ノブとちょいとさんとクロ ― 学校裏山の精霊たち ―
◆1章 裏山の秘密
ある春の日。
ノブの通う小学校では、全校で「裏山観察の日」が行われていました。
「裏山はね、古くから“森の守り神が住む場所”といわれているんだよ」
担任の先生がそう説明すると、クラスのみんなは「え〜!」「ほんと〜?」と騒ぎます。
ノブは、胸が少し高鳴っていました。
(森の精霊……ほんとうにいるのかな)
ノブの足元では、ちょいとさんが尻尾を振り、クロは背伸びしながら目を光らせています。
「裏山って、なんかワクワクするワン!」
「静かそうだけど……何かいそうね」
ノブはふたりに笑いかけました。
「今日はみんなで探検だね!」
クラスメイトたちは先生に連れられて裏山へと入っていきます。
しかしノブたち三人は、ふと気になる風の気配を感じ、少し横道にそれました。
――そのとき。
風がふっと動き、草がふるえ、木の陰から小さな光が飛び出しました。
「ひゃっ!」
ノブが思わず声を上げると、光はふわりと空中で止まりました。
それは――小さな妖精でした。
背中に透明な羽、髪は葉っぱのような緑色。
「……人間の子? それに……犬と猫?」
妖精はまん丸い目でノブたちを見つめています。
クロは素早く前に出ました。
「あなた、誰なの?」
「ボ、ボクは“若葉の精霊リーフ”だよ!」
ちょいとさんは尻尾を振りながら鼻を近づけました。
「良い匂いがするワン!」
「ひゃああ! 匂いを嗅がないでぇ!」
慌てて飛び回るリーフに、ノブはにっこり笑いました。
「リーフくん、仲良くしようよ」
妖精リーフはしばらくノブを見つめ――
やがてホッとしたように微笑みました。
「……うん。ボク、君たちなら信じられそう」
こうして、ノブたちと森の小さな精霊との出会いがはじまりました。
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◆2章 森がざわつく
リーフは裏山に住む精霊たちのことを話し始めました。
「裏山にはね、春・夏・秋・冬、それぞれの小さな精霊たちがいるんだ。
でも……最近、森が落ちつかないんだよ」
「落ちつかない?」
ノブがたずねると、リーフは羽を震わせて言いました。
「うん。季節のバランスが崩れかけてるんだ。
理由は……“石の祠(ほこら)”が閉ざされてしまったからだよ」
「祠?」
クロが眉をひそめます。
「山の中心にある、森の力をつなぐ場所なんだ。
でも、何かがいたずらして、入口が石でふさがれてるみたいで……」
ちょいとさんが前足を上げて言います。
「じゃあ、ボクたちで開ければいいワン!」
リーフは目を丸くしました。
「ほんとうに? 助けてくれるの?」
ノブは力強くうなずきました。
「もちろん! 精霊たちが困ってるなら、助けたいよ!」
リーフの顔がぱあっと明るくなりました。
「ありがとう! じゃあ祠まで案内するよ!」
三人と一匹+妖精の、小さな冒険がはじまりました。
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◆3章 祠の封印
裏山の奥は、学校からは想像できないほど静かで、風だけが優しく木々を揺らしていました。
「ここだよ!」
リーフが指さしたのは、大きな石に囲まれた古い祠。
入口は巨大な岩でおおわれて、まったく開きません。
ちょいとさんが岩を押しました。
「うう〜ん……動かないワン!」
ノブも手を添えるがビクともしません。
クロが耳を立てました。
「……この岩、魔法で固められてる」
「なんでそんなことを?」
ノブが首をかしげると、リーフは悲しそうに言いました。
「森のどこかで、“イタズラ好きの風の精霊”が暴れてるんだ。
たぶんそいつの仕業……」
そのとき、木の上からケラケラと笑い声がしました。
「ピュ〜ッ! よく来たね〜、ちっちゃい人間とモフモフたち!」
強い風が吹き下ろし、枝の上から風の子ウィップが現れました。
小さな竜のような姿で、羽が風そのもののように揺れています。
「ウィップ! やっぱり君が祠を閉じたの!?」
リーフが叫びました。
ウィップは楽しそうにくるりと回ります。
「だって〜、森が静かすぎてつまんないんだもん!
