童話集
清ピン
熊さんの養蜂場
深い森の奥に、小さな丘がありました。そこには色とりどりの花が咲き、春になると風が甘い香りでいっぱいになります。
その丘に、一匹の大きな熊が住んでいました。名前はクマゾウ。茶色い毛並みと、少し眠たそうな目がトレードマークのやさしい熊さんです。
クマゾウは、森で一番の“はちみつ名人”でした。昔は森のあちこちの木にある巣を探して、ハチたちの邪魔をしないように少しだけ分けてもらっていたのですが、ある日、クマゾウは思いつきました。
「ハチさんたちと、もっと仲良くなって、自分たちで巣をつくればいいんだ」
それが、クマゾウの「養蜂場づくり」のはじまりでした。
■丘の上の養蜂場
春のはじめ。
クマゾウは大きな木の切り株をくりぬき、いくつもの「巣箱」を作りました。四角いもの、丸いもの、ハート型のものまであります。
森の仲間たちはびっくりしました。
「クマゾウ、なに作ってるんだい?」と、リスのチュチュがたずねました。
「これはね、ハチさんたちのおうちなんだ」
「ええっ?ハチのおうち?刺されちゃわない?」
「大丈夫。ちゃんと話し合ったんだよ。ここはハチさんたちの新しい村になるんだ」
クマゾウは冬の間、森の奥のミツバチたちとこっそり相談をしていました。
ハチたちは花がたくさんある丘をとても気に入り、みんなで引っ越してくることになったのです。
巣箱が並ぶと、まるで小さな町のようになりました。クマゾウは看板を立てました。
「はちみつ村」
■ミツバチたちの引っ越し
ぽかぽかとした春の朝、空がブンブンとにぎやかになりました。
ミツバチの女王バチ「ミツヒメ」と、たくさんの働きバチたちが引っ越してきたのです。
「いらっしゃい!ようこそ、はちみつ村へ!」
クマゾウは大きな声であいさつしました。
「クマゾウさん、本当にすてきなおうちね」
「ここなら、きれいなお花がたくさんあって、きっとおいしいはちみつができるわ」
ハチたちはあっというまに巣箱へ入り、働きはじめました。花から花へと飛び回る姿は、まるで金色の風のようでした。
■森のみんなで協力
養蜂場をうまく続けるには、ハチだけでも、クマゾウだけでも足りません。森のみんなが力を合わせる必要がありました。
リスのチュチュは、花の種をあちこちにまきました。
ウサギのピョンは、丘の草を整えて、ハチたちが飛びやすいように道をつくりました。
キツネのコンタは、夜の見張り番をして、ハチの巣を狙うフクロウやアナグマを追いはらいました。
そしてクマゾウは、大きな体で巣箱を雨や風から守りました。
「よーし、みんなでおいしいはちみつを作るぞ!」
森の仲間たちはみんな笑顔です。
■はじめての収穫
春が終わるころ、巣箱の中は黄金色のはちみつでいっぱいになっていました。
クマゾウは、ハチたちと相談して、ほんの少しだけ分けてもらうことにしました。
ミツヒメが言いました。
「クマゾウさん、わたしたちのごはんも大事だから、半分は残してね」
「もちろんだとも!」
クマゾウは木のスプーンで、そっとはちみつをすくいました。
とろり、とろり……。光のような甘い香りが丘いっぱいに広がります。
「うわぁ〜いいにおい!」
リスもウサギもキツネも集まってきました。みんなで少しずつ味見します。
「世界一おいしい!」
森の仲間たちは目を丸くして笑いました。
■嵐の夜
夏のはじめ、ある夜。大きな黒い雲が森をおおいました。
ゴロゴロゴロッ!
ピカッ!
ドーン!
雷と大雨の嵐がやってきました。風がビュウビュウと吹き荒れ、花たちはしおれて、巣箱もグラグラとゆれます。
「たいへんだ!巣箱が飛ばされちゃう!」
クマゾウは夜の丘に飛び出しました。
びしょぬれになりながら、大きな腕で巣箱をおさえました。
「みんな、がんばれ!もうすこしで嵐は通りすぎるぞ!」
ミツヒメたちも巣の中で羽をふるわせ、巣を守りました。
森のみんなも駆けつけました。
リスは濡れた花の種を守り、キツネは枝を集めて巣箱を支え、ウサギは丘の道をふさいでいた倒木をどけました。
長い長い夜が明けたとき、丘はボロボロでした。でも、巣箱は全部残っていました。
「みんな、ありがとう……!」
ミツヒメは羽をふるわせて泣きました。
■再び、花の丘へ
嵐のあと、森のみんなは力を合わせて丘を復活させました。
リスが新しい花の種をまき、ウサギが畑をならし、キツネが巣箱を修理し、クマゾウは太陽の下で木の板をトントンと打ちつけました。
日がたつごとに、丘はまた花でいっぱいになりました。
嵐の夜をこえたハチたちは、もっと元気に飛びまわりました。
■はちみつ村の収穫祭
秋になると、丘は金色に輝きました。
巣箱の中には、春よりもたくさんのはちみつがたまっていました。
「みんなで収穫祭をしよう!」
クマゾウの声に森じゅうの動物たちが集まりました。
リスは木の実のケーキを焼き、ウサギはにんじんのスープをつくり、キツネはお皿やカップを並べました。
クマゾウは大きなはちみつの瓶を持ってきました。
「このはちみつは、みんなの力でできたんだ」
森の仲間たちは、丘の真ん中に大きなテーブルを囲み、夕焼けのなかでお祝いをしました。
「クマゾウ、ありがとう」
「みんなのおかげだよ」
ハチたちも、ミツヒメの合図でブンブンと歌を歌いました。
■冬のあたたかさ
冬が近づくと、ハチたちは巣のなかで静かに過ごすようになりました。クマゾウは彼らが眠るのを見守ります。
「春になったら、また一緒にはちみつを作ろうな」
雪の降る夜、丘にはしんとした静けさが広がりました。
でも、クマゾウの心の中はあたたかでした。
はちみつ村はもう、クマゾウひとりのものではありません。
森のみんなと、ハチたちと、力を合わせて育てた「みんなの村」になったのです。
■ 春の再会
やがて雪がとけ、春の風が森をなでました。
丘の花々は再び咲きはじめ、巣箱のなかでハチたちが羽音を立てます。
「おはよう、ミツヒメ」
クマゾウが声をかけると、ミツヒメは羽をパタパタとふるわせました。
「クマゾウさん、おはよう。またいい一年になりそうね」
「うん、今年もみんなでがんばろう!」
リスもウサギもキツネも集まってきて、丘はまたにぎやかになりました。
■ はちみつのような村
その年も、次の年も、はちみつ村は毎年あたたかく育っていきました。
森に迷いこんだ旅人が丘を見つけると、甘い香りと、やさしい笑い声に心をときほぐされるといいます。
クマゾウは、今日も巣箱のあいだを歩きながら、空を見上げました。
「はちみつみたいに、みんなが甘くてやさしくいられますように」
ミツヒメたちの羽音が春の風にまじり、丘はキラキラと輝きました。
🐻 終わり
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