夕闇迫る憂いを超えて〜皇帝に嫁いだアルビノΩ王子〜

Koyura

第1話 厄介払い

僕はマクリール王国の第3王子、ミルキィデル・サシフォア・マクリール。サシフォアは母フランデルの実家の家名だ。

この国は黒髪黒目がちの人種が多いのだが、僕は欠陥品と称される。

僕の髪は真っ白で、肌は青白く、目は赤い、アルビノと呼ばれる色素欠乏だ。


母は僕を一目見るなり、「呪われた」と叫んだと言う。

僕は身体の発達も遅く、よく熱を出して寝込むので、早死にするだろうと思われていた。


しかも、オメガだった。

この世界は性別が男女と別にオメガバースがあり、平民はベータだが、王侯貴族はアルファが多く、少数ながらオメガが生まれる。

頭脳身体共に優れ、リーダーシップに長けているアルファだが、男女とも子供が産めるオメガと相性が良い。

オメガは3ヶ月に一度発情期があり、その時は性欲が異常に高まり、フェロモンを出して近付く者皆発情させ、性交を促す。


僕は呪われたオメガの子として、離宮に閉じ込められている。6年後に母は気まぐれに寵を受け、弟が産まれたが、黒髪黒目でアルファだった。


母親は弟の面倒を一切見なかったし、自分自身の事も疎かになり、無気力に寝ている事が多かった。

僕は幼い頃から、少ない離宮の予算を執事と管理し、母と弟の面倒を見ながら過ごした。

弟に乳母は付けられたが、一年程で止めさせられたからだ。

弟はそんな環境でもすくすくと育ち、アルファらしく体格も良くて優秀だった。

やる気の無い家庭教師が寄越されたが、どんどん知識を吸収していくので、僕も負けじと頑張った。


僕は18になって成人し、3人で何とかやっていけると思っていた。

間も無く発情期がやって来るまでは…



18歳直前にやってきた、初めての発情期はきつくて、過剰な性交欲求に発散の方法も知らない僕は苦しんだ。3日で終わった時は心から神様にありがとうと言った。


飲み食いもほとんどできなかったので、やっとの思いでお粥を啜っていると、何と、国王から呼び出しがあった。


嫌な予感しか無かったが、仕方無く身の回りを整えて、使いの侍従と本殿へ行った。

王は執務室に出向いた僕に、軽い調子で下知した。


「隣国のダラステカ帝国の皇帝が、お前を知って所望してきた。アルファの王子1人なので世継ぎを増やしたいらしい。オメガの男はアルファを産みやすいから、お勧めしたら、即決だった」

「同じ男でもいいのですか?」

まさか、もう嫁入りするとは思ってなかった。

「オメガなんだから、関係ないだろう」


頭の中で、母と弟のことがぐるぐるとよぎった。

「フランディルは医師と看護師を付ける。エスティデルは王妃が面倒を見る」

僕の思いを読んだのかどうかわからないが、そう言われた。

「どうか、2人を大切に扱って下さい。僕はどうなっても良いですが、あの2人は何も悪くないのです」

「エスティデルは、アルファだろう?だから面倒は見る。憂なく嫁げ」


嫁ぐのは全く拒否できないようだ。僕は拝礼して出て行った。


弟エスティに言うと、案の定泣かれた。

「僕が兄なら絶対守ったのに」

「不甲斐ない兄でごめんな」

「兄上こそ不安でしょう?ああ、離れたくない」

エスティはアルファらしい庇護振りを表した。


「もし、許されたなら会いに来て。隣の国だから、僕も皇帝陛下に頼んでみるよ」

「兄上、無理しないで」

僕は気休めと思いつつ、エスティを抱きしめた。

「来てくれたら、僕が雇うからね」


母にも告げに行くと、

「あなたの行く末が決まって良かった。もう心配しなくて良いのね」

と寂しそうに笑った。

僕は胸いっぱいになって母の膝に縋りついた。

あらあら、と言いながら、僕の襟足までの白く短い髪を手で梳く。

「今からでも伸ばしなさい。あなたに似合うと思うわ」



3ヶ月後、肩くらいまで伸びた髪は赤い紐が編み込まれ、赤い大輪の花が付けられた。

白いVネックの体に沿った上衣は膝下まであり、腰下で両脇に切れ込みが入っている、下は黒いスラックスだ。白い踵の無い靴と服にはお揃いの金と赤の刺繍が入っている。首にはアルファ避けの白い皮のネックガード。赤いルビーが嵌っている。

