第20話:鳥居を越えて

 一休みした俺達は、代金を支払い攻略に戻る。


 「そう言えば、姫は武器は持って来てないんすか?」

 「今回の私の武器は、この剣鈴けんれいだけだ」

 「西洋で言うハンドベルっすね」

 「ああ、奉納の舞を舞わねばならぬ」


 チカゲが姫を背負い会話している。

 つまり姫の仕事は神様への舞の奉納か。

 まあ、戦闘は俺達でやればいい。


 「うひゃ! 雷っす~~~~っ!」


 突如降って来た雷に驚くチカゲ。


 「チカゲ殿、落ち着かれよ!」


 チカゲに背負われているシャーロット姫が驚く。


 「雷は面倒ですわね?」


 サミダレさんも苦い顔になる。

 湖で出会った時にやられてたな。


 「だが、進まないと」


 俺は皆に向けて呟く。


 休憩所の次に出た場所は、雷雲で覆われた荒れ地。

 ゴロゴロズドンと、リズムに乗って雷が大地に突き立てられる。


 「よし、皆に避雷符を貼り付けるぞ?」


 俺は腰の大福帳を破って呪符を生み出し、仲間達に配る。

 この大福帳、魔力の宿った紙で出来てるから術の触媒に便利だ。


 「さあ、焼き魚にされる前に走りませんと!」

 「いやサミダレさん、龍っすよね!」

 「龍は雷にも強いのではないのか?」

 「落とせても喰らえばダメージは受けますわ!」


 サミダレさんが叫ぶ。


 「取り敢えず、俺の呪符で避けるはずだから急げ!」


 漫才をしながら走る俺達。

 こう言う休めそうにない場所で戦闘したくない!

 だが、目の前に落雷と共に太鼓を背負った巨大な赤鬼が現れた。


 「か、雷様っす~~!」

 「チカゲ殿、魔物だから! 本物の雷神様ではないから!」


 チカゲの背で姫があやす。


 「ちい、先手必勝ですわ! 酒炎乱舞!」


 サミダレさんが口から火を吐き薙刀に炎を灯す。

 そして、頭上で薙刀を回転させながら敵へと突進した!


 ……ドンドン、ズドン!

 赤鬼は両手のばちで背中の太鼓を鳴らし、雷を降らせてサミダレさんに落とす!」

 避雷符で直撃は避けたが、衝撃で弾き飛ばされた!


 「あ~~~れ~~~!」

 「いや、何してるんですか!」


 俺は飛んで来たサミダレさんを受け止め、地面に降ろす。

 赤鬼は太鼓を乱れ打ち、俺達の周囲に雷を落としまくる。


 「よ! は! てや! マホロバ妖刀流、八方飛びっす!」

 「チカゲ殿、流石!」


 姫を背負って護衛するチカゲが、地面を飛び跳ねつつ雷を避ける。


 「無様を晒しましたが、汚名返上ですわ! 海嘯かいしょう起こし!」


 サミダレさんが、薙刀を振るえば赤鬼へと向かい高波が起こる。


 「よし、水除符! とうっ!」


 俺は足に水を避ける呪符を貼りジャンプして波に乗る。


 「流派にはないが、波乗り斬りだ!」


 波と共に突進しながら横薙ぎに刀を振るい、赤鬼を一刀両断した。


 「流石はご主人、決めてくれたっす♪」


 後ろからチカゲが駆け寄る。


 「空が晴れたぞ、やったな♪」


 姫が空を見てはしゃぐ。


 「あの赤鬼が原因でしたのね、いい天気ですわ♪」


 サミダレさんも笑う。

 雷雲が消えて晴れ渡る空の下、俺達はのんびり歩いて鳥居を潜り抜けた。


 「……今度は、南国の密林と言う奴か?」

 「酒場で話に聞いた、南方の島みたいですわね」

 「東国のマホロバにいるはずなのに、南国気分っす」

 「迷宮とは、神が作った世界の重箱だな」


 次の階層は、南国の島を思わせる森林地帯。

 何故か目の前に道は開けていたので、俺達は慎重に進む。


 「ご主人、バナナって奴っすよ♪ 食べたいっす♪」

 「チカゲ殿、下手に野生の果実に手出しは?」

 「姫にも上げるっす♪ 回復はご主人にお任せっす♪」


 チカゲが道の脇に生えていたバナナをもぎ取る。


 「皆で分け合うっす♪」

 「ああ、ありがとうな」

 「いただきますわ♪」

 「いただきます、美味いな♪」


 バナナを食いつつ、敵襲を軽快しながら密林を進む。

 食ったバナナの皮は、チカゲが送火丸で燃やした。


 開けた場所に出たので、皆で車座になりひと休みする。


 「そう言えば、姫はどうして霊刀が欲しいんすか?」

 「確かに、お立場からすればいくらでも拝領できそうな?」


 チカゲが尋ねる。

 サミダレさんも気になったようだ。


 「宮中での立場が低くてな、剣での自活の道も探しているんだ」


 シャーロット姫が呟く、彼女にも悩みがあるんだろう。

 帝の血筋を求める輩に嫁がされるとか、ありそうだからな。


 「まあ、姫が剣で道を切り開きたいなら手助けするよ」

 「そうだな、あの大会で優勝を持って行かれたしな♪」

 「……うぐ、ごめんなさい!」


 ヤバイ、根に持たれていた。

 皆で立ち上がり移動を再開する。

 進んで行くと、大きな湖が見えてきた。


 「むむ! これは主がいますわね!」

 「蛇が出るか、魚が出るかっすね!」

 「湖だとそうなるよな」

 「確かに、湖には龍や怪魚が住むと言うな」


 姫を背負ったチカゲを下がらせ、俺とサミダレさんが前に出る。


 「行きますわね、しゃ~~~~~~~~~~~っ!」


 サミダレさんが絶叫する、龍の雄叫びだ。

 衝撃で湖面が揺れると同時に、湖から黄色い大蛇が飛び出した!

 大蛇は大口を開き、緑色の毒液を吐き出す!


 「汚いですわ、アクアシールド!」


 サミダレさんが俺達を水の魔法で作った障壁で覆う。

 毒液は障壁に当たり蒸発した。

 毒液が効かないと見た大蛇、踵を返して湖へと逃げようとする。


 「逃がさないぜ、雷霆一刀両断!」


 俺は日吉丸を抜刀し駆け出しジャンプ。

 同時に呪符を天に投げ、魔法で生み出した雷を纏う。

 稲妻と共に大蛇の首を切り落とし、反対側へと着地した。


 「凄いな、ヨウタローは術と剣を混ぜてる」

 「それがご主人の才能っす♪」

 「殿なら大丈夫ですわ♪」


 何か言いながら、皆がやって来る。

 鳥居を抜けた先は、大きな神社が鎮座していた。


 「おお、ゴールっすよ♪」

 「ふう、これで後は姫が拝領すれば終わりだな」

 「ええ、後金がいただけますわ♪」

 「皆、ありがとう♪」


 姫が俺達に礼を言う、同時に神社の社殿から飛び出した光。


 「よくぞ参った、霊剣を求めし者よ♪」


 光が姿を変えて背中に両刃の剣を背負った、長い銀髪の美少女の形になる。

 少女の服装は、白い女性の神職の衣装だ。


 俺達は全員、銀髪の美少女の姿をした女神の前に跪いた。


 「うむ、我がツルギノミタマである♪ よくぞ辿り着いた♪」

 「ミタマ様、私シャーロット・マホロバに霊剣をお授け下さい!」

 「うむ、それでは我に舞を奉納せよ♪」


 ミタマ様が告げると同時に俺達は、檜舞台の上に転移した。

 シャーロット姫は舞台の中心で、剣鈴を剣に見立てて剣を振るうように舞う。

 その動きは、端で見ていた俺達から見ても美しいと感じられた。


 「うむ、そなたこそ我が霊剣の主にして我が使徒に相応しい♪」

 「あ、ありがとうございます♪」


 ミタマ様が姫を拍手で讃え、桃色の刃の打刀を授けた。


 「こ、これが私の霊刀♪ ありがとうございます♪」

 「うむ、霊刀千年桜せんねんざくらじゃ♪」


 姫が受け取り涙を流す。

 俺達も拍手で讃えたのであった。


 「帝の姫よ、千年桜はこの神宮の宮司の証になる刀じゃ」

 「はい、この社に移り住み修行に励みたいと思います」


 ミタマ様の言葉に姫が答える。


 「そこのアダシノの倅よ、そなたもここへの出入りは自由じゃ♪」

 「えっと、ありがとうございます」

 「そなたの祖父とは飲み仲間じゃ、いつでも遊びに来い♪」


 何か、ミタマ様からお言葉をいただく。


 「ヨウタロー、次に会う時は負けないからな♪」

 「ええ、こちらも遅れは取りません」


 姫とも言葉を交わし、俺達は依頼を終えたのであった。

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