第27話 膨れ上がる悪意


 一閃。大剣が魔物の首を正確無比に切り落とし、そのまま絶命させる。


「やっぱり『迷宮』は落ち着くな」


 多くの者が聞けば「何を言ってるいんだコイツは」と思うだろうが、少なくとも俺にとっては落ち着く場所だった。

 目的地に到着した俺は手頃な場所に腰かけながら、口を開く。


「で、俺に何の用だ?」


 誰もいない薄暗い空間に俺の声が響き渡る。否、その空間に先んじて足を運んだ人物がいるはずだが、姿を見せる気配がない。


「ナーラ達には嘘をついて来るよう指示までしたのにだんまりか? 用がないなら俺は帰らせてもらうぞ」


 再び空間に俺の声が響き渡る。そして、何も返ってこない。向こうが呼び出したにもかかわらず、この態度かと呆れた俺は立ち上がり、来た道を引き返そうとする。


「《炎弾》」

「ッツ⁉」


 瞬間、僅かな単語と共に巨大な炎弾から背後から放たれた。


「ハァ‼」


 完全なる不意打ちだったが、この程度の攻撃をくらうほど弱くはない。すぐさま反転、同時に大剣をふるい、放たれた炎弾を断ち切った。



「呼び出した相手を殺そうとするとは、どこまで性根が腐っているんだろうな―――ノーズ」

「チッ……平民風情が偉そうに」



 名前を呼ばれた、俺をここに呼び出した張本人であるノーズとその取り巻き達が、暗闇の向こうから苛立ちを隠すことなく現れた。


「『武闘祭』でナーラに完敗した仕返しか? 随分と暇なんだな」

「黙れ‼ これは仕返しじゃない、裁きだ‼」

「は?」

「俺達があんな『学園』出身でもない野蛮な女に負けるなんてありえない‼ あの女が卑怯な手を使ったに違いない‼」

「馬鹿もここまでくれば才能か…………」


 あまりに荒唐無稽な物言いに、俺は一周回って尊敬を覚える。


「裁きと言ったが何故、俺を呼んだ? お前達が恨んでいるのはナーラじゃないのか?」

「はっ、直接嬲るよりもお前を先にボロボロにした方が、あの女は傷つくからな‼」

「なるほどな」


 人の嫌がる事だけは得意なんだなと心の中でため息をつきながら、俺は油断することなく、大剣を構え直す。


「俺を『迷宮』に呼んだのは人の目が届かない所で痛めつけるためか」

「そういうことだ‼ やれ、お前等‼」


 ノーズがそう言うと、背後にいた取り巻き達が飛び出し、魔法を展開しながら接近してきた。


「《暴風槌ウィンドハンマー》‼」

「《烈岩砲ロックブラスト》‼」

「ッ、マジか…………」


 放たれた上級魔法を最小限の動きで躱しながら、一度距離を取った俺は信じられないといった表情で取り巻き達を見る。


「まさか、ノーズの腰巾着が上級魔法を使えるようになってるとはな」

「俺達が…………‼」

「腰巾着だと…………‼」


 怒りを見せ、全身を震わせる取り巻き達に俺は冷たく一言。


「そりゃそうだろ。ノーズは言動こそあれだが、まだマシな実力だった。だが、お前等は欠片も成長していないからな。これを腰巾着と言って何が悪い?」


 『学園』に通っていた頃から中級魔法は扱えたが、今日の試合で使っていた魔法の完成度は当時とほとんど変わっていなかった。


 才能があるわけではないのに驕り続けた結果、大した成長もしなかったのは明らかだった。


「ッ、殺す…………‼」


 目を血走らせ、一人が距離を詰めて来る。その手には先ほどと同じように上級魔法が展開されている。


「甘いんだよ」


 しかし、魔法が放たれるよりも速く懐に潜り込んだ俺が大剣を振り上げる。


「ガッ⁉」


 腹に直撃を受けた取り巻きは吹き飛び、壁に衝突。衝撃で意識を失った取り巻きが地面へ倒れ込むのを一瞥し、遠距離から放たれた上級魔法を弾く。


「なっ、テメ、ッ…………⁉」

「驚く暇があるなら防御をしろよ」

「ウッ…………」


 大剣の腹で頭を思いっきり殴られたもう一人の取り巻きもその場にうつ伏せで倒れ込んだのを確認した俺は動く様子を見せないノーズの方を向く。


「さて、あとはお前だけだな、ノーズ」

「ハッ、雑魚を倒したからって調子に乗るなよ?」


 獰猛な笑みを浮かべるノーズの目に映る圧倒的な自信の色に、俺は小さく身構える。


「見せてやろう、俺がお前のような無能とは違うという証を‼」


 そう言い、手を掲げると詠唱を始めるノーズ。



「《来たれ来たれ、大いなる獣よ 汝が求めし馳走はすぐそこに》」



 詠唱が始まると気絶したはずの取り巻き達が起き上がる。


『…………』


 気絶したまま、まるで見えない何かに操られるかのように佇む取り巻き達を壁にしながら、ノーズは詠唱を続ける。



「《喰らえ喰らえ、馳走はそこに》」



 次の瞬間、取り巻き達の身体が四散。辺りに血しぶきをまき散らし、物言わぬ肉塊となった取り巻き達『だったもの』を前にしてもノーズは一切、表情を変えない。



「《その馳走を対価に、我が願いを聞き届けたまえ》」



 そして、何のなかったはずの『迷宮』内に黒い渦のようなものが現れ、中から渦よりも黒い二本の腕が飛び出てきた。そして、腕は地面に転がる肉塊を拾い上げるとすぐさま渦の中へと戻って行った。


『バリッ、ボリッ‼ バリバリッ‼』

「ッ、えぐいな…………」


 渦の向こうから肉を剥ぎ、骨を折りながら咀嚼する音が聞こえ、俺はあの腕を呼び出し、これから何かをやろうとするノーズへ厳しい目を向けるも、当の本人は気にした様子も無く、魔法を発動する。



「―――《召喚:次元獣サモン・イーター》‼」



 魔法名と共に渦から現れたのは異形の怪物。数多の生物を喰い殺し、混ぜ合わせたであろう漆黒の怪物。その姿を見た俺は驚愕を露にする。



―――――――――



《召喚:次元獣》

他者の命を犠牲にし、凶悪な魔物を召還する魔法。


こんな力を嬉々として使うノーズ…………



もし「面白い‼」「続きが読みたい‼」と思ったら、♡や☆、フォロー等々、お願いします‼


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る