全て皇帝の贈り物だ。


豪華な馬車と荷物を乗せるための大きな馬車2台が連なる前で、僕は弟と最後の別れをした。

まだ12歳で1人残されて、やっていけるのだろうか。心配してもどうしようもない。

王は姿を見せなかったが、王妃が見送りに来てくれた。

エスティの事は任せなさいと言われたが、感情を読ませない無表情な王妃に、不安しか残らなかった。


王城からの初めての外出は片道だけだ。

馬車に乗り込む時に振り返って、泣く弟に「さよなら、またね」と告げた。

最後に、王妃だけでは無く、城全体に向かって、

「さよなら!お世話になりました」

と大きく言い、馬車に乗り込んだ。


馬車に乗るのも初めてだ。道が悪くてすぐに嫌になったが。

『やっと不吉の象徴が居なくなったとか、せいせいしてるだろうな』


窓からの景色を眺めながらぼんやり考えていた。

これから嫁ぐ皇帝はどのような方なんだろう。僕が聞かなかったら、殆ど教えてくれなかった。


手のひらを広げた位の絵姿をもらったので、暇なのと、不安で1日に何度も見ている。見ただけで何かわかる訳ではないが、顔くらいは覚えたい。


赤味がかった茶色の髪に金色の目。目つきは鋭く、薄い唇は自信有り気に少し両端が上がっている。

先代と比べると豪胆で、好戦的、らしい。


皇帝は僕の姿を、白髪と赤目を見て驚くだろうな。嫌がられて、放置されるのだろうか?

それならそれで、今と変わらないから楽かもしれない。


車中の読み物としてダラステカ帝国の地理や歴史を纏めた本と資料を貰ったが、3ヶ月の間に図書館にある本であらかた調べて読んでしまったので、目新しさは無かった。



国境まで半日もかからない。帝国側では騎馬隊が待っていた。

取り囲まれるように配置され、帝都に案内される。

窓から外を伺ったが、騎馬隊員が邪魔で、覗いてくる者と目が合うのが嫌になり、カーテンを下ろしてしまった。



その日の夕方、赤い太陽の光が到着した帝都の城の後ろから差し込み、僕は目を細めながら今から住む所を見渡した。


表面が茶色で滑らかに光る石が隙間なく積み上がる、質実剛健な建物だ。物見の塔が前の角に張り出しており、それが中央の建物で、後と左右に廊下でつながる円柱の塔のような建物がある。


城自体は小高い丘の上に立っており、馬車が止まった建物は前門ならぬ、客を迎えるのと議事を行う為の建物で、皇帝のお住まいはさらに奥の建物、後宮は更に奥にあると説明を受けながらそちらへ再び馬車は進む。

