第6話 格上との戦い方


『オォオオオオオオオオオオオオッ‼』


 咆哮と共に一瞬で距離を詰めたグリムハントがその腕を信じられない速度で振るう。


「ッ⁉」


 迫りくる鋭く研ぎ澄まされた爪をギリギリで躱した俺は反撃とばかりに脇腹に攻撃を繰り出すも――――――キィイン‼


 まるで鋼鉄を叩いたかのような音が響き、攻撃を仕掛けたはずの俺が大剣ごと後ろに弾き飛ばされる。


「や、っぱり、か……っと‼」


 俺はよろめきながらも、繰り出される一度でも食らえば即ゲームオーバーの攻撃を時に弾き、時に躱していき、グリムハントから一定の距離を取る。


『オォオオオオ―――………』

「流石、A級魔物。攻撃、防御、速度、どれをとっても化け物じみたスペックだな。俺じゃあ討伐することは難しいだろうな―――」


 そして、今、自身が持つ武器、道具を把握した上で俺は率直な感想を呟く。



「―――だが、時間稼ぎなら出来る」



 次の瞬間、今度は俺がグリムハントとの距離を詰め、大剣を振り下ろす。


「オラッ‼」

『オオオオオォッツ⁉』


 大剣によって、地面に叩きつけられたグリムハントが苦悶と困惑が混ざった声を上げる中、俺は《身体強化》の魔法を発動させる。


「吹っ飛べ‼」

『オォッ⁉』


 上昇した腕力によって、さらに威力があがった大剣の一撃を食らったグリムハントが吹き飛ばされ、『迷宮』の壁に衝突する。


「確かに防御力が高く、傷はつけれないが、こんな感じで吹き飛ばすことは出来るよな?」


 グリムハントが壁から地面へと落ちる前に、今度は強化した脚力で跳躍し、その胴体に蹴りを放つ。


『ォ――――――オオオオオオオオッ‼』


 攻撃を食らいながらも咆哮を上げ、俺の足を掴もうとするグリムハント。しかし、その手は空を切り、胴体を蹴った反動で先に地面に着地した俺は大剣を下段に構える。



 そして―――



「もう一回、吹っ飛べ‼」

『ッ、ォオオ⁉』



 ―――落下してくるグリムハントを真上に打ち上げた。



『ッ―――オ、』


 小さな悲鳴と共にグリムハントが背中から地面に衝突し、空間に轟音が響き渡る。十分な距離を取った俺は手元の大剣をチラリと見る。


「ふぅ……壊れる心配はなさそうだな」


 そう言いながら、傷一つついていない大剣から正面へ視線を戻す。


『ァ、アアアア――――――………………』


 先ほどまでとは違う声を上げながら、無傷で立ち上がるグリムハント。


「ハッ、かすり傷ぐらいはつけれると思っていたんだが、これでも無傷とはな」


 A級にふさわしい実力を持つ魔物へ、心からの畏怖を送りながら、防御の構えを取る。


「さぁ、見せてくれよ。お前の力はこんなもんじゃないんだろ?」

『――――――――――――ッ、ツ‼』


 俺の言葉が通じたのか、それとも、ただの気まぐれか。いずれにせよ、先ほどよりも倍以上の速度で接近してきたグリムハント。


『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』


 凄まじい圧と共に迫りくるは漆黒の拳。大剣で弾くも、もう一つの拳がその隙を狙って放たれる。


「おいおい、それは反則だろ?」


 口では余裕そうにしながらも、内心では冷や汗を垂らし俺は大剣を無理矢理、引き戻す。


「ラアッ‼」


 眼前にまで迫っていた拳を何とか大剣で弾くも、グリムハントの攻撃は苛烈さを増していき次第に防ぎきれなくなっていく。


『アァアアアア‼』

「ッ―――……⁉」


 単純な拳の連撃。だが、単純が故に強力。かろうじて急所は外しているが、全身に増えていく打撲がジンジンと痛む。


「いってぇな、もうちょっと手加減してくれもいいだろうが」


 こんな言葉を投げかけても、グリムハントが攻撃の手を緩めてくれるはずがない。本来なら、絶え間ない強烈な攻撃を前に、大なり小なり恐怖を覚えるのだろう。俺だって怖い。



「そうだよな、手加減なんてしてくれないよな―――なら、死ぬ気で食らいつくだけだ‼」


 だから、だからこそ、心に勇気を灯す。どれだけ身体がボロボロになろうとも、心だけは負けてはならない。


 無理矢理、笑みを浮かべながら、さらに《身体強化》を発動する。



「さぁ、本命が来るまでの間、俺とのタイマンを楽しもうぜ、グリムハント‼」

『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』




―――――――――



レオス「時間稼ぎなら出来る」


普通はできません。レオスがおかしいだけです。



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