祠を閉じたら、風がぐるぐる暴れて楽しいぞ〜!」
「楽しくなんかない!」
ノブは強く言いました。
「森のみんなが困ってるんだよ!」
ウィップは興味深そうにノブを見ました。
「ふ〜ん……君、変わった子だね。動物と話せるの?」
「うん。話せるよ」
「じゃあ、勝負しようよ!」
ウィップは指を鳴らしました。
「ボクに“風の試練”で勝てたら、祠の封印を解いてあげる!」
ちょいとさんは胸を張りました。
「受けて立つワン!」
クロも鋭い目つきで言います。
「風くらい、切り裂いてみせるわ」
ウィップは嬉しそうに空へ舞い上がりました。
「じゃあ……始めよう!」
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◆4章 風の試練
ウィップが作り出したのは、三つの試練でした。
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◎第一の試練:風の迷路
裏山の空き地に風の壁が生まれ、複雑な迷路が形作られました。
「これを抜けられたら、第一クリアだよ〜!」
ちょいとさんは勢いよく走り出し……
「こっちだワーン!! ……あれ? ぶつかったワン!!」
風の壁にドンッ。尻もちをつきました。
クロは目を細め、風の流れを読むように進みます。
「風の弱いところを探して……ここ」
ノブも手を当てて風の音を聞きました。
(流れる音が……右だ)
「右だよ、ちょいとさん!」
「任せろワン!」
三人と一匹は協力して、迷路を突破しました。
「おお〜やるねぇ!」
ウィップがパチパチと風で拍手しました。
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◎第二の試練:風の跳ね橋
次は、川にかかるはずの橋が、風で揺れて落ちそうになっています。
「この上を渡れたら合格〜!」
クロはひるむことなく走り出しました。
「こんなの、軽い軽い!」
しかし橋がぐらりと揺れ、クロが足を滑らせそうに。
「クロ!!」
ノブが叫びます。
その瞬間、ちょいとさんが飛び出して支えました。
「大丈夫ワン!! ボクに掴まって!」
クロは驚いて、しかし嬉しそうに微笑みました。
「……ありがと」
ちょいとさんの顔は真っ赤になりながらも胸を張る。
「あ、当たり前ワン!」
三人は協力し、橋を渡りきりました。
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◎第三の試練:風の心
最後の試練は――ウィップ自身の暴風を受け止めること。
「本気の風をぶつけるよ! 立てるかな〜?」
ゴオオオオオ!!
強烈な風が吹きつけ、ノブとちょいとさん、クロ、そしてリーフも後ろへ押されました。
ノブは前へ踏み出しました。
(風さん、お願い……ボクたちの話を聞いて!)
風の中へ手を伸ばすと、ウィップの暴風がわずかに弱まります。
「森を守りたいんだ!」
ノブが叫びます。
「君だって森が好きなんでしょ!?
だから……いっしょに守ろうよ!!」
暴風がぴたりと止まりました。
ウィップは空中に浮かびながら、ぽかんと口を開いています。
「……そんなふうに言った子、初めてだよ」
風がやさしく吹き、ウィップの体が光りました。
「君なら、森の精霊たちの友だちになれるかもしれないね」
ウィップは照れたように笑いました。
「よし、約束だ。祠の封印、解いてあげるよ!」
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◆5章 祠の開放と精霊の祝福
ウィップが指を鳴らすと、巨大な岩がふわりと浮き、祠の入口が開きました。
中は青い光が満ちていて、花の香りが広がっています。
「森が……息をしてる」
ノブがささやきました。
リーフは嬉しそうに泣き出しそうです。
「ありがとう! これで裏山は元のバランスを取り戻せるよ!」
祠の奥から、春・夏・秋・冬の四つの精霊が現れました。
それぞれがノブたちの頭にそっと手をかざし、やさしい声で言いました。
「森の友人たちよ。感謝を」
「裏山はこれからも、君たちを歓迎しよう」
「困ったときは、いつでも呼んでおくれ」
「季節の風が、君たちを守るだろう」
ノブは胸があたたかくなりました。
「こちらこそ……ありがとう!」
クロが小さく笑い、ちょいとさんは尻尾をブンブン振って喜びました。
ウィップもにやりと笑って言います。
「また遊びに来てよね! 今度は暴風じゃなくて、楽しい風で遊ぼう!」
リーフもうんうんとうなずきました。
「これからずっと、お友だちだね!」
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◆エピローグ 裏山は友だちの森
学校の鐘が鳴るころ、ノブとちょいとさんとクロは裏山の入り口に戻ってきました。
クラスメイトたちは
「カエル見つけた!」
「葉っぱで笛作った!」
と賑やかです。
ノブはちょいとさんとクロと目を合わせ、3人で笑いました。
「ねえ、ノブ」
クロが静かに言いました。
「裏山って、ただの学校の裏じゃなかったわね」
「うん。森の友だちがいっぱいいるんだ」
ノブは嬉しそうに答えました。
ちょいとさんが尻尾を振りながら言います。
「また遊びに行くワン! リーフにもウィップにも会いたいワン!」
ノブは空を見上げました。
春の風がやさしく吹き、どこからか妖精たちの笑い声が聞こえる気がしました。
――裏山は、もう「ただの森」ではありません。
ノブたちにとって、大切な友だちの森になったのです。
おわり。
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