第10話 新たなスタート

公式アンバサダー就任から一ヶ月。


矢代秀の生活は、大きく変わっていた。


「今日の撮影は、14時からです」


「了解です」


秀は、スケジュール帳を確認しながら答えた。


アストラルオデッセイのプロモーション撮影、インタビュー、イベント出演。

以前とは比べ物にならないほど、忙しくなっていた。


だが――


「全然、苦じゃないな」


秀は、笑いながら呟いた。


莉乃と一緒だから。

ゲームを楽しんでいるから。


それが、全てだった。


---


撮影スタジオ。


秀と莉乃は、並んでカメラの前に立っていた。


「はい、2人でもうちょっと近づいてください」


カメラマンの指示に、2人は少し近づく。


「いい感じです!では、笑顔で!」


パシャリ。


撮影が終わり、2人は休憩室に戻った。


「お疲れ様、秀くん」


「お疲れ様です」


莉乃が、ペットボトルのお茶を渡してくれる。


「ありがとう」


秀は、お茶を一口飲んで――ふと、莉乃を見た。


「莉乃さん、疲れてません?最近忙しいですし」


「大丈夫!秀くんと一緒だから、全然疲れないよ」


莉乃が、笑顔で答える。


秀は――少しだけ、心が温かくなった。


「そうですか。なら、よかった」


2人は、並んでソファに座った。


---


その夜の配信。


「おはようございます、神崎灯です」


「白雪リノです!」


同接:112,394人。


登録者数は、100万人を突破していた。


『おめでとう!』

『100万人おめでとう!』

『伝説のVTuber』


秀は、少し照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます。ここまで来れたのは、皆さんのおかげです」


「本当にありがとう!」


リノも、嬉しそうに答える。


「今日は……特別企画です」


秀が、画面を切り替える。


「視聴者参加型のゲーム大会を開催します」


『マジで!?』

『参加したい!』

『これは熱い』


「エントリーは、Twitterのハッシュタグから。上位100名の方と、俺たちが対戦します」


リノが、付け加える。


「勝った人には、特別なプレゼントも用意してるよ!」


チャット欄が、盛り上がる。


『絶対参加する!』

『神崎灯と対戦できるチャンス!』

『リノちゃんとも!』


---


大会当日。


100人の参加者が、オンラインで集まっていた。


「では、トーナメント形式で進めていきます」


秀の声に、参加者たちが緊張する。


第一回戦。


秀の対戦相手は、登録者5000人の小規模VTuberだった。


『頑張ります!』


相手の声が、緊張している。


「よろしくお願いします」


秀は、優しく答えた。


試合開始。


秀は――手加減していた。


わざと隙を作り、相手に攻撃のチャンスを与える。


『あ、当たった!』


相手が、喜びの声を上げる。


秀は、笑いながら反撃した。


だが――ギリギリの戦いを演出する。


そして――


『WINNER: 神崎灯』


秀が勝ったが、相手も満足そうだった。


『神崎灯さんと戦えて、めちゃくちゃ楽しかったです!』


「こちらこそ、ありがとうございました。すごく強かったですよ」


秀の優しい言葉に、相手が感激している。


チャット欄も、温かいコメントで溢れる。


『秀くん、優しい』

『相手を楽しませるプレイ』

『これがトップの器』


---


一方、リノの試合も盛り上がっていた。


「きゃああああ!」


リノの叫び声が響く。


相手の連続攻撃に、押されている。


『リノちゃん、ピンチ!』

『頑張れ!』


だが――リノは諦めなかった。


「まだ……まだ負けない!」


リノのキャラクターが、カウンター攻撃。


相手のHPを一気に削る。


『WINNER: 白雪リノ』


「やったああああ!」


リノが、歓声を上げる。


相手も、満足そうだった。


『リノさん、めちゃくちゃ強かったです!楽しかった!』


「ありがとう!あなたもすごく強かった!」


リノの優しい声に、相手が嬉しそうに答える。


---


決勝戦。


秀とリノが――再び対決することになった。


「また、決勝で当たりましたね」


「うん。今度は……負けないよ!」


リノの声が、闘志に満ちている。


秀は――笑った。


「じゃあ、全力で行きますよ」


「来い!」


試合開始。


秀とリノ、互いに一歩も引かない激戦。


視聴者たちは、固唾を呑んで見守っている。


攻撃、回避、カウンター。


完璧な読み合い。


そして――


最後の一撃。


秀のキャラクターが――リノのキャラクターに必殺技を叩き込んだ。


『WINNER: 神崎灯』


会場(チャット欄)が、歓声に包まれた。


『すげええええ』

『白熱の戦い!』

『2人とも最高!』


秀は、画面の向こうで笑った。


「莉乃さん、めちゃくちゃ強くなりましたね」


「でも……まだ勝てない」


リノの声が、少し悔しそうだ。


「次は絶対、勝つから!」


「ああ、楽しみにしてます」


2人は――また笑い合った。


---


大会終了後。


秀は、満足そうに伸びをした。


「楽しかったな……」


視聴者参加型の大会。


みんなが楽しんでくれた。


それが――何よりも嬉しかった。


ピロン、とDM通知。


開発会社の田中からだった。


『矢代さん


お疲れ様でした。

大会、大成功でしたね。


実は……次の企画について、ご相談があります。

アストラルオデッセイの発売に合わせて、大規模な世界大会を開催する予定です。


もちろん、矢代さんと白雪さんにも参加していただきたいのですが……いかがでしょうか?』


秀は、少しだけ考えた。


世界大会。


また、あのプレッシャーの中で戦う。


だが――


秀は、莉乃に連絡を入れた。


「もしもし、莉乃さん」


『秀くん!お疲れ様!』


「実は、アストラルオデッセイの世界大会があるんですが……一緒に出ませんか?」


『え!?世界大会!?』


莉乃の声が、驚いている。


「はい。2人で、世界の頂点を目指しましょう」


少しの沈黙。


そして――


『……うん!秀くんと一緒なら、どこまでも行けるよ!』


莉乃の声が、決意に満ちていた。


秀は、笑った。


「じゃあ、決まりですね」


---


数日後。


公式発表があった。


『アストラルオデッセイ ワールドチャンピオンシップ開催決定!

