第1話 帰り道

 満開に咲いた桜並木の下を、とある友達と一緒に歩いている少女————天崎あまざき 涼華すずかは、いつものように大学から帰宅していた。


「ねえ、今回受けた授業なんだけど…………涼華はどうだった?」


 同じ大学に通う友達が、不安そうな声で涼華に話しかけてきた。

 ————が、彼女はボーッとしながら歩いており、友達の質問を聞いていなかった。


「ちょっと、涼華…………聞いてる?」


 心配になり、友達がもう一度話しかけた。

 すると、涼華はフッと我に返ったようだったが…………


「…………え、何が?」


 と、キョトンとした顔で言ったのだった。

 ヒラヒラと花びらが足元に降っていく中、友達は「はぁ~っ」と呆れた声を出し、ジトッとした視線を涼華に向けた。


「あんた、また頭の中で音楽を流してたでしょ…………」


「———あ、ああ!ごめんごめん!昨日、新しい曲を見つけたから、つい………。で、さっき何を聞いてきたの?」

 

 涼華は、完全に自分の世界に入り込んでいたようだ。


「涼華って、たまに抜けてるところがあるよね…………(ボソッ)」


「ん?何か言った?」


「い、いや、なんでもない!大したことないよ。そ・れ・よ・り・も、今日受けた授業のことよ。ちょっと内容が難しかったから、理解が追い付かなかったの。だから、涼華に聞きたくってさ…………」

 

 …………何か、スルーされたような感じだったが———友達が困っているなら、その質問に答えなきゃと涼華は頭を切り替えた。


「あぁ———、あの授業ね!あれはねぇ———————」


 そう友達と授業の内容を分かりやすく説明し、別れるまで歩いていったのだった————。



 

 ◇◇◇


「ありがとう!おかげで、頭の中の整理が出来たよ!」

 

 友達は、すっきりとした顔で涼華すずかにお礼を言った。


「どういたしまして。————残りの帰り道、気を付けてね。じゃ、また明日」


 涼華は、にっこりと笑いながら手を振り、友達がいる反対方向も道を進んでいった。


「涼華も気を付けて!—————また明日!」


 友達は、彼女が見えなくなるまで大きく手を振り続けた。


「——————涼華って、本当に頭が良いし、カッコイイのに…………ちょっと残念なんだよね~」


 友達は、へにゃっと笑いながら涼華が通った道を見つめ、独り言を言いながら自分の帰路へと向かった。



 ————そう、涼華は結構、大学で人気なのだ。



 メイクをしなくてもいいほど、綺麗きれいな顔立ち。

 凛とした目つきにバランスのとれた鼻筋。

 そして、健康的な色をしたくちびる


 スラっとした体格で、背中まであるストレートな黒髪をシンプルにポニーテールとしてまとめ上げている十九歳の少女————。


 ————誰が見てもあこがれるのではないだろうか。


 見た目だけではない。

 彼女は、勉強もしっかりやり、人付き合いも良い。

 そして、何より——————

 

 優しく真っ直ぐな性格をしている。


 だが、周りから好評なのに本人は全く気付いていないという—————ちょっと無自覚なところがあるのだ。


 明日は、何を話そうか————。


 友達は足取りを軽くしながら帰っていった。



 ————だが、次の日から涼華すずかは、パッタリと大学に来なくなった…………。




 そう、彼女は友達と別れたその日————とんでもないところにいたのだ。





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