第2話 『学園』


「落ち着いたか?」

「はい……みっともない所をお見せしました……」


 ギルド内に建てられた飲食店にて、テーブルに並べられた料理を食べながら申し訳なそうな声で謝るノエル。


「けど、レオスさんが『学園』の元生徒だったなんて……」

「こういっては何だが、そこまで驚くことなのか?」

「驚きますよ‼ だって、『学園』ですよ⁉」



『探索者育成機関』―――通称:『学園』


 世界の至る所に出現した『迷宮』を攻略する探索者という職業ができ始めた頃。『迷宮』内を調査できる唯一の手段とも言える探索者はどの国にとっても必要であったため、各国は将来、自国の『迷宮』を調査できる探索者を育成するための機関を作り上げた。

 『学園』を卒業して探索者となった者達は皆、質の高い指導を受けている為、並の探索者達よりも優秀な傾向にあり、一方で…………



「その、プライドが高い方が多い、と……」

「あぁ~……確かにそうだな」


 人間らしいと言えばいいのだろうか、他者より優れていると理解している『学園』上がりの探索者は一般の探索者を見下す傾向にあるのだ。

 そもそも『学園』に通う者達の多くが貴族であり、プライドが高く、昔は自分も絡まれたなと思い出す。


「だから、レオスさんから『学園』に通っていたと言われて、凄く驚いたんですよ?」

「どうしてだ?」

「その……あまりにも『学園』上がりの探索者には見えなくて……」


 ためらいながら呟くノエルに俺は苦笑する。


「俺はどちらかと言うと、一般の探索者よりだからな~」

「でも、これで納得出来ました。レオスさんが探索者になって、たったの二カ月しか経っていないのに、ここまで強い事が」


 そう言うと、席を立つノエル。


「ご馳走様でした‼ お会計は私がしておきますね‼」

「え、いや、別にこれぐらいなら払うぞ?」

「いえいえ、今日は色々とご迷惑をかけましたし、いつもギルドに魔石を供給してくれているので、そのお礼をさせてください♪」

「……じゃあ、今日だけはその言葉に甘えさせてもらう」

「は~い♪」


 鼻歌を歌い、軽快なスキップをしながらテーブルから離れていったノエル。


 そして、彼女と入れ替わるように屈強な身体をした複数の男性探索者達が俺の元へと近づいてきた。


「おい、レオス‼ 今日と言う今日は許さねぇぞ‼」

『そうだそうだ‼』



 ―――全員が瞳に血涙を浮かべながら。



 揃いも揃って、お前らは……と、いつもの光景に俺はため息を零す。


「別にいいだろうが、受付嬢と話すぐらい」

「普通はないんだよ‼ 俺達みたいな探索者は探索者同士で馬鹿騒ぎしてるのが普通で、受付嬢とは仕事でしか関わる機会がないことぐらい、お前も知っているだろうが‼」

「そうだな。ノエル達は立派な組織であるギルドの職員であり、俺達はただの探索者だ。仕事でしか関わらないのは当然のことだろう?」

「なら、なんでお前はノエルちゃんと一緒に飯を食っていたんだよ⁉」


 そんなことを言われてもな……探索者になって、初めての依頼で関わってから何となく話す機会が多かっただけ―――と言ったら、さらにキレられそうだな。


「というか、なんでそこまでお前達は血涙を流すんだよ? 話したいなら、話しかければいいだろうが」

「馬鹿言うな‼ 連日、鬼のような業務をこなす彼女達の時間を、俺達のようなむさ苦しい男共に割かせれるわけないだろうが‼」

『そうだそうだ‼』

「なんでそこは良心的なんだよ⁉ そう考えることができるなら、俺に不満をぶつけるなよ‼」

『うるせぇ‼ お前は例外だぁああああああああ‼』


 そう叫び、次々と料理や酒を注文していく男達。


「お、おい、飲み食いするのは構わないが頼み過ぎるなよ?」

『分かってる‼』

「本当かよ…………」


 あとから食べきれなくなって、ここの店長に怒られるような状況になっても知らないぞ?

 あっという間にいつも光景へと様変わりした店内をなんとなく見渡した俺の視界に、とあるパーティーの姿が映る。


(あれは、確か…………)


 メンバーは男が三人で、女が一人。女の方は見たことがないが、男の方は見覚えがあった。そのパーティーに意識を集中させていると、先ほどのむさ苦しい男達の一人が、いきなり腕を肩に回してきた。


「お~い、レオスよ~何で、お前はいつも浅い階層にしか潜らないんだ~?」

「ちょ、ライガー、近い近い、ってか、酒臭ッ⁉」


 以前、困っていたところを助けてもらい、それ以降、こうして絡むことが増えた先輩探索者であるライガーを押し返そうとするも、かなりの酒を飲んだのか、中々離れてくれない。


「なぁ、教えてくれって~」

「あ、俺も聞きてぇ。ぶっちゃけ、レオスって実力は新人のレベルじゃないもんな」

「『学園』上がりだし、ある程度の階層だったらソロでも通用するだろ?」

「なぁ、何でなんだよ~?」


 ライガーに続き、他の先輩探索者達も詰め寄りながら問いかけてくる。


「いや、別に大した理由はなくて、本当に同級生に行かないよう言われてるからなんだよ」

「はぁ? それだけの実力があれば、別に大丈夫だろうが……お前の同級生は過保護なのか?」

「過保護、というよりは……」


 頬をかき、どう答えるべきなのかと悩んでいた時だった。



「コイツはすぐにハイになるので、楽に攻略できる階層までしか潜らせないようにしているんですよ」



 聞き覚えのある声が聞こえてきた。



―――――――――



ライガー達『俺達も受付嬢と話したいんだよぉ‼』

レオス「俺に言っても意味ないだろうが‼」

ノエル「いつも以上に騒いでるな~」(他人事)




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