第2話 現状把握
あれから大体一年が経過した。不思議な感覚だ。霊体になってからやることが無くて一日中、ボーっとしてるだけの毎日だった。なのに別に暇とも退屈とも思わなかった。恐らく、人間とは寿命が違う生物故の感覚なんだろう。もっとも寿命という言葉も生物という言葉も俺に当てはまるかは分からないが。
「うーえい」
「はーい。幽霊ですよ〜」
床に座りながら俺を指差して単語を話すカインについ頬が緩みながらも返事をする。
カインは一歳になった。もっと言えば一歳と何ヶ月とか。言語能力が発達してきたのか、簡単な単語なら理解し喋るようになってきた。最初に喋ったのは「ママ」で次が「パパ」、そしてその次が「ゆうれい」だ。カインの両親は不思議がっていたが、俺としては何故か凄い嬉しい。
さて、かわいいカインはひとまずとして、俺だってただ過ごしてきた訳じゃない。情報源は限られているがある程度の事は理解出来た。
まず初めに俺についてだ。幽霊という事に間違いはないだろう。見えないし透過するし話し声も相手には聞こえないしで最悪。俺の声が聞こえるのはカインだけだ。そしてその事からカインは特別な存在である事も分かる。
そしてもう一つ、俺は最初カインの中に居た訳だが、まずその空間とその現象に分かりやすいように名前をつけた。
カインの中を「
カインから俺が意識だけ出た……最初に俺が「心海」から光に誘われ光の中に入った時の状態、これを「
最後にカインから完全に独立した状態「
という感じだ。それに加えて他にも分かった事がある。
「カインちゃんは何のお遊びしてるのかな〜?」
「まま、うーえい!」
「幽霊さん?んーやっぱり見えないわ」
子供部屋に入って来たのはカインの母であるマーガレットだ。流石に一年も一緒に?生活していたら名前も他の事も分かる。カインに俺の方(虚空)を指さされ困っている。今はまだ幼子の戯言で済むけどこれから先カインが大きくなったら流石にヤバい奴認定されるだろう。マジでスマン。
カインの母、マーガレット。茶髪のウェーブヘアを後ろに纏めた髪型にいつもニコニコ温和な彼女は現在二十二歳、二十歳の時にカインの父、クラウスと結婚。それをきっかけに魔法使いと冒険者を引退している。魔法使いと冒険者が俺の想像するアレかどうかは分からないから下手なこと言えないが、仕事よりも子供を優先した結果なのだろう。
……というようにマーガレットの紹介をしたいわけではなく!俺の把握した情報のもう一つは……丁度いい。マーガレットで実践させてもらおう。
俺はマーガレットに近づき、その「心海」へダイブを試みる。しかし俺の手はマーガレットを透過し宙を掴む。
そう、カイン以外の「心海」には入れないのだ。さらに「憑依」も同様に不可能だった。これは、マーガレット相手だけでなく、クラウスや他の町民にも試したから合ってるはず。
「マーガレット!カイン!ただいま!!」
若々しい、カインと同じ黒髪の男が勢いよくドアを開けた。この家の大黒柱が帰ってきたようだ。「クラウス・ロートン」、カインの父親だ。その見た目に反せず年齢は二十五歳で俺とタメだ。以前の俺だったら劣等感を感じていたかもしれないが、そこは幽霊パワー、何も感じない。むしろ尊敬まである。
「クラウス、お帰り。でも……ね?」
マーガレットが口に人差し指を当てる。静かにか。カインが寝ちゃったようだな。いつも少し遊んだ後の時間はお眠だもんな。
「ごめん。カイン起こしちゃったかな?」
「大丈夫。ぐっすり眠っているわ」
うるさかったかな?と慌てるクラウスを宥めるマーガレット。マーガレットはそのままカインを抱きかかえカインのベッドまで連れて行き、そこに寝かせた。
そしてそこからは夫婦の時間。俺も野暮ではない。家を抜け出し散策に出掛ける。これがこのロートン家の日常。カインもそうだが、なにかこの家族を見ていると心の棘が抜けていくような、そんな気持ちになれる。
どうか、これからもあの家族が平穏に暮らせますように。
俺は遠い遠い世界の神に祈りを託した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます