第8話 オークション

時刻は夜の六時を回っていた。

天気もない、気温の変化もないこのセーフティエリアでは時間の経過はD端末の時計だけだった。

 

買い置きの薪を使って、小型フライパンでグレートブルの肉を焼こうとしたが、肉の塊に対してフライパンが小さすぎる。

雪斗が1ポイントずつ使って、ストアで二十六センチのフッ素フライパンと包丁を買った。

 

「まずは、グレートブルの毛皮と牙が何ポイントなら売れるかが分からないわけだけど」

 

雪斗のD端末で毛皮一つ10ポイントで置いてみる。

そして、カイネのD端末で牙を6ポイントで設定した。

 

「まあ、すぐには動かないよね」

 

オークション画面には、金属バットやゴルフクラブなどが3ポイントで売っている。だが、ストアでそれらは1ポイントで売っているのでカイネは苦笑いした。

ポイントが欲しいのはみんな同じだ。

 

「値段は一旦設定したら動かせないみたいだな」

 

カイネはグレートブルの肉を調理する。削いだ塊肉は、焼いて塩コショウしただけ。

昼ごはんは三時だったが、体を動かしたせいか妙に空腹だった。

お互いの紙皿には五百グラムを超えそうな肉が盛られたが、まだフライパンには肉が残っている。

 

「雪斗、毒味が済むまで待――」

 

「いっただきまーす」

 

がぶりと、雪斗が肉にかぶりついて、カイネは黙った。

前世のユットジーンも毒味を嫌ったが、さすがに待ては出来た。記憶がないから仕方ないとはいえ、守りがいのない主君だ。

 

諦めて、カイネも箸で肉を摘む。口にいれると、確かな牛の旨みが溢れ出した。

赤身と肉汁が、噛めば噛むほど味が出る。変な癖もなく、高級牛と言われてもわからないクオリティだ。

――これは美味い。

 

雪斗を見ると、はふはふと熱そうにしながらも夢中で肉を食べている。

ダンジョン産の肉に対する偏見は、旨みと共に消えて無くなってしまった。

 

しばらくの間肉の美味さで口がほぐれ、食べながら好きな肉の種類や丼なら何が一番かなど、たわいの無い話で盛り上がる。

ピコン、と雪斗のD端末とカイネのD端末が、時差で鳴った。

 

端末を開くと、オークションに出した牙が完売のマークになっており、6ポイントが振り込まれていた。

これで、カイネの手持ちは49ポイントになる。

 

「そっちも売れたんだ?」

 

「ああ」

 

「同じ購入者なのかな?」

 

このポイント設定は高かったと思うが、売れるならそれで行くしかない。

残り四枚の毛皮を10ポイントで一つずつ登録すると、しばらくして雪斗のD端末が鳴ってどれも売れ切れる。

 

カイネも、同じく牙を6ポイントで並べたが、やはりに完売した。

他に誰もモンスター素材を載せていないからかもしれないが、ポイントは美味しい。

 

雪斗はポイント75、カイネは65と、大量ポイントを獲得した。

 

「これはうまいね! レベルも上がるし、肉は手に入るし、素材でもポイントが取れるしで、完璧じゃない?」

 

「あと三合しかないから、米も買おうか」

 

いつもは厳しめなカイネも、このポイントには少し判断が緩くなる。

ストアを見て回ると、電池で炊ける炊飯器もあってそれも欲しくなってしまった。

薪で毎度ポイント消費するより、合理的だとも思う。

 

「いいじゃん! 飯盒だと様子見てなきゃいけないから時間食うし、薪節約はでかいよ!」

 

米は五合で2ポイント。炊飯器は4ポイント。今なら特に高くない。

購入してDマークダンボールが落ちてくる流れに慣れつつ、ダンボールを開ける。

 

炊飯器を水で洗い流して、米をセットした。明日の分はこれで解決した。

残った九個の肉は収納インベントリに仕舞い、再びオークションを眺めると新作が出ている。

 

――――――――――――――――

〈タクティカル キャトルスーツ〉

厚手の強化装甲スーツ。防御率アップ。

 

〈特殊防具コート 黒陽型〉

ロングコート型防具。毒・熱・寒さに強い。

――――――――――――――――

 

「またどっちも20ポイントだね」

 

肉をほうばりながら、雪斗が画面を覗き込む。

 

「防具も、そのうち必要になるぞ。いつまでもセーフティエリアごしに戦えない」

 

「そーだねー。ストアだと安いのは弱そうだし、強そうなのは40ポイントだからやっぱりオークションで買っておこうか」

 

カイネはタクティカルスーツを。雪斗は防具コートを買うと、早速着込んでみた。

手に取った時は小さく感じたが、カイネが体を通すとスーツは体にジャストフィットする。

 

雪斗はシンプルに黒のロングコートを、お洒落に着こなしていた。

 

「これ、素材買った人のクラフトかもね。キャトルって付いてたし、牛素材なわけでしょ」

 

「じゃあ、俺らは同じ相手とポイントをやり取りしてるわけだな」

 

「いいじゃん、よく分からない運営に入るより」

 

雪斗の本音が滲み出る。

食べ終わった紙皿を片付けて、どこか遠い目をしていた。

 

「ホント――どうなってんだろな」

 

カイネは前世でもその声を知っている。

ままならない歯がゆさを噛み締めてる声――あれは、ドレスデン王国から魔法使いが激減していく謎の調査の最中だった。

 

突如として無くなる魔力の連鎖――多くの魔法使いがユットジーン王太子に泣きついた。きっと解決してみせる、と調査に入ってしばらく。突然、二人は処刑されたのだった。

 

「こんな仕業しわざができるなんて、政府じゃないよ、相手は。誰が何の目的で、ダンジョンを作って、D端末を作って、配ったんだろうな」

 

カイネは今世も、返すべき言葉を知らない。

 

ただ、今度こそはダンジョンでもポイント不足でも、雪斗を死なせはしない。

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