですわ! 毒に麻痺なんて、私動けませんのよ!? どうしたらいいんですの!?」
……なんかちょっと、可哀想になってきたな。
でもなぁ、こうでもしなきゃこいつには勝てそうにねーからなぁ……。
せめてもの詫びに、これだけ教えといてやるか。
俺はミュートにしていたマイクをオンにする。
「あー……、汚いやり方で悪いな。そんだけお前が強かったんだよ」
「あら? 相手の声が聞こえますの?」
「ああ、お前の声もずっと聞こえてた」
「ええっ!?」
「右側のパネルにマイクのマークあるだろ? そこをタップでマイクのオンオフが切り替わるから、覚えとくといいぞ」
「まあ、ご親切にありがとうございます」
お? 意外と……リボルバーより話が通じるか?
「けれど、こんなやり方は卑怯ですわ!」
「ああ、悪いな。他に方法が思いつかなくてさ。一応これもルール違反じゃねーから、次までに対策を考えときな」
謝りながらも、俺はスタン弾をもう1発入れる。
敵機のHPや状態は見えない仕様だが、時間的にはおそらくもうあと1、2回……10〜20秒ほどで彼女の機体のHPは尽きるだろう。
「次……。次ですって……? 分かりましたわ。次にお会いした時には、絶対に負けませんから!」
ん? いや、俺との再戦じゃなくてな。
この先は毒スタンみたいなコンボ仕掛けてくる奴も結構いるぞって話でな?
「クマさん……。あなたのお名前、覚えましたわよ!」
なんだこの、ライバル宣言みたいな展開は……?
「いやだから、俺じゃなくて……」
次の瞬間、彼女の機体は爆散した。
[勝利]と書かれたウィンドウがやけに眩しい。
相手に名前を覚えられたからには、俺も覚えておくべきか……?
覚えてなくても、あの口調で話しかけられば分かりそうな気はするが。
俺は戦績グラフに書かれた対戦相手のプレイヤー名を確認する。
「オジョウ……。には、様をつけて呼べって事なのか……?」
何だかどっと疲れたが、とりあえず、世の中には金持ちと呼ばれる層が本当に実在するんだなということだけは体感した。
つーかなんで金持ちのお嬢様が、平日の昼間っからロボットバトルゲームなんてやってるんだよ……。
しかしこれで、封印するしかないと思っていたURプラズマキャノンを気兼ねなく使う唯一の方法がわかった。
それはすなわち、課金だ。
俺が、URプラズマキャノンを確実に手に入れられる金額……つまり天井までロボワに課金すれば、URプラズマキャノンだって完全覚醒URプラズマキャノンだって、堂々と使えるんじゃないか!?
あのお嬢様が金で強さを買っていたように、俺もロボワに課金することで後ろめたい思いをせずにURプラズマキャノンが使えるなら、いくらでも払ってやる!
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