第49話 星命の試練〈アストラル・オーディール〉

 因果の調整者〈コレクター・オブ・フェイト〉との邂逅から数日。

 ノヴァリア王国はなお復興に向けて歩んでいたが、仲間たちの胸にはあの言葉が残っていた。


「お前たちは“誤差”だ。だが、その力が世界を導くかもしれない」


 その真意を確かめるかのように、新たな出来事が訪れる。


◆ ◆ ◆


 夜明け前。

 蓮は夢の中で、不思議な光景を見ていた。


 無限の星々が広がる空間。

 その中央に、一冊の巨大な書物が浮かんでいた。


「これは……?」


 近づくと、書物は自らのページをめくり、声を発した。


『来たか、星命の担い手よ。お前には試練が課される』


「試練……?」


『未来を創る力が、お前たちにあるかどうか。

 その答えを示せ――アストラル・オーディール』


 光が弾け、蓮の意識は現実へと引き戻された。


◆ ◆ ◆


 翌朝。

 蓮は夢の内容を仲間に語った。


「夢の中に星々と書物が出てきたって……それ、ただの夢じゃないと思う」

 リーナが真剣な表情を浮かべる。


「恐らく星界の記録庫〈アストラル・アーカイブ〉よ」

 イリスが静かに頷く。

「神代に残された試練の場所。そこに選ばれた者だけが招かれるの」


「つまり、俺たちは次の段階に呼ばれたってことか」

 蓮は決意を込めて頷いた。


◆ ◆ ◆


 一行は浮遊大陸にある星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉を訪れた。

 神殿の奥にある祭壇に、夢で見た書物の幻影が浮かんでいる。


『再び来たか。星命の担い手たちよ』


「ここで試練を受ける……そういうことだな?」

 蓮が問うと、書物は光を揺らした。


『その通り。だが、この試練は一人では突破できぬ。仲間全員の意思を問う』


「全員の意思……」

 リーナが小さく呟く。


「なら遠慮はいらない。俺たちは一緒にやってきた」

 カイエンが笑みを見せ、ネフェリスも明るく頷いた。

「もちろんだよ! みんなでなら、絶対できる!」


「じゃあ……受けよう。星命の試練を」

 蓮の言葉に全員が頷き、光の中へと踏み出した。


◆ ◆ ◆


 試練の場は、無数の星が漂う空間だった。

 そこに浮かぶのは八つの星座の試練。


『第一の試練――絆を示せ』


 突如、仲間たちは光の壁で隔てられ、互いに見えなくなった。


「……これは!」

 蓮が焦るが、声も届かない。


 それぞれの空間には、孤独と恐怖が襲いかかる。

 過去の絶望、虚の影、失った記憶。


「みんなと……会えなくなるなんて……いやだ……!」

 ネフェリスが震えながらも立ち上がる。


 ルアは星光を放ち、幻影を打ち払う。

「僕はもう、独りじゃない!」


 そして蓮も、胸に刻んだ仲間たちの顔を思い浮かべる。

「絶対に一緒に未来を創るんだ……!」


 強い意志が光となり、壁を打ち砕いた。


◆ ◆ ◆


『第二の試練――選択を示せ』


 次に現れたのは二つの道。

 一方は安穏とした未来、もう一方は苦難に満ちた未来。


「楽な方を選べば、確かに平和は訪れる。

 だが、それは“与えられた平和”だ」

 イリスが冷静に語る。


「俺たちは、自分の意思で歩む。どんな苦難が待とうとも!」

 蓮が声を張り上げ、仲間たちは迷わず苦難の道を選んだ。


◆ ◆ ◆


 次々と試練は襲いかかった。

 過去の己との戦い。

 仲間を疑わせる幻影。

 未来を差し出すか否かの選択。


 だが、どれも仲間たちの強い絆と決意によって突破された。


 最後の試練が終わると、星々が一斉に輝いた。


『よくぞ越えた。お前たちの意思は、確かに未来を紡ぐに足る』


 書物がゆっくりと閉じ、光の結晶が蓮の手に収まった。


「これは……?」


『星命の証〈アストラル・シジル〉。

 未来を創る者の資格を示すものだ』


 蓮は結晶を掲げ、仲間たちに見せた。

「これが……俺たちの未来への証なんだな」


◆ ◆ ◆


 試練を終えた一行が現実に戻ると、神殿の空に新たな星が瞬いていた。

 それは、彼らの未来を象徴するかのように輝いていた。


「試練は越えた。でも、調整者はまだ動いている」

 イリスが表情を引き締める。


「だったら次は……その調整者に、俺たちの選んだ未来を見せてやる!」

 蓮の言葉に、仲間たちは力強く頷いた。


 こうして、星命の試練を越えたノヴァリアの戦士たちは、さらなる未来へと歩み出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る