接触-3 side 古山穣
報告と食事を手早く済ませ、自室へと戻ってきた俺はベッドに座りながらあの時のことをもう一度思い出していた。
あれは不審な出入りが行われないかの確認のために見張りを始めてすぐの事だったはずだ。
まさかの遭遇に驚いたのを強く覚えている
『ここで何してるんですか?店員さん』
声のした方を振り返ると、数刻前に友人と買い物に来ていた桜宮梨江の姿があった。
学生鞄を手に持ち、不思議そうな顔をしてその場に立っている。
何してるのか?とは、むしろこちらが聞きたいくらいだ。こんな夜遅い時間に、ましてや学生がこんな場所に何の用事があるというのだろう。
『実は忘れ物をうっかりしてしまってね。中に入ろうにももう店仕舞いされた後のようで、どうしたものかと悩んでいたとこだよ。...君こそ、どうしてここへ?』
我ながら、咄嗟によく思いついた言い訳だと思う。彼女は彼女で特に疑問に思う事もなかったらしく、この場を訪れた理由を話してくれた。
『最近店仕舞い早いですよね、前はもうちょっと長かったんですけど...。実はですね、私ここの店長さんとは知り合いなんですよ。と、言っても主に父が...ですけど。それで、たまに父から変な圧力とかかけられて困ってないか聞きに来てるんです。何かあったら、私から父に抗議してやろうかなって』
勉強会の帰りのタイミングなら、少しくらい遅くなっても不思議がられないはずでしたし。と、年相応な悪戯っ子のように笑う彼女をみて、少し安心した。
なんてことはない、彼女は純粋に康弘氏が心配なのだろう。
『でももう帰っちゃったなら仕方ないですね。あ、よかったら少しお話ししません?これも何かの縁だと思いますし』
純粋なのはいい事だと思うが、もう少し人を疑う心を持った方がいいのではないか?という言葉を口に出そうとして飲み込む。
彼女から何か情報を引き出すいいチャンスじゃないか。
『ああ、構わないよ。流石に夜も遅いしご自宅近くまで送ろう、その間の道すがらでよければだけどね』
『はい、と言っても私の家は目立つ場所にあるから、そんなに時間もかからないですけどね。あ、まだ自己紹介してませんでしたね。私、桜宮梨江って言います。自分で言うのもおこがましいんですが、一応この街一番の家柄の人間です』
ちょっと困り顔で、そう自己紹介する彼女はどことなくその名家の看板を重荷に感じているようだった。
『俺は古山穣、あの店に最近入ったばかりの新人だ。どうぞ今後とも当店を宜しく頼みますね、お客様』
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