第33話 一難去って


「ッ…………ここ、は」


 目を覚ますと、天井が見えた。首を左右に動かすと、視界にスヤスヤと眠るナーラが映った。


「おーい、ナーラ。寝てるのか~?」

「みゅう…………」


 頬をツンツンとつつくと、可愛らしい声が返ってくる。


「幸せそうに寝てるな~」


 上半身を起き上がらせ、部屋を見渡した俺はここが医務室だという事は分かった。


「失礼しま~す……って、おぉ、目が覚めたのか」

「あぁ、ついさっきな、アレン」

「いや~、心配したぞ。丸一日寝ていたからな、お前」


 すると、扉の向こうから果物の入った籠を片手にアレンが現れた。


「アレンがいるってことは、ここはクランハウスか?」

「あぁ、魔術機構を使った形跡も見られたし、出来る限り人目につかない所に運ぼうと思ってな」

「迷惑をかけたようだな、すまんかった」

「気にするな。それにお前は被害者だろう?」


 そう言いながら、空いている椅子へと腰掛けるアレン。


「『迷宮』内で倒れていたノーズから得体のしれない魔力を感じて調べてみたところ、禁忌魔法の物だと確認された」

「あぁ、やっぱり禁忌魔法だったか」

「魔法名は聞いたか?」

「確か《逢魔転換》だったな。それで次元獣を取り込んでいたぞ」

「《逢魔転換》か……助かる。これで調査がさらに進められる」


 トップクランという事もあり、今回の件も調査するよう上から命じられているのだろう。ため息を吐くアレンの姿には哀愁が漂っていた。


「トップクランも大変だな」

「お前に比べたら、大したことじゃないさ。魔術機構を使わざるを得ない相手だったわけだし俺でもかなりの苦戦、最悪の場合、大怪我をしてしまうからな」

「そうだな。アレが外に出なくて心底、安堵しているぜ」


 互いに互いを労っていると「んっ…………」という可愛らしい声と共にナーラの瞼がゆっくりと開き始めた。


「おっ、ナーラも起きたか?」

「んぅ……レオス、さん?」


 まだ完全には目覚めて切っていないのか、寝ぼけた眼を向けるナーラ。


「おう、レオスさんだぞ」

「よかったぁ~…………ッ、め、目を覚ましたんですね、レオスさん‼」

「うわっ⁉」


 完全に覚醒した瞬間、こちらに飛びかかってきたので慌てて受け止める。


「うっ、うっ、心配したんですよ~…………‼」

「悪い悪い、ついな」


 胸元で涙ぐむナーラの背中をさすりながら落ち着かせていると、アレンが席を立つ。


「じゃあ、俺はこの辺りで。レオス、しっかりとケアをしてやれよ? ナーラ君がお前の看病をずっとやってくれていたんだからな」

「おう、またどこかで飲みにでも行こうな」

「お前の奢りな」

「はいはい、気が向いたらな」


 軽口を叩きながら部屋を出ていったアレンを一瞥すると、今も胸元で蹲るナーラへ視線を移す。


「そういえば、どうして俺があそこの『迷宮』にいることが分かったんだ? というか、俺がノーズと戦っているのを分かっていたのか?」


 俺が気になっていたことを問いかけると、落ち着きを取り戻したナーラが答える。


「あ、えっとですね、訓練としてやっていた魔力探知におぞましい魔力を感じて、すぐ近くにレオスさんの魔力も感じ取って、何か危険な状況にいるんじゃないかと思ったんです」

「それだけで来たのか? かなりの距離があったと思うんだが…………」

「当然です‼ レオスさんは私の…………あぅ」


 快活だった様子から、急に頬を赤らめて俯くナーラ。一体、何を言おうとしたのだろうかと思っていると部屋の扉が開かれ、外から見慣れた人物が入ってきた。


「え、なに、この状況? レオス、ナーラちゃんは未成年だよ?」

「変な勘繰りをするな‼ お前が何を想像しているのかは知らんが、何一つやっていないと言わせてもらうぞ‼」

「ですよね~、ナーラちゃんからならともかく、チキンなレオスからは無理だよね~」

「誰がチキンだ、誰が」


 部屋に入ってきたクラリスのいつもと変わらない様子にどこか安堵を覚えていると、俺に引っ付いていたナーラをそっと引き剥がすクラリス。


「ナーラちゃん、ちょーっと引っ付き過ぎじゃない?」

「そんなことはありませんよ? クラリスさんだって、レオスさんに膝枕をしてもらっていましたし、私もこのぐらいのスキンシップは許されるべきです」

「「フフフッ」」

「…………」


 おかしい、窓から暖かな光が差し込んでいるはずなのに室内の温度が急激に下がった気がする。笑みを浮かべてはいるが、目は全く笑っていない二人を前に俺は空気になろうと息をひそめる。


「レオスも流石に引っ付き過ぎだと思うよね?」

「そんなことありませんよね、レオスさん?」


 しかし、神は逃げることを許してくれず、究極の二択を突き付けられた俺は声にならない声を上げる。


「い、いや~、俺は関係ない気がするんだが…………」

「ある」

「ありますよ」

「うぐっ…………」


 一縷の望みにかけて逃げ出そうとするも簡単に捕まえられ、逃げ場を無くした俺は項垂れる。


「さぁ、レオス」

「レオスさん」

「「はっきりしてね(ください)‼」」


 一連の騒動を振り返らせてくれと、俺は叶わない願いを胸に浮かべながら、ため息をつくのだった。



―――――――――



レオス、君は食われる側だよ、間違いなく…………



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