ざっと説明をしてくれたのは宰相のグレナダ・シルボーンだった。


「陛下においては、殿下にお会いするのを楽しみにしておられます。この後私を交えて、陛下との夕食にお誘いしてよろしいでしょうか?」

「お気遣いありがとうございます。喜んでご一緒させて頂きます」

「何か好き嫌いとかございますでしょうか?」

僕は少し考えて、躊躇いながら

「食べられないのではないですが、実はかぼちゃのスープの味が苦手です。子供みたいで恥ずかしいですが」


「承りました。本日のスープは違いますが、今後そのように申し付けておきます」

「ありがとうございます」


苦手なのはスープだけで、他の料理法なら、かぼちゃ自体は大丈夫です、と言いそびれたが、その必要は無かった。


宰相と僕が晩餐室に来て、間もなく皇帝が現れた。

拝礼して挨拶の定型文を奏上し、着席を許される。

絵姿より髪色は実際はもっと赤かった。威厳があり、男らしくて目つきは鋭いが冷たくは無い。


「お支度をありがとうございます。如何でしょうか?」

「ああ、似合っている。赤色でも良かったな。次はその色の物を送ろう」

「もう、たくさん頂いてます」

「気にするな。美しい者はたくさん着飾らなければならん」

「光栄でございます、皇帝陛下」

「オスカーだ」

「え?」

「オスカーと呼べ」

「はい、オスカー様。私はミルとお呼び下さい」

胃が口から出そうに緊張する。あまり人と話した事がないし、オスカー様は豪胆で好戦的な皇帝としか知らないので余計ドキドキする。


食前酒を飲んでいると、料理が運ばれてくる。

「ん?」

それはすぐ気付いた。


何故か、皿の一品一品にかぼちゃが添えられている。サラダにマッシュ、ステーキに素揚げ、デザートはカボチャクリームケーキ…スープだけコンソメだった。


シルボーン宰相、計ったな。


僕は素知らぬ顔をして殊更美味しそうに、皇帝と宰相の顔をチラチラ見ながら全て食べた。


 「こちらのはどうですか?」

宰相が僕に聞いてきた。

は問題ありませんでした。とても美味しかったです。コンソメスープは国のコックのより美味しいかもしれません。あと、カボチャがよく出てきたのですが、帝国の特産品か何かでしたでしょうか?僕は小麦と砂糖大根だと習っていたのですが」

待ってましたとばかり言い返した。


「…小麦と砂糖大根は有名ですが、その他の野菜も多く取れるのです」

「では何故かぼちゃばかりだったのだ、グレナダ?」

オスカー様はギロリと宰相を睨んだ。


宰相が息を呑んだのを見て、あからさまにやり返しすぎたと反省した。

「僕はカボチャは嫌いではないです。ただ、スープが苦手だと言いました。だから、スープは差し替えて下さったのですよね?」

「予め伺っておりましたので申し付けました」

「グレナダ?」


宰相の返事は、どうとでも取れる話し方だ。


宰相はかぼちゃ自体が嫌いと踏んで、仕込み済みのスープ以外急遽カボチャを入れるようにさせた。


僕が再提案したのはカボチャスープだけが嫌いだから、予め予定していたカボチャを多用する料理からスープだけ差し替えた、と言う言い訳だ。


「何故スープだけ?」

「昔、子供全員で会食する機会があって、言い合いになった時、兄の1人にカボチャスープを頭からかけられたからです」

「何⁈」

「僕もかけ返して、平手打ちしたので、おあいこです」

「あいこ?お返しが多いような」宰相が思わず突っ込んだ。

「そのまま取っ組み合いの喧嘩になって、スープまみれに…」

「それは見ものだったろうな」

「父母に叱られて、廊下に2人共そのまま出されて、コック長達に謝りに行かされました」


「スープも食さず追い出されたのか。その後食事はどうした?」

「無しです。次の日はコック長が賄いのハム卵サンドイッチとりんご煮をこっそり分けてくれました。あれが国で食べたものの中で一番美味しかったです」

「賄いを食べさせたのか?」


オスカー様は驚きの声を上げた。


「本当は1日飯抜きで厨房で手伝いをしろと命令されたのです。皮剥きとかやった事ないし、怪我させてはいけないって包丁も触らせてくれないから、ひたすら野菜や果物洗ってました。皿を盛り付け台に並べたりもしたかな?お腹が減って、ふらふらになった私と兄に、お駄賃だと食べさせてくれたのです」


「それは、それは、思い出の味になりますな」

宰相はしみじみ言った。

「で、宰相?嫌がらせは失敗だったな?」

「失敗も何もありませんが?」

ふふふ、と2人は笑い合うが顔が怖い。


「できればスープを僕にかけないで下さいね」

「善処しよう。やり返されるのは困る。なあ、グレナダ」

「はい、仰せの通りに」

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