第25話、入学テスト
無事に書類を受理して貰い、木のプレートに数字が書かれた受験票を受け取る。
「アベルさんは三番の教室でテストを受けて下さい。係の者が案内しますので、彼に付いて行って下さい」
指定された場所には、数人の子供が集まっていた。
「そろそろ集まったかな? では教室に移動するが、くれぐれも離れたりしないように、勝手に離れて逸れた場合。変な所に迷い込んで貴族様から手打ちにされても知らないからな」
何だか恐ろしい事をさらっと説明されるけど、平民と貴族の差なんてそんなもんだ。貴族だけの場所に迷い込んだ平民なんてゴミのように扱われるだけだ。
ガチガチに緊張した子供達を連れて、僕らがテストを受ける為の教室へと移動する係員。
左手に見える立派な校舎の横を抜けると、裏手にある少し薄汚れた木造校舎を指差して「お前らがテストを受けるのはここだ」と案内される。
そして、教室へと入ると。これまた使い古された机と椅子が辛うじて並んでいる体を成していた。
「くれぐれも言うが、この校舎からは出るなよ。出来るなら教室からも極力出ないように」
そう言って係員の人は、また元の場所へと戻って行った。
教室内を見回すと、既に入室して席に着いている数人と、今回入ってきた人数とで十数人が教室内にいた。
真っ直ぐに前だけを向いて座っている者、ドッシリと席に座って目を閉じている者、落ち着かなさそうに手遊びをする者、知り合いなのか話しをする者、コッチをジッと見ている者……あれ? 左右を見ても他に人は立っていない、彼女は僕を見ているのか?
彼女が席を立ち、僕に歩み寄ってくきた。
「あなた、先ほどジルヌール魔法教師様に魔法を見せていましたわよね」
アレを見ていたんだ。てかあの土魔法の人は教師だったんだね。
「アレは何をしていたの?」
「僕のスキルの効果が知りたいと言われて、見せていたのさ」
遠目だと、何をしたのかまでは分からなかっただろうしね。
「スキル? 魔法を見せていたのでは無いのですか?」
「僕に魔法は使えないからね」
そこまで言うと、黒板に書かれている番号の席へと移動する。
「あなた、お名前は?」
離れようとした僕に、名前を聞いてきた彼女。
「名前を聞くなら、先に名乗ろうか?」
「!?」
やっぱりコレを言うと、皆ビックリした顔をするよね。
「私は、アンネ。アンネ・マッターホルンよ」
(アベル、マッターホルンはこの王都で一番の材木商の名前と同じにゃ)
(ありがとう、イヅミ)
「よろしくアンネ。僕はアベルさ」
これが、僕とアンネ。後の『爆水のアンネ』との初めての出会いだった。
(はっ! またお兄ちゃんが別の女に近寄った臭いがする!)
「皆さん揃っているようですね、テストを始めるので指定された席に座って下さい」
アンネとの自己紹介が終わったタイミングで、職員の人が教室に入ってきてテストの内容を説明した。
テストは三科目、算術、歴史、実技だ。午前の科目は四十五分ずつで実技は昼食の後に行われると言う。
ハッキリ言って午前中のテストは楽勝だった。何せ『知識の泉』を持つイヅミさんがいるのだ。
対策もしていたけれど、グリードル子爵様の屋敷で暇に任せて置いてある書物を全て読破していたのも役に立った。
「余裕そうでしたわね……」
午前の二科目が終わり、食堂でお昼を食べているとアンネが近寄ってきた。ちなみにこの食堂のお昼は全て無料だそうだ。
そう言えば、僕の斜め前に座っていたアンネは、歴史のテストの時は手が止まっていたような?
「まあね。アンネは、歴史は苦手?」
苦手なのを指摘されて、ビクッとするアンネ。
「貴族でも無ければ、王国史や貴族の家系なんて平民には縁がない物でしょう、知っている事の方が変よ」
変て言われてしまったよ……。
カラーン・カラーン カラーン・カラーン
午後の開始を知らせる鐘がなる。
「さて、午後の実技だ。歴史でダメだった分は実技で取り戻せるんだろ?」
歴史がダメだったと言う割に自信満々の顔をしているので。よほど午後の実技、魔法に自信があるのだろうと予測して言ったのだけど。
「まあね、見ておきなさい。私のスキルは水魔法への適性が高いのだから!」
予想以上に自信家でした。
午後からは全員が中庭に集まりテストを受けるようだ。午前中には見なかった身なりの良い連中も中庭に出て来ている。
「それでは午後のテストを始める! 皆、自分が得意だと思うテストの場所に移動するように」
中庭は幾つかのエリアに別れていて、剣が得意な者、魔法が得意な者、その他のエリアになっていた。
僕も、自分の得意とするエリアへと移動する。
「え、ちょっとあなた! 何処に行くの!?」
僕が歩き出した方向を見て、慌てて声を掛けくるアンネ。
「だって、僕が得意なのはアッチだから」
そう言われて、ポカンと僕を見送るアンネ。アンネも早く移動しないとテスト始まるよ?
午後の実技。僕は、その他の項目でテストを受けるつもりだった。
「お願いします」
受験票を係の人に見せる。
「木札の十二番だな、貴様は何が出来る?」
おふ……ここでも対応は上から目線だな。
「僕は……」
「おい! お前は何故そこにいる!? 貴様は先ほどの土魔法でテストを受けるのでは無いのか?!」
その時、また隣から大声で叫ぶ声が聞こえてきた。
「え、貴方は」
「ジルヌール魔法教官が何故ここに?」
受付の時に対応してくれた土魔法の教師が、何故か怒りながら僕の前に立つ。
このエリアを受け持つ試験官も、訳が分からず困り顔だ。
「何故って、僕が披露するのは剣術でも魔法でも無いからですが?」
「何? 先ほどは石を飛ばす魔法を使っていたではないか?!」
やっぱり勘違いしたままでしたか。
「アレは魔法ではありません、僕のスキルの能力です。そして今から別の能力をここでお見せしようと思います」
「スキルの能力だと? 良かろう、見せて貰おうか」
そう言うと、その人が試験官の人が座っていた椅子にドカッと座る。
試験官の人が、僕とジルヌールさんを見比べてアワアワしていると。
「ほら、何をしている? 実技試験を開始しないのか?」
言われて、ハッとして試験の開始を告げる試験官さん。
何をするのかと聞かれたので、僕のスキルの能力である『収納』を披露すると伝えると、流石にその場が騒めいた。
収納魔法と言えば、魔法の中でも上位扱いになる。その容量や時間停止などの有無にもよるが、これが使えるだけでかなり待遇が良くなる魔法だ。
「で、では収納魔法をやって見せて下さい」
その前に、もう一芝居を。
「すみません。僕の『収納』は、それの所有権が僕にある物しか収納出来ません。なので、そこにある物の所有権を僕に渡して貰えませんか?」
そう言われて、試験官がジルヌールさんの顔を見ると。頷いて肯定するジルヌールさん。
「では、ここにある物の所有権をお前に渡す」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、並べられている木箱や土嚢、大きな木の盾に手を触れて次々と収納に収める。
始めは普通だった試験官の顔が、土嚢を百個も収納する頃には青ざめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます