どんなはなしになるだろう
霧島 碧
第1話 春の調べ 1
ある、穏やかで雲一つない、4月の終わりにさしかかった頃の午後。
僕は高い北の山の斜面に溶けていない雪の塊があるのを見つけた。
僕は舗装されていない道を鳥が南から北へ移動しながら泣いているのを聞きながら歩いた。
歩くのは簡単だった。僕のナップザックはほとんど何も入っていなかったし。心配事が何もなかったからだ。
僕は僕自身、そして木々や天気に幸せを感じていた。そんな素晴らしい午後だった。
明日や昨日のことを考えなくていいし、太陽は暖かく輝いていて空気は柔らかくて涼しく通り抜けていった。
今日の午後は調べを奏でるのに最適だと僕は思った。
新しい調べだ。一つは期待を込めて二つは春の少しの悲しみ三つ目にはただ素晴らしい光の中を一人で歩く幸せ。これを奏でてみよう。
僕は数日間この調べを頭の中で考えていたけれどそれを奏でていなかった。
それはまだ多くの幸せを必要としていたからだ。
僕は軽くハーモニカに唇を当て、奏でた。
もし、僕がそれを途中で辞めてしまったら、その調べは半分くらいの出来だろうし、また作り直すことは難しいかもしれない。
調べを作ることはとても難しいことなのだ、特にそれが楽しくもあり悲しいものであると。
けれど、この午後僕は調べがとても良くなる予感がしていた。それはそこで成熟して待っていて僕が作った調べの中で一番のものになりそうだった。
だから僕はこの谷にやって来たのだ。僕は橋のへりに座って奏でた。
すると「それは本当に素晴らしい調べだね」と彼の声が聞こえた気がした。
僕は奏でる手を止めた。そう、彼はいつも家で座って、焦がれるように長い間僕のことを待っているのだ。そして、彼はいつもこういった。
「きみが自由に自然にどこへでも行くっていうこと僕は理解しているんだよ」
そういう彼の目は真っ暗で悲しみに染まるのだった。
そういう考え事をして僕は後悔した。
僕は、今彼のことではなくてこの調べについて考えなくてはいけないんだ。僕は自分自身にそう言い聞かせた。
そうしてキャンプにいい場所を探し、小川の木々の近くにある音を聞いた。
赤い太陽の光が春の夕暮れに変わり、白樺の中を通り抜けて青い霧になった。
近くにあった小川はいいものだった。それはとても澄んでいて多くの去年の葉が緑の苔を通り抜け、小さな滝となって真っ逆さまに白い砂の上に落ちた。
そこは蚊のように鋭い音を立てたかと思えば大きく威嚇するように雪をゴボゴボと鳴らした。
僕はその苔の塊が生み出す音を真剣に聞いて、調べにできないかと考えた。
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