優勝賞金:5000万円

参加資格:予選を勝ち抜いた32組のペア


神崎灯×白雪リノも参加決定!』


Twitterが、爆発的に盛り上がった。


『5000万円!?』

『世界大会!』

『神崎灯とリノちゃんが出る!』

『絶対見る!』


秀と莉乃は――新たな目標に向かって、動き出した。


---


その夜。


秀と莉乃は、通話しながら特訓をしていた。


「莉乃さん、そこは右に避けてください」


「うん!」


画面には、高難度のボス戦が映っている。


2人は、完璧な連携でボスを攻略していく。


「よし、このまま!」


「はい!」


『VICTORY』


「やった!」


莉乃の歓声。


秀も、満足そうに笑った。


「完璧です。この調子なら、世界大会も大丈夫ですね」


「うん!秀くんと一緒なら、怖くない!」


莉乃の声が、温かい。


秀は――心から思った。


ゲームは、やっぱり最高だ。


そして、誰かと一緒にやるのは、もっと最高だ。


「莉乃さん、世界の頂点……取りに行きましょう」


「うん!絶対、2人で優勝しよう!」


2人の声が、決意に満ちていた。


---


翌日の配信。


「おはようございます、神崎灯です」


「白雪リノです!」


同接:125,847人。


「今日から、世界大会に向けた特訓配信を始めます」


「2人で、世界の頂点を目指します!」


チャット欄が盛り上がる。


『応援してる!』

『絶対優勝してくれ!』

『この2人なら勝てる!』


秀とリノは――画面の向こうで、笑い合った。


「じゃあ、始めましょうか」


「うん!」


2人のキャラクターが、再び冒険の世界へ飛び込んでいく。


---


数週間後。


世界大会の予選が始まった。


秀とリノは――圧倒的な強さで、次々と勝ち上がっていった。


予選1回戦:完勝

予選2回戦:完勝

予選3回戦:完勝


「強すぎる……」


「この2人、止められないだろ」


他の参加者たちが、驚きの声を上げる。


そして――


予選決勝。


秀とリノは、ヨーロッパランキング1位のペアと対戦していた。


「強い……!」


リノの声が、緊張している。


相手の連携は完璧で、秀とリノを追い詰めていく。


だが――


秀は、冷静だった。


「莉乃さん、あの合体技……使いましょう」


「……!うん!」


2人は、特別スキル『絆の力』を発動した。


画面が眩い光に包まれ――


巨大な光の剣が、相手に直撃した。


『VICTORY』


会場(チャット欄)が、歓声に包まれた。


『うおおおおおお』

『合体技きたああああ』

『圧倒的!』


秀とリノは――予選を突破した。


「やった……やったよ、秀くん!」


「ああ。次は、本戦です」


2人の声が、決意に満ちていた。


---


本戦開催まで、あと一週間。


秀は、自室で最終調整をしていた。


「よし……準備は万全」


秀は、満足そうに頷いた。


そして――窓の外を見上げた。


夜空には、満天の星。


「俺、今……すごく幸せだな」


三年前、燃え尽きて引退した自分。


だが今――こんなにも充実している。


VTuberとして活動し、世界中の人と繋がり、莉乃と出会った。


そして――再び、世界の頂点を目指している。


「今度は……一人じゃない」


莉乃がいる。

視聴者がいる。

応援してくれる人たちがいる。


だから――


「絶対、優勝する」


秀は、そう誓った。


---


大会前日。


秀と莉乃は、カフェで最終打ち合わせをしていた。


「明日、頑張ろうね」


莉乃が、コーヒーを飲みながら言う。


「ああ。2人で、優勝しましょう」


秀が、頷く。


莉乃は――少しだけ真剣な顔になった。


「秀くん……ありがとう」


「何がですか?」


「私を、ここまで連れてきてくれて」


莉乃の目が、潤んでいる。


「高校の時、私はただの本好きな地味な女の子だった。でも、秀くんと出会って……VTuberになって……こんなに楽しい毎日を送れてる」


「莉乃さん……」


「全部、秀くんのおかげだよ」


莉乃が、涙を拭う。


秀は――優しく笑った。


「いえ、俺の方こそ、莉乃さんに感謝してます」


「え?」


「俺、三年前に燃え尽きて引退したんです。でも、莉乃さんと出会って……また、ゲームが楽しくなった」


秀の声が、温かい。


「莉乃さんがいなければ、今の俺はいません。だから……こちらこそ、ありがとう」


莉乃が――泣き出した。


「秀くん……」


「明日、2人で……優勝しましょう」


「……うん!」


2人は、握手を交わした。


---


大会当日。


巨大なアリーナに、数万人の観客が集まっていた。


「すごい……」


莉乃が、会場を見渡して呟く。


秀も、少し緊張していた。


だが――


莉乃の手を見て、落ち着いた。


「大丈夫。俺たちなら、できる」


「うん!」


2人は――ステージへ向かった。


世界の頂点へ――

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