第8話 世界初プレイ

配信開始30分前。


矢代秀は、深呼吸を繰り返していた。


「緊張するな……」


世界初のテストプレイ配信。

これまでにない規模のイベントだ。


開発会社からは、特別な機材が送られてきた。

最新のゲーミングPC、4Kカメラ、そして――『アストラルオデッセイ』の体験版データ。


「よし……やるか」


秀は、配信ソフトを起動した。




配信開始。


「おはようございます、神崎灯です」


同接:78,394人。


開始直後から、異常な数字だった。


『きたああああ』

『世界初プレイ!』

『楽しみすぎる』

『海外勢も大量にいて草』


秀は、少し緊張した声で言った。


「今日は……世界初、『アストラルオデッセイ』のテストプレイをお届けします」


画面に、美麗なタイトル画面が表示される。


幻想的な音楽。

輝く星々。

そして――『ASTRAL ODYSSEY』の文字。


チャット欄が、感嘆のコメントで溢れる。


『グラフィックやべえ』

『音楽も神』

『これは期待』


秀は、ゲームを起動した。


「じゃあ、始めます」




ゲーム開始。


画面には、広大な草原が映し出された。


主人公のキャラクターが、ゆっくりと目を覚ます。


『……ここは?』


主人公の声。


秀のキャラクターが、周囲を見回す。


「おお……自由に動けるのか」


秀は、キャラクターを操作する。


歩く、走る、ジャンプする。


全ての動作が、信じられないほど滑らか。


『モーションすげえ』

『これPS5?PC?』

『次世代すぎる』


秀は、少しずつゲームの世界を探索していく。


草原を抜けると――巨大な森。


森の中には、様々な生き物たち。


「おお、鹿がいる……」


秀のキャラクターが、鹿に近づく。


鹿が――こちらを見て、逃げ出した。


『リアルすぎる』

『AIめっちゃ賢い』


秀は、森の奥へと進んでいく。


そして――


巨大な遺跡を発見した。


「これは……」


遺跡の入口には、古代文字が刻まれている。


秀が近づくと――文字が光り出した。


『汝、星の旅人よ。この先に待つは、選択の連続。汝の選択が、世界の運命を決める』


画面にメッセージが表示される。


秀は、少しだけ緊張した。


「選択が世界を変える……か。これは、重要な分岐点が多そうだな」


秀は、遺跡の中へ入った。




遺跡の中は、薄暗い通路が続いていた。


秀のキャラクターが、慎重に進む。


すると――


前方に、謎の生物が現れた。


「敵……?」


秀は、構えた。


だが――


生物は、攻撃してこなかった。


ただ、じっとこちらを見つめている。


画面に、選択肢が表示された。


『A: 攻撃する』

『B: 話しかける』

『C: 無視して進む』


秀は、少しだけ考えた。


「……話しかけてみるか」


秀は、『B: 話しかける』を選択した。


主人公が、ゆっくりと近づく。


「君は……何者?」


生物が――ゆっくりと口を開いた。


『……我は、この遺跡の守護者。汝、何を求めてここに来た?』


秀は、画面を見つめたまま――考えた。


また選択肢が表示される。


『A: 力を求めて』

『B: 真実を求めて』

『C: ただ彷徨っているだけ』


秀は――『B: 真実を求めて』を選択した。


守護者が、ゆっくりと頷いた。


『……そうか。ならば、汝に試練を与えよう。この試練を乗り越えれば、真実の一端を教えよう』


画面が暗転し――


ボス戦が始まった。


「おお、来た!」


秀の指が、コントローラーを握る。




守護者との戦闘。


秀のキャラクターが、剣を構える。


守護者が――巨大な腕を振り下ろす。


「速い!」


秀は、紙一重で回避。


そして――カウンター攻撃。


だが、守護者は硬い。ダメージがほとんど入らない。


「正攻法じゃ無理か……弱点を探さないと」


秀は、冷静に守護者の動きを観察する。


攻撃パターン、隙、弱点。


そして――気づいた。


「背中に光る部分がある……あれが弱点か」


秀のキャラクターが、守護者の背後に回り込む。


そして――光る部分に攻撃。


クリティカルヒット!


守護者が、大きく怯む。


「よし!」


秀は、そのまま連続攻撃を叩き込む。


守護者のHPが、みるみる減っていく。


そして――


『VICTORY』


守護者が、崩れ落ちた。


チャット欄が盛り上がる。


『つええええ』

『初見でパターン見抜くの早い』

『やっぱり世界王者』




戦闘後。


守護者が――ゆっくりと起き上がった。


『……見事だ。汝は、真実を知る資格がある』


守護者が、秀のキャラクターに何かを渡す。


『これは、"星の欠片"。汝の旅に、必要となるだろう』


アイテム取得:星の欠片


「星の欠片……」


秀は、アイテム画面を開く。


『星の欠片:古代の力が宿る神秘的な石。特定の場所で使用することで、隠された真実が明らかになる』


秀は、少しだけワクワクした。


「これ、重要アイテムっぽいですね」


守護者が、最後に言った。


『汝の選択が、世界を変える。忘れるな』


そして――守護者は光となって消えた。