第11話 アンストッパブルな話題

(※花見七瀬視点)


 私と唯花は新浜と一緒に学校近くのファミレスに入店する。


 時刻は16時過ぎなためファミレス内は空いていた。多くのテーブルは空席であった。


「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。何名様でしょうか? 」


 白いコック服のシャツを身に纏った女性の店員が挨拶と同時に入店の人数の確認を試みる。マニュアルで決まっているのだろう。


「3人です」


 私が代表して指を3本だけ立てて回答する。


「ありがとうございます。お好きな席にお座りくださいませ」


 女性の店員は空席の目立つテーブルのエリアを私達に勧めて、キッチンの中へと吸い込まれる。


 私達は適当に空いたテーブル席に座る。特には理由はなかった。何となくという感じ。


 私と唯花が隣に座り、新浜が正面に向かい合う形で腰を下ろす。


「ドリンクバー頼む? それとも他にも注文する? 」


 私はテーブルに準備されたメニューを手に取り、ドリンクバーの料金を確かめてから2人に要望を尋ねる。


「うちはドリンクバーだけでいいかな。新浜君はどうする? 」


 唯花は新浜にも尋ねる。


「う~ん。僕もドリンクバーだけで十分かな」


 新浜も少し悩んだ末、私達と同じオーダーに決める。


「決まりだね。それじゃあ呼ぶよ? 」


 私は唯花と新浜の反応を待ってから、オーダーコールのボタンを押す。


 ピ~ンポ~ンっと曇ったような音が店内の全体に広く行き渡る。音だけで私達の席のオーダーコールだと認識できる。



「お待たせいたしました! 」


 先ほど入店時に接客を受けた女性の店員が、程よい声のトーンとスマイルで私達の座るテーブルにオーダーを取りに窺う。


「注文はいかがいたしましょうか? 」


 女性の店員はハンディーターミナルを片手に私達にオーダーを尋ねる。


「ドリンクバーを。3つで」


 今回も私が代表してオーダーする。


「ドリンクバー3つですね。かしこまりました」


 女性の店員はオーダーを取るためにハンディーターミナルに入力を行い、手帳のように慣れた手つきでパタンッと閉じる。


「ドリンクバーはセルフサービスですのでご自由にご利用くださいませ」


 女性の店員は私達にドリンクバーの説明を1通り実施し、業務を済ませてからキッチンの中に戻って行く。


 私達もドリンクバーの利用方法は理解している。そのため、女性の店員の説明を半ば聞き流しながら受けた。


 オーダーを終えた私達は席を離れ、ドリンクバーの利用可能なエリアに3人で移動し、専用のコップを確保し、ディスペンサーを介して各自の求めるドリンクを注ぐ。


 ディスペンサーはゴーゴーッと機械を呻くように出しながら、ドリンクを注ぎ口から吐き出す。


 私は炭酸水の入ったコップを手に、唯花と新浜と共に元のテーブル席に戻る。


 テーブルを離れる前と同様に私と唯花は隣に座り、新浜は正面に向き合う形で遅れて腰を下ろす。


 私以外の2人は、唯花が天然水、新浜がメロンソーダをドリンクバーの1杯目として選択していた。


 唯花の天然水のチョイスは流石と言える。体型維持を考慮した上でのドリンクの選択なのだろう。女の子の体型維持は簡単じゃないんだよ!!大変なんだよ!!


「それで大橋先輩について詳しく教えてくれないかな 」


 新浜が積極的に話を切り出す。私達が大橋先輩について話したい欲望と同じくらい、新浜も話を聞きたい様子だ。新浜の真剣な表情から異様な空気が滲み出る。


「うん。いいよ。どこから話そうか」


 唯花がウズウズした様子で豊満な胸の前で両腕を組みながら、首を傾けて話の切り出し方に悩む。どこから大橋先輩についての話をしようか考えているのだろう。


 うん。分かるよ唯花。悩むよね。大橋先輩の良さを最大限に伝えるためには様々な方法があるからね。複数の選択肢から選び取らないといけないよね。それが難しいのよ。


 私は唯花の悩む気持ちに胸で強く共感する。だから1人で首だけ縦に振っていた。


 結局、唯花は例の大学生らしき男達からナンパを受け、困って何も出来ない中、救世主として大橋先輩が登場して助けてくれたことを新浜に熱弁した。もちろん、大橋先輩が強さでナンパの男達を制圧したことも話す。ここ大事!


「それに、大橋先輩はボクシング部のメンバーでね。凄い練習熱心なんだよ」


「そうそう! 昼休みには単独で自主練してるもんね」


「ほんとに! 真面目でかっこいいよね~大橋先輩〜」


「うんうん。それ以外にも早朝のトレーニングもしてる。一緒に同行したんだけど、全く大橋先輩のランニングスピードに付いて行けなかったよ」


 私は初日の早朝のトレーニングを今日のように思い返しながら、大橋先輩の凄さを唯花に負けない熱量で語る。


「そうなの! 大橋先輩は、足も速いんだよ! 運動神経抜群なんだよね~」


 唯花も大橋先輩との初日のトレーニングの話題に触れる。あの時は全く大橋先輩に付いて行けなかった。あっという間に置き去りにされてしまった。大橋先輩に迷惑を掛けてしまった。そこは反省。次回は少しでも付いて行けるように頑張らないと。


「へ、へぇ~。そうなんだ…」


 新浜は私達から視線を逸らし、目を細めながら静かにメロンソーダをコップから煽る。


「そうなの! それにね――」


 この後、私と唯花が交互に大橋先輩に関する話を続けた。その内容は大橋先輩への優しさや強さなどに関する称賛であり、新浜は何処か上の空で私達の話を聞いていた。


 しかし、私達は新浜の状態など気付かずに、夢中で大橋先輩の話を続けた。その話題は30分にも届いていた。私と唯花なら余裕だった。ドンドン脳内で大橋先輩の称賛の言葉が浮かび、容易に言語化してしまう。


 一方、時間が過ぎる度に新浜のドリンクバーのおかわりの量が呼応して増加しており、いつの間にかコップの中身は空になっていた。中身は毎回、氷のみが残っていた。その氷の粒は1杯目の時と比べて明らかに半分ほど溶けていた。

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