第26話 驚くべき成長速度

 首都・ロワゴールへの旅を始めて4日後————。

 

 

 小さな町で宿を取ることにしたタスクたちは再び二部屋に分かれることになった。

 

「だから、なーんで俺が一人部屋なんだよー……」

 

 前回と同じくジャンが文句をたれると、聞きつけたミロワが年甲斐もなくアッカンベーをして見せる。

 

「言ったでしょ。ジャンは嫌いだって!」

「そりゃねえよ、ミロワちゃん……」

 

 ジャンがガックリと肩を落とすと、二人のやりとりを聞いていたタスクが口を開く。

 

「では、俺がジャンと二人部屋に泊まろう」

「ダメダメ! ミロワ、一人だと怖いもん!」

 

 そう言って、ミロワはタスクの手を取った。

 

「行こっ、タスク!」

「お、おい……」

 

 ミロワに手を引っ張られ、タスクは戸惑いながら彼女の後に続いて行く。

 

 

 

 ————案内された部屋は、テーブルとベッドが二つ置いてあるだけのなんの変哲もない二人部屋ツインルームである。

 

 ミロワは部屋に入るなり奥のベッドに飛び込んだ。

 

「わあ! フカフカだあ!」

「この2日は野宿だったからな。今夜は良く眠れるんじゃないか?」

「うん!」

 

 タスクの声にミロワは顔を上げて元気よく答えた。

 

 タスクはうっすらと微笑むと、部屋に異常がないか確認してようやく荷物を置いた。

 

「小さいが部屋に風呂シャワーがついているぞ。野宿で垢もたまっているだろう。夕餉ゆうげの前に身を清めてこい。俺は後でいい」

「アカなんてたまってないよー……。女の子に対して失礼だよね、タスクって」

 

 口を尖らせるミロワにタスクは慌てて頭を下げる。

 

「す、すまん……」

 

 困り顔のタスクにミロワはプッと吹き出した。

 

「……じゃあ、おわびの印にタスクに背中を流してもらおうかなー?」

「おい、からかうな! お前、もう一人で風呂に入れるだろう!」

「あはは! ゴメン、ゴメン!」

 

 叱られたミロワはぺろっと舌を出してシャワールームに駆け込んでいった。タスクは自分のベッドに腰を下ろしてため息を漏らす。

 

「……まったく、ミロワの奴……」

 

 タスクが独りごちた時、コンコンとノックの音が響き、続いて聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。

 

「ごめんください」

「開いている。入って来い」

「ありがとう」

 

 部屋に入ってきたのは、言わずもがなジャンである。

 

「ミロワちゃんは————シャワー浴びてんのか」

 

 シャワーの音を敏感に聞き取ったジャンはテーブルに着いて、持っていた酒をコップに注いだ。

 

「ホテルのモンに聞いたとこだと明日の夜にゃあ、ロワゴールに着きそうだぜ」

「そうか。思ったより順調に進んでいるな」

「ああ。なんたってヤツら・・・に出くわしても、あの子・・・のことはガン無視だかんな。アンタも戦いやすかったろ」

 

 ジャンはクイッと酒を煽りながらシャワールームの方へ視線を送った。

 

「……ああ。やはり、ミロワは『晄石獣ジェムート』の攻撃対象から外れているようだな」

「どういうことなんだろうな……? 羨ましい限りだけど、カラクリが分かんねえ」

「俺にも分からん。その辺りは首都で医者か学者に調べてもらうしかないだろう」

 

 残っていた酒を一気に飲み干し、ジャンは口元を手で拭った。

 

「————それと、ミロワちゃんの成長速度もだな」

「ああ……!」

 

 ベッドに腰掛けたタスクは顔の前で指を組んで続ける。

 

「出会った当初はなんの感情もない人形のようだったが、そこからすぐに二、三歳ほどの幼子おさなごのように口を開いたかと思えば、その後は精神が驚くべき速度で肉体に追いついていっている……!」

「今は10歳くれえか。この眼で見てなけりゃ、とても信じらんねえわ」

 

 ジャンはからになったコップに二杯目を注いでいく。

 

「でも、やっぱ俺らと会う前の記憶はねえんだろ?」

「ああ。自分が何者なのか、何をしていたのか、何処どこから来たのか、といった質問には全く答えられない。だが、嘘をついていたり隠しているようにも思えない……」

「そうなると、やっぱエラい学者センセイに診てもらうしかなさそうだな」

「…………」

 

 タスクが無言でうなずいた時、シャワールームのドアがガチャリと開いて、身体から湯気を立てたミロワが姿を見せた。その様子にタスクは立ち上がって声を荒げる。

 

「ミロワ! なんとはしたない格好をしているんだ!」

「えー? バスタオル巻いてるじゃん」

「お前には大和撫子としての矜持きょうじはないのか! ちゃんと服を着ろ!」

「ヤマトナデ……なに? だって暑いんだもん。涼しくなるまで、ちょっと待ってよ」

「駄目だ、許さん!」

 

 精神こころは10歳児でも身体は妙齢の女性である。タスクは眼を逸らして叱責した。

 

「いいよいいよ、ミロワちゃん。好きなだけそのカッコでいてくれて」

「うわっ……、ジャンに言われると、なんかスゴいイヤ……!」

「だから、なんでよ⁉︎」

「いいから湯冷めする前に早くしろ! ジャン、お前も自分の部屋に帰れ! 俺たちも身を清めたら夕餉に行くぞ!」

『はーい』

 

 ミロワとジャンが同時に返事をすると、タスクは手拭いを持ってシャワールームに入って行った。ジャンは苦笑いしながらつぶやく。

 

「……ったく、アニキもいつまでもカテえなあ。もうちょいカルくなりゃいいのによ」

「ホント、ホント」

 

 珍しくジャンの意見にミロワが同意した。

 

「ミロワちゃん、晩メシから帰って来たら寝る前にカードゲームでもやるかい?」

「カードゲーム? するーっ!」

 

 ミロワは嬉しそうに手を上げて返事をした。


  

   ———— 第6章に続く ————


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