繰り返す世界の中に、太一が求めるハッピーエンドは存在しない
・太一のあがき
何度か物語を繰り返し、一通りのヒロインと一旦個別のルートを辿ると、太一は祠に残された自分のノートを発見し、この世界の構造と繰り返されている悲劇などを知る。
多少報われるような展開もあるが、ほとんどの場合は誰かが亡くなったり、かつての仲間がいがみ合ったままさつりくの炎に焼き尽くされてしまう。
太一が望んでいるのは、そんな世界じゃなかった。
たった8人でも、一緒にラジオ放送をしたり、海に遊びに行ったり。
時に喧嘩をしても仲直りでき、隣にいることを許容して笑い合える関係。
たったそれだけで良かった。
ただ心をある程度許せる仲間と、同じ時を過ごし、青春っぽいことをする。
たったそれだけで良かった。
真実を知った後も、太一は何度も繰り返す。
個別的にみんなを説得するだけじゃなくて、みんなで仲良くなれるハッピーエンドを探して。
でも、そんな未来などはなかった。
仲間の亀裂を塞ぐには、たったの一週間では足りなかった。
冬子が生き延びても諍いになり。
霧と接しても壊してしまう。
見里とアンテナを作っても、壊されてしまう。
美希はまた弱かった頃に戻り、争いに巻き込まれてしまう。
何度も何度も世界を繰り返した時、今まで物語の影として動いていた曜子が、ついに動き出す。
「これでわかったでしょ?
太一を受け入れてくれる結末なんて、存在しない」
極めて冷酷に、彼女は告げる。
そして、微笑む。
「私だけが太一のことをわかってあげられる」
辿り着けない仲間たちとのハッピーエンド。
弱り切った心に染み入る曜子の誘惑。
蜜に誘われた蝶のように、縋り付きそうになる。
太一は決意する。
曜子の誘惑を振り切り、彼は祠へと走り出す。
ぐちゃぐちゃになった心情を、吐露する。
この世界では何があってもリセットされる。
誰かと恋仲になったり、一緒に遊んだり。
永遠に、ここに居たっていいんだよ?
それでも、いいじゃないか。
太一を憂う少女は言う。
ここはある意味では楽園なんだ。
何があっても、なかったことにされる。
怪物が潜んでいて暴れ出しても、次の週にはかき消される。
少しの間だけでも、誰かと絆を結べる。たとえ失われるとしても、またやり直せる。
永遠の回し車を楽しむことだって、できる世界。
ある意味楽園ではないかと、少女は言った。
けれど、太一はその誘いを拒否した。
「いくら世界がリセットされても、罪は消えない。積み重なっていくだけだ。
ここは地獄だ」
太一が求めるハッピーエンドなど訪れないことを、彼は認めた。
そして、決意する。
「みんなを……元の世界に帰す」
・この世界の正体とは?
専門的な話もあるので、手短に説明をする。
この世で最小単位の量子と言われる物質には、特殊な性質がある。
粒であり、波である。
わかりづらいかもしれないが、粒って一個の固形物で、波はさっと広がりを持つ波状物。
その量子は、観測をすることで波としてではなく粒としての性質に落ち着く。
アインシュタインだって量子力学にブチ切れていた。
「もし量子力学の言うことが真実だとするならば、月がそこにあるのではなく、我々が月を見たから月がそこにあることになる」
でも実は、これは真実らしい。
観測されたことで、物質の位置が確定する。
量子は、観測されるまでどこにいるかわからない。
観測した瞬間にどこにとどまるか。
それを可能性という。
だから、量子が観測された時点でいるところによって、世界の方向性が決定する。
Aにいる未来とBにいる未来は、可能性として両方存在する。
だから、世界は別れる。
観測された時のA世界とB世界に。
まあ、直感的な理解は難しいことなので、そういうものだと理解して欲しい。
太一の瞳は、幼少期の体験で特殊な能力を持っている。
世界の繋がりの場所、揺らぎを観測できる。
どうやら太一がいた世界と、ループする世界は重なりあっているようだった。
この世界の揺らぎで太一が観測をすることで、みんなをもとの世界に戻すことができる。
そう、確信した。
合宿の帰り、崩壊した部員たちの結束に、太一は心底うんざりしていた。
消えてしまいたかった。
その時、重なり合った世界を観測してしまった。
自分だけが違う世界に取り込まれるところだったが、彼は振り返った。
咄嗟に、寂しさを感じて。
こうしてB世界に取り込まれたことが、おそらくの真相。
だから、みんなをもとの世界に帰すことにした。
「でもそうしたら、太一は一人になっちゃうんだよ?」
そう。
みんなをもとの世界に帰すということは。
彼はこの世界で一人ぼっちになるということだった。
また来週!
※多分明日です。
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