第3話 推理編②

 わからないことがまだいくつかある。俺はどこから攻めようものかじっと考える。

「当然ながら切断された右腕は敷地内から消失したものとみていいんだよな」

「そうだ。下山が今イメージしている、前腕から末梢部分はきれいさっぱり消えたと見ていい。香菜しか知らない家の隠し場所に隠したってのはなしだ」

「そうだよな……。ところで、香菜の血液が付着していたって件についてだが、香菜はどこか怪我していたのか」

「いや。怪我は……してないな」

 やや考えこむように土橋が答える。ならどうして香菜の血液が、廃棄された医療器具に付着していたのか。その時、一つの考えが閃く。そうか、それなら一応は生理食塩水を窃盗した件も含めて話が合う。正直、納得がいかないが。


「右上肢は殺害されてから切断された。間違いはないな」

「そうだ。その事実に揺るぎはない」

「香菜がノコギリを使って被害者の腕を切断することは可能ってことだな」

「ああ。腕を切断したのは間違いなく香菜だ」

 では腕はどこに消えたのか。何か別のアプローチが必要そうだ。

「自宅内におかしなところはなかったのか」

「おっ、チョレイ!自宅は換気扇が回っていて、部屋一帯がラベンダー臭かったそうだ。香菜いはく、ラベンダーが好きだから、部屋中にラベンダースプレーを散布していたらしいがな」

 それが重要な情報なのか。だが、それをどう活かせばいいのやら。熟考しているとふと俺は事件とは関係なさそうな素朴な疑問を思いついた。

「なぁ。被害者って介護保険適用で、おそらくは要介護5、つまりサービスをフルで使えた可能性が高いよな。殺害された日は何かサービスの予定は入ってなかったのか」

「チョレーーイィィ!! いい質問だ、下山。被害者は数カ月前までデイサービスや訪問入浴等フルで入れていたが、1ヶ月ほど前に香菜がその数をめっきり減らしている。殺害されたのは金曜日だが、サービスを入れたのが月、木曜のみ。そして殺害された前日の木曜は体調不良を理由に訪問入浴のサービスを断っている」

 どうやら俺は必要不可欠な情報を手にしたらしい。

「つまり、被害者に最後に会ったのは月曜日担当のスタッフということだな」

「ご名答。同日担当した訪問看護師が被害者と最後に会った人物だ。香菜を除いて、な」

 ははぁ。ようやく結末が見えてきた。あとはただの確認作業だ。

「香菜は腕をバーナーで炙っているが、これは果たして効果があったのか」

「いや、香菜も犯罪に関しては素人だ。バーナーで炙ったのは隠蔽したい事実があったからだが、結局隠すことはできていなかった」

「やっぱりか。てことは、被害者の右上腕だけど……血管が壊死していたんじゃないか」

「チョレイ。まさにそのとおりだ」

 土橋がうんうん、と首を振った。


 答えはわかった。何度でも言うが、その答えに納得がいったわけじゃないが。

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