第3話カクテル
私はすすきののあるビルの一階に入っているバーでマルガリータを飲んでいる。酔いも回ってきたところで、彼が店に入ってくる。みなの注目を集めながら、彼は私の隣りに座る。バーテンダーにオールドファッションドを頼み、彼は私に話しかけてくる。私は彼の耳に顔を近づけて、愛を確認する。
しかし、その様子を店の外からカメラに収めようとするスマートフォンが無数にあるのが目に入る。私は彼の顔が写らないように、自分の体をぐっと乗り出してスマートフォンの前に入るようにする。スタッフも店外では統制が難しいらしく、道行く人たちが次々と彼を撮影していく。
私は彼に「出よう」といい、彼の手を引き、お金をテーブルに置いて店を後にする。通りで人混みがわーっとなるのをかき分けながら、私たちは個室が有名な料理屋を目指して歩く。それはすすきのの外れにあって、近づくにつれて人混みがなくなっていくのが感じられる。「いっぱい撮られちゃったね」と私がいうと、彼は「いいんだ」と返してくれる。私は思わず笑顔が漏れてしまう。それくらい彼の笑顔はかわいらしい。
私たちはようやくその料理屋にたどり着く。店長が直々に応対してくれ、特別な個室に案内される。そこでようやく私たちはのびのびし始める。私は彼に近づき、隙を見て彼にキスをする。それを引きはがすのは時々入ってくる店のスタッフしかいない。
私たちの食事は滞りなく終わる。予定通り、タクシーが迎えに来る。店のスタッフがうまくやってくれて、騒ぎにならずにそれに乗れる。タクシーはホテルへと向かう。細い道をヘッドライトがくねくねと暗いところをかき分けていく。
しかしもう少しでホテルというとき、私たちのタクシーにものすごい速さでスポーツカーが突っ込んでくる。タクシーは横転し、私は気を失う。
目が覚めると彼がぐちゃぐちゃになっている。私は逆さの状態のままなんとかタクシーの窓からはい出る。ぐちゃぐちゃなタクシーのそばに、彼の顔が転がっている。私はそれを抱え上げ、そこに座り込む。何もできずに。
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