接触-5 side 桜宮梨江
今何してますか?とメッセージを送ってから暫くは経つけど未だその返事が帰る兆しがない。
普段あまり携帯を見ない人なのかな?
私、桜宮梨江は部屋の勉強机に齧り付き、出された宿題をやりながら、何度もチラチラと携帯を確認していた。
定期的にやっている友達との勉強会...という名の女子会に参加した帰り、いつものように店長さんに話を聞きに行ったはいいのだけど、ここ数日ずっと店はもう閉まっているのに、従業員入口の近くで10分近くは見張るかのように隠れている男の人がまたいるのを見かけたのだ。
店で働いている姿は何度か見かけているし、多分最近入った従業員さんなんだとは思うけど、だからといってこの人は毎日毎日何をしているんだろうか?と思い、声をかけてみたのが今日のハイライト。
結論からいうと、忘れものをしたけど閉まっているからどうしたものか。と悩んでいた...らしい。
毎日のように忘れものをしているよほどのドジっ子さんなのか、それは言い訳で実は夜に盗みに入ろうとしている悪い人なのかの判断は私にはつかなかった。
なので、少し話をしませんか?と誘ってみた。
怪しい逆ナンだとか、変な女だとか、そんな風に思われる事もなく、むしろ紳士的に接してきて、ますますこの人がなんなのか予想できなくなってしまった。
そのあとも、道すがらあれこれ雑談はしてみたものの、どうにも当たり障りのない返事しか返ってくる事がなく、信用度を上げれば正体が掴めるかも!と半ば強引に連絡先交換してきたわけで...
『とはいえ、メールしたところで律儀に返してくれるかどうかは別問題だよね』
むしろ、何か怪しまれて、かえって距離を取られかねないのでは?
『こういう時、香帆と咲ならどういう風に持っていくんだろう...?』
私は、携帯を片手に親友2人ならどうするだろうか、と思考を巡らせてみる。
まず1人目、島崎香帆。
ちょっとデリカシーってものが欠けてる気はするけど、いつも明るく、周りを照らしてくれる太陽のような女の子。
距離感がたまにバグってたり、やたら騒がしかったりするのはあるけど、私を色眼鏡で見たりしない大切な友人だ。
『香帆なら、気にせずガンガンアタックしてみなよ、梨江が気になる男なら私も気になるし、今度紹介してよね!くらいは平気で言いそう...。相手が従業員さんだとバレたら色々誤解だらけになりそうな予感』
2人目は、宮永咲。
香帆とは違い、物静かというか妙に落ち着いているというか、無口キャラとも違うけど、クールぶってるわけでもないという少し不思議な女の子。
香帆とは小学生の頃からの仲で、いつも元気な香帆の首にリードをつけて飼い慣らすのが私の役目。と、中学で出会った時に教えてくれたのを覚えている。
『咲なら、ただの従業員にしては不審な行動をとってるし、こっちが怪しんでるのを気づかせないようにしながら情報を引き出すのが吉、くらいのことは言うかなあ...。あれでいて、テストは常に80近く取るくらい聡明な子だし、何かを相談するならやっぱり咲かも』
後先考えずにガンガン行こうぜ系の香帆と、冷静に場を見極めて行動しよう系の咲、こうして考えてみると太陽と月ってくらい真反対な性格をしているようだ。
『あ、返事きた。なになに、食事をとって部屋に戻ってきたところだ、何かあったか?か...』
こうしてみると、悪い人ではなさそう...?
なんなら、むしろ少し堅苦しい気さえする。普段からこんな口調で疲れたりしないのかな?
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