第32話 悪食の魔女 マンダカミア=キャメル
『魔力』と『術式』と『魔法』、これらは家電に例えるのが適切かもしれない。
『魔力』はこの世界で生きとし生けるもの誰しもに流れる生命エネルギーのようなもの、これを家電で言う『電気』に該当する。
『術式』は『魔力』を『魔法』に変換するためのツール、家電で言うなら『電子基盤(プリント基盤)』に当たる。主に構築した『術式』に『魔力』を組み込む事で『魔法』を発現させる。
『術式』は詠唱や詠唱する際の文言を直接書き示す事で構築を成立させる事ができる。
『魔法』はいわゆる『家電』そのものだ、テレビやクーラー、パソコンそのものに例えられる。これまでの過程を経て「結果」を弾き出す。クーラーなら冷風を出す、テレビなら画面が映し出される、『魔法』なら例えば炎を出す、等。
『魔力』を『術式』を通して『魔法』を起動させる、しかしその術式を構築するには並々ならぬ知識量と想像力が必要になる。あの緑色の電子基盤の細部に至るまで完璧に把握し、さらにその電子基盤を何十、何百という種類を頭に叩き込めるだろうか?(もっともアイザックは『魔力』をそのまま放出して叩き込むというバカみたいなことをしているが)
それこそ『才能』がないと無理だろう、魔法使いになるにはそれほど狭き門なのだ。
「シィィアアアアアーーーーッッ!!」
先に動いたのはマンダカミア=キャメルだ。手に持つ杖の名は『カオス・イーター』、ゴブリンや幻獣、ドラゴンなどのモンスターの皮を無数に繋ぎ合わせた歪な形状をしている杖だ。
「...」
ーーーゴウッ!
突如地面が炸裂する、だがミークは予測しており既にその場にはいない、空に浮かび静かにマンダカミアを見下ろしている。
そんなミークを追いかけるように飛び上がるマンダカミア、『
「「『
振り抜かれた杖から発射される炎弾、1発が人体を容易く貫き燃やしつくす上『魔塊弾』と比較して魔力消費が抑えられた魔法使いにとって基本的な魔法だ。
マシンガンの如き速さと連続で撃ちまくるためかお互いの杖が回転し乱舞する様はさながらハワイの「ファイヤーダンス」のように美しい。
ーーードガガガガガガガガッッッ!!!
飛び交う紅と紫、色の違う炎が交錯しぶつかり合う。
空中で静止しながら魔法を撃つといい的である、なので両者『魔轟衝』『
孤児院は激戦に巻き込まれ炎に包まれるが、2人は意にも介さず流れるように街の方へ飛んで行く。
「!!」
市街地に突っ込むと遮蔽物が遮ると共にマンダカミアの姿が見えなくなる、それはこの戦いがさらに激化する合図となる。
ーーーシッ!!
「ッ!」
突如目の前に現れるマンダカミア、しかし手に持つ杖は紫の輝きを発している。
「はっ!!」
「『多重雷撃砲(セクター・ザ・ライトニング)』ッッ!!」
ーーージャッッ!!
一振りで放たれる雷、文字通り光の速度で通過する。
「!?」
しかしミークには直撃しない、通過した雷は直線上の廃墟を貫き倒壊させる。
ーーーシッ!
「ッ!!」
「『
ーーーシッ!
一瞬の間に背後に回り込んだミークが放つ炎弾、しかしこれもマンダカミアには当たらない、炎弾が命中する直前に彼女の姿が消失したのだ。
『
ーーーシッ!
瞬間、魔力を感じたミークの真上に落ちる紫光の雷、しかしマンダカミアと同じようにミークもその場から消失。
ーーーシッ!
姿を現したミークに対して覆うように展開される弾幕、それを全て弾き同じく姿を現したマンダカミアに放たれる閃光。
マンダカミアはそれをいなして急接近、その瞬間お互いの杖が衝突し、ミシミシと音を立てる。受け流し、流れるようなミークの横凪ぎ、それを回避し至近距離からの紫光、しかし当たらない。高速移動による駆け引き、交わり躱し合う雷と炎、爆炎と紫電の衝突により爆発、黒い煙が立ちこめる。そしてぶつかり合うお互いの魔法、お互いの杖、お互いの信念、魔法、信念、杖、魔法、信念、杖、魔法、魔法、魔法、魔法、魔法、杖、杖、杖、魔法、魔法魔法魔法魔法魔法杖魔法魔法魔法魔信念法魔法魔法魔法魔法信念魔法魔法魔法魔法魔法魔法杖魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法杖魔法魔法魔法魔法魔法ーーーーーー。
「ーーーー。」
「ーーーー。」
ーーーードンッ!ドドドッ!!ドドドドドッッ!!!ゴォォオオオオオオオ!!!
流星群のように降り注ぐ炎弾、次々と崩落し瓦礫と化す街並み、それは次第に炎に包まれ視界を遮る。
その光景は「戦場」、ここは戦場、2人だけの戦場。
『2人っきりの大戦争』
ーーーシッ!
一向に決着のつかない化かし合いに痺れを切らしたのかマンダカミア=キャメルが距離を取りブツブツと何かを唱え始める。
「!!」
高速詠唱の可能なマンダカミアが距離を取り詠唱を始めた、それは高速でもってしても時間のかかる詠唱、つまりより威力の高い魔法が来るという事。
「『
「『エクシード・デストラクション』ッッ!!」
ーーーカッッ!!
「ーーー
マンダカミアの身体を中心に展開される高密度の光、その光に呑まれた物を原子レベルに分解する驚異的な魔法だ、範囲も広いので短距離しか移動できない『
「...」
青や紫に近い光の波状を抜け目を開けると並びたっていたはずの廃墟は消失しミステリーサークルのような更地の円を作っていた。
ミークの纏う橙色のオーラ『
ーーーシッ!!
「!?」
死角から現れるマンダカミア、完全に不意を突かれたミークは迎撃しようとするが間に合わない、そこに高出力の魔法が...
トンッ
「ッ!」
...放たれる事はなく、代わりに飛んできたのは軽い抜き手。ミークはおろかアイザックですら痛くも痒くもない何のこともないただの物理攻撃。
しかし、ミークにとってはこれ以上やられたくない攻撃だった。
...シュゥ
「ハッ!」
この何でことのない一撃で『
「どのようなダメージも」というのは「避けるまでもないダメージも無効化してしまう」のだ。それ故に魔法発動直後に軽い攻撃を2度受けるだけで効果が消滅してしまうのだ。
ーーードガッ!!
「ィーーッッ!!」
刹那、ミークの鳩尾にマンダカミアの足がめり込む。急所をつま先で正確に撃ち抜かれ、内臓が圧迫し胃酸が逆流する。
今朝食べたものを撒き散らし吹き飛び、更地を抜け廃墟の壁に頭から突っ込む。
そして襲いかかる追撃の光、ミークは『
「.......くぁ...」
防御魔法ありとはいえさすがに堪える、瓦礫をのけ肩に刺さった破片を引き抜き自分が突っ込んで来た穴からマンダカミアの姿を静かに捉える。
彼女の魔法は一つも受けていない、全て撃ち落としている。理由は一つの疑念だったが、一度杖を交えて確信した。
「...すぅーー...」
ミークは廃墟を飛び降りマンダカミアの前に現れる
今まで姉妹同士で魔法の撃ち合いをした事は何度かあるが、ミークがマンダカミアに勝てたことは一度もない常にマンダカミアが圧倒的な勝利を得てきた。
「...すぅーー...」
再び深呼吸、そして...
ーーーガァンッッ!!
「ッ!?」
「...」
ミークの杖は既に振られた後だった
数十メートル離れたマンダカミアのローブの端に握り拳サイズの穴が空いている、その穴は微かに焼け黒い煙を上げていた。
「...お姉様」
「...?」
マンダカミアの前に佇むそのミークの目は...
「...お姉様ってそんな弱かったでしたっけ」
酷く冷たかった。
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