第23話 祝勝会
「では、ナーラちゃんの勝利を祝して~‼」
『かんぱ~い‼』
会場からそれほど遠くない位置に建てられた露店のテーブル席で、俺達は軽い祝勝会を開いていた。
「ゴクゴクッ、ツツ~~~あぁ、やっぱり美味しいね~‼」
「何、酒を飲んだみたいな感じを出してるんだよ。ただの果汁ジュースだろうが」
「チッチッチッ、こういうのは雰囲気が大事なんだよ。ね、ナーラちゃん」
「ごめんなさい、流石にそれは分かりません」
「え~⁉」
先ほどの不機嫌な態度は鳴りを潜め、いつもの調子を取り戻したクラリスは「そんな~」と項垂れながら、テーブルにもたれかかる。
「可愛い可愛いナーラちゃんが私の肩を持ってくれないなんて…………」
「当然だろ。というか、そのノリについていける奴なんていないだろ」
「筋肉のせいだ」
「んなわけあるか」
「あ、はい、確かにレオスさんのせいではありますね」
「え⁉」
「ほら、見たことか~」
いつもの調子を取り戻すどころか、倍近くウザくなったクラリスは一旦、無視してナーラに問いかける。
「ど、どうしてだ? 俺、なんか不快にさせるようなことをしていたか?」
「い、いえ、不快になるとかはないのですが、こうモヤッとしたと言いますか…………」
「モヤッとした…………?」
「一先ず、レオスさんが悪いけど悪くないということを理解してくれたら大丈夫です」
首を傾げる俺に対し、なぜかため息を吐いたナーラはがくりと肩を落とし、手に持っていた飲み物をちびちびと飲み進める。
「そ、そうか………」
よく分からないままだが、これ以上の詮索は無意味だろうし、そこまで理由に対して強い興味がなかったので、俺も同じように頼んでいた飲み物で喉を潤していく。
「流石、筋肉。人の心がないね」
「人の事を筋肉呼ばわりする方が余程、人の心がないと思うぞ」
「いやいや、これは愛称だから。むしろ、人の心があるね」
「今の会話で、お前の頭が非常に独創的だということは再認識できたよ」
呆れた表情で呟いていると、テーブルに次々と頼んでいた料理が運ばれてきた。
「レオスさん、どうぞ」
「あ、あぁ、ありがとう…………」
料理に手を伸ばそうとする前に、ある程度取り分けられたお皿がズイッと渡された。お皿に入っていたのはどれも俺の好きな物であり、おそらくだがクラリスから聞いたりしていたのだろう。
届いてからの一瞬でこの量を取り分けたのか、と感心しているとクラリスがニヤニヤとした笑みを向けてきた。
「なんだよ」
「いや~、筋肉が年下にお世話されてるな~って」
「どこがだよ」
「探索でボロボロになった主人を献身的に支える奥さん的な?」
「お前の目はどうなっているんだよ」
どこをどう見たら、そのような見え方になるのだろうか。どう頑張っても、そうは見えないだろうと思いながら料理を口に運んでいく。
「そうですよ、クラリスさん。今の私じゃあ、レオスさんの奥さんなんて夢のまた夢ですよ」
「ふ~ん、今はね?」
「はい、今はです」
『……………………』
無言で微笑み合う二人に挟まれた俺の目にバチバチと光る物が見えたが、気のせいだと自分に言い聞かせて、無理矢理別の話題を引っ張り出す。
「そ、そういえば、ナーラが最後に使った魔法‼ あれは凄かったな‼」
「え、そ、そうでしょうか?」
「あぁ、四属性の複合自体は前も見せてもらっていたが、今回は魔法陣を重ねていただろ?」
「はい。クラリスさんから魔法の強化方法として教えていただいたんです」
魔法を使う上で構築される魔法陣。これの完成が速ければ速いほど魔法は速く放たれ、構築の強度が高ければ高いほど、その威力は強力になる。
そして、その魔法陣を重ねることで魔法の威力はさらに増幅する。異なる魔法の陣を重ねることで全く新しい魔法へと昇華し、強力な魔法が放てるのだ。
しかし、魔方陣を重ねるのは難度の高い技術であり、並の魔法士では二つ重ねることすらままならない。さらに、重ねる枚数が増えれば増えるほど難しくなるにもかかわらず、四枚も重ねてみせたナーラはお世辞抜きで凄いのだ。
「才能があるとは分かっているが当たり前のように飛躍する姿を見ていると、自信をなくしてしまうな」
「わ、私なんてまだまだです‼ レオスさんの方がずっとずっと凄いです‼」
「ははっ、ありがとうな。だが、いつかはナーラの方が強くなるぞ、間違いなくな」
成長度合いを考えれば、ナーラはまだまだ伸びる余地がある。故に俺よりも強くなることを俺自身が感じ取っていた。
「それはどうだろうね~」
しかし、その考えに対し、クラリスが疑問の声をあげた。
「レオスは成長し続ける。ナーラちゃんや私が頑張っても、レオスはずっと先に進み続ける、そんな気がするよ」
「分からないぞ? ある日、急に覚醒する奴だっているからな。お前が俺に勝ち越すのもそう遠くはない話だと思うぞ」
「無理無理。レオスに勝ち越すとか夢のまた夢過ぎるって」
そう言いながら、手をヒラヒラと振るクラリス。その言葉を聞いて、ナーラは目を見開きながらおずおずと尋ねてきた。
「あ、あの、クラリスさん。レオスさんって、どのくらい強いんですか?」
「ん~、凄く簡単に言うと十回模擬戦をやったら、九回は絶対に負けるね~」
「そ、そんなにですか⁉」
「うん~、それに残りの一回も勝率は半分もあったらいいぐらいかな~」
「クラリスさんがそこまで言うなんて…………」
みっちりと指導を受けたからこそ、ナーラはクラリスの強さをよく知っているのだろう、信じられないという表情を浮かべていた。それに対し、ニヤニヤと笑みを浮かべたクラリスが問いかける。
「そうだ、せっかくだし、レオスと戦ってみる? 百聞は一見に如かずって言うしね」
「え、い、いいんですか? その、私は魔法士ですが…………」
「大丈夫大丈夫。今のナーラちゃんがどれだけ全力で戦っても、レオスには勝てないからね~」
「いやいや、そんなことはないだろ。こっちは近接戦しか出来ないんだぞ?」
「それでも勝つのがレオスっていう理不尽な筋肉でしょ?」
「筋肉に理不尽なんてねぇんだよ」
確かに探索者としても経験はこちらの方が上だ。だから、俺が勝つという考えも分からなくはない。だが、そもそもの話として俺とナーラが模擬戦をする必要はないのだ。
「ナーラ、クラリスの言っていることは冗談みたいなものだ。あまり真に受けないでくれ」
「そ、その、レオスさんは私と模擬戦をするのが、嫌、ですか?」
「そういうわけではないんだが…………」
「で、でしたら、私は模擬戦をやりたいです‼ 今の私とレオスさんとの間にどれほどの差があるのかを知りたいです‼」
力強い眼差しでこちらを見つめるナーラ。ここまで強く頼み込まれると断るのも難しい。
「よしっ、分かった。やるか、模擬戦」
「ッツ‼ あ、ありがとうございますっ‼」
「そんなに頭を下げなくていいぞ。この
ナーラは『武闘祭』で全力を出してはいなかった。つまり、あの試合よりも強力な魔法が使える可能性もあり、それと戦ってみたいという極めて個人的な楽しみもある。
もちろん、一番はナーラの要望である『差の把握』であることを忘れず、望むとしよう。
「これを食べ終わったらギルドの修練場でも借りるか。教会でもいいんだが、ここからならギルドの方が近いしな」
「分かりました‼」
この後の予定を軽く決め、俺達は再び食事を楽しむのだった。
―――――――――
あまりにも強さに対して、ストイック…………‼
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