大樹と妖精の試練編 第3章 -----四季の紋章を狙う影-----
森の中心にそびえる
春も夏も秋も冬も、その歴史をすべて幹に刻んできた長老であり、妖精たちの守護者であった。
ベルとアイの兄妹は、これまでに二つの試練──
・風の祠の“風紋章”
・季節の祠を巡る“森の均衡の試練”
──を乗り越え、妖精たちと深い絆を結びつつあった。
だが、三つ目の試練は、これまでとはまったく違う“影”の気配を孕んでいた。
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◆ 1. 森に漂う“ひやり”とした違和感
その日、ベルとアイは大樹オルダに呼び止められた。
「……二人よ。森の奥で、妙な気配が揺れておる。」
オルダの声は、葉擦れの音の中でもひどく重たい。
春の妖精チロルは、落ち着かない様子で花びらを震わせていた。
夏の妖精マーサは、青空を見上げて眉を寄せる。
秋の妖精タムは、紅葉の羽をふるわせて落ち着かない。
冬の妖精ターウィンは、冷気をまといながらも険しい表情をしていた。
四季の妖精がそろって不安そうなのは、滅多にない。
アイがそっと聞く。
「みんな……何が起きているの?」
チロルが、か細い声で答えた。
「季節の祠にね……誰かが近づいているの。
わたしたち妖精でもない、森の動物たちでもない……“影”のような気配。」
ベルが眉をしかめる。
「影……って?」
するとオルダが、ざわりと枝葉を揺らした。
「四季の紋章……チロル、マーサ、タム、ターウィンの力の源。それを奪おうとする気配じゃ。」
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◆ 2. 四季の紋章と“影の魔”
妖精たちは胸にそれぞれの紋章を宿していた。
・春の紋章 《萌芽の光》
・夏の紋章 《太陽の鼓動》
・秋の紋章 《熟成の息吹》
・冬の紋章 《静寂の結晶》
四つが揃うことで森の季節のめぐりは保たれ、妖精たちの命も守られている。
しかし――
オルダは語り始めた。
「むかし、この森の外で“影の魔”が生まれた。
季節の力に嫉妬し、世界中の循環を止め、自分の望む永遠の闇をつくろうとした存在じゃ。」
ベルとアイは息をのむ。
「その影の魔は、四季の力をまとめた《四季の紋章》を狙っておる。
もし奴がそれらを奪えば……季節は止まり、森は死ぬ。」
アイは震える手をぎゅっと握った。
「そんなの、イヤ……!」
ターウィンが、アイの肩にそっと手を置く。
「大丈夫だよ、アイ。君たち兄妹がいてくれる。」
ベルが決意を込めて言った。
「じゃあ……僕たちにできること、あるよね?」
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◆ 3. 四季の祠への旅立ち
オルダは、二人の首から下げている「妖精の石」に光を宿した。
「この石は、四季の妖精の声を強く結びつける。
試練のとき、必ず道を示してくれよう。」
チロルが手を振る。
「まずは春の祠へ行こう!
あそこに……“影”が最初に近づいたみたい。」
マーサも夏の光をまとって言う。
「急ごう。祠の力は弱まりつつある。」
タムが紅葉をひらひらと落としながら呟く。
「影の気配……すぐそこまで来ている気がする。」
ターウィンは雪をまとわせ、鋭い視線を森の奥へ向けた。
「気をつけよう。影は形がない。姿を見せず近づく。」
こうして、ベル・アイ兄妹と四季の妖精たちは、
影の魔を追うため 四季の祠を巡る旅へ出発した。
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◆ ◆ 4. 春の祠──“奪われた萌芽の光”
森の奥、千年杉よりもさらに古いと言われる苔むした祠が姿を現す。
だが――
祠の中心にあるはずの“萌芽の光”が、弱々しくゆらめいていた。
チロルが叫ぶ。
「こんな……こんなに力が奪われてる!」
ベルがのぞくと、祠の床に黒い染みのような影が揺れていた。
「これは……影が触れた跡?」
「うん……影は紋章を奪う前に、こうして祠の力を吸うの。」
アイは拳を握った。
「こんなことするなんて……許せない!」
祠から“萌芽の光”がふわっと浮かび、ベルとアイへと寄ってくる。
チロルが言う。
「春の祠が、二人に守護の力を渡してるんだ。
これから先、もっと大きな影が現れるから……気をつけてね。」
光は二人の妖精の石に吸い込まれ、淡く輝きを増した。
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◆ 5. 森に忍び寄る“影”
春の祠を出た瞬間、森の空気がひどく冷たくなった。
タムが耳をすませる。
「……なにか、ついてきてる。」
サワサワ……
という葉擦れの音なのに、風を感じない。
ターウィンが雪を纏わせて構えた。
「出てこい……影!」
すると、木々の間から“黒い霧”のような影が這い出した。
かたちがない。
顔もない。
ただ、季節の妖精の光だけを狙う“飢え”のような気配。
ベルは胸が締め付けられる。
「あれが……影の魔の本体なの?」
オルダの声が頭の中に響く。
『いや……あれは“影のしもべ”の一匹に過ぎぬ。
だが油断はするな。光を奪う力だけは本体と同じじゃ。』
影がゆっくりとにじり寄ってくる。
マーサが叫ぶ。
「ベル、アイ! 後ろに!」
影は兄妹の妖精の石へ触れようと触手のような影を伸ばした。
アイは叫んだ。
「いやぁっ!」
その瞬間――
春の祠から授かった光が弾け、
白い風となって影を押し返した。
影は悲鳴もあげず、霧のように消えていく。
チロルがほっと息をつく。
「影は……まだ弱い。
本体が力を蓄えている途中なんだよ。」
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◆ ◆ 6. 四季の祠を守る旅へ
影を退けたものの、季節の祠はまだ三つ残っている。
・夏の
・秋の
・冬の
それぞれの祠の紋章が狙われれば、
春と同じように力を奪われてしまう。
オルダの声が再び響く。
『これは、三つ目の試練。
“影の魔を封じ、四季を守る旅”。
二人よ……恐れず進め。
季節の妖精たちと共に、祠を巡るのじゃ。』
ベルはうなずいた。
「もちろんだよ、大樹さま。
森を……妖精たちを守る。」
アイも決意をこめて言う。
「影なんかに負けない。
四季の紋章は、わたしたちが守る!」
四季の妖精たちが微笑む。
「ありがとう、二人とも。」
「君たちがいてくれるなら希望はある。」
「一緒に戦おう。」
「季節の未来は……まだ終わらない。」
兄妹と妖精たちは、夏の祠へと続く道へ足を踏み出した。
◆ ◆ ◆ ――つづく――
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