第11話 強くなるために
それから、しばらくして。俺は思いついたことを伝えるため、休憩しようと提案しながら、近くの岩に腰かけた。
ナーラも同じように座ったのを確認した俺は早速、本題に入る。
「なぁ、ナーラ」
「はいっ‼ 何でしょうか‼」
「これはあくまで俺個人の意見なんだが、君は今すぐにでもクランに入るべきだ」
「え、えっと、どうしてでしょうか?」
不思議そうに尋ねるナーラを見つめながら、俺は答える。
「ナーラの才能は他者とは比べ物にならないほどなんだ。俺みたいな近接戦闘を得意とする奴じゃなく、もっと魔法に精通している奴から指導を受けたほうがいいと思うほどに」
「え、えっと………」
戸惑い、右往左往するナーラの肩に手を置き、視線を合わせる。
「俺から教える事が出来るのはソロでの『迷宮』探索の仕方や心構えぐらいだ」
「そ、それでも、私はレオスさんに教わりたいです‼」
強い意志を感じさせる声でナーラは告げる。あまりの意志の強さに思わず、俺はのけぞってしまう。
「ど、どうしてだ? 俺から教わる価値があるとは思わないんだが」
「その、私はレオスさんから精神面を学びたいと思っていまして…………」
「精神面?」
ナーラの言葉に首を傾げる。ギルドで言われた時もそうだが、あまり俺は自分の精神を特別だと思っていない。どちらかというと、頭がおかしいのでは、と思っているぐらいだ。
「はい‼ あんな屈強な魔物を前に一歩も引かなかった勇姿‼ 全く冷静さを欠くことなく、戦い続けることの出来る心の強さを私はレオスさんから学びたいのです‼」
「い、いや、それはギルドでも話したが「ただ、それだけだ」って割り切っているだけでそれ以外にやっていることはないんだ」
「普通の人はそんな風に考えられないんですよ‼ 格上の魔物を前にしたら震えあがって、動くことすらままならないんですよ‼」
「そう言われてもなぁ…………こればかりは経験やら考え方で出来上がるものだからな。教える事は出来ないと思うぞ?」
「レオスさんがどのような考え方をしているのか、そこからどのように動いているのか。そういったものを見させていただけるだけでもいいんです‼ お願いします‼」
「ん~」
ナーラの懇願を聞き、俺は考える。心の持ちようとは教えられるものではないし、理論で学べるようなものでもないのだ。
一人、悶々と悩んでいると頭にとある考えが浮かび上がった。
「…………これなら」
口元に手を当て、浮かび上がった考えを整理していく。そして、考えがまとまり、俺はゆっくりと頷く。
「よしっ、ナーラ、今から少し下の階層に行くぞ」
「え、あ、は、はい‼」
唐突に告げられ、戸惑いを見せるナーラを連れ、俺はより下の階層へと向かうのだった。
「あ、あの、レオスさん…………どうして下の階層に?」
ある程度の階層まで降りるとナーラがおずおずと尋ねてきた。
「これからナーラにはこの階層に出てくる魔物と一人で戦ってもらおうと思ってな」
「…………へ?」
告げられた内容に素っ頓狂な声を上げるナーラ。その顔には「絶対に無理です‼」という強い感情が浮かんでいたが、無理もないだろう。
この階層にはナーラの実力では勝てないような魔物ばかりが出現するにもかかわらず、俺は一人で戦えと言ったのだ。全力で抗議するのは当然のことだった。
「まぁまぁ、まずは話を聞いてくれ」
しかし、このような考えに至ったのにはちゃんとした理由があるのだ。
「ナーラは俺の精神面を学びたいと言っていたが、見るだけで同じように振る舞えるようにはならないんだ」
「どうしてでしょうか?」
「俺がこんな風に考えれるようになったのは学園に通っていた頃に同じような経験を何回もしてきたからであって、最初から出来たわけではないんだ」
「そうなんですか?」
「あくまで俺個人の意見だが、経験を重ねていくにつれて形になっていくものだと考えているんだ」
「なるほど…………」
説明を真剣な眼差しで聞くナーラに、俺は人差し指を立てて見せる。
「ナーラが仮に俺のようになりたいのであれば同じように「経験」を積ませればいいのではと考えたんだ」
「だから、私の実力では勝つのが難しい魔物がいる階層まで降りたということでしょうか?」
「正解‼」
指を鳴らし、満足げに頷く俺とは反対に不安そうに表情を曇らせるナーラ。
「その……いきなりやって、出来る物なのでしょうか?」
そして、小さな声でそう問いかけてきた。それに対し、俺は一言。
「出来ないだろうな」
「え、そ、それじゃあ、出来なかったら……し、死んでしまうのでは……?」
あまりにもストレートな言葉に動揺しながらも質問を続けるナーラ。
「本当に無理だと思ったら、俺がすぐに変わるから心配せずに挑戦してみな」
「わ、分かりました…………‼ やってみます…………‼」
俺の言葉で覚悟を決めたナーラは拳をギュッと握る。
「一先ず、戦う魔物を探すか。あまりにも実力がかけ離れていると危ないからな」
「はい‼」
さてさて、どこまで出来るだろうか。
俺は元気に返事をするナーラへ期待の視線を向けながら、迷宮を進むのだった。
―――――――――
レオス、普通にスパルタ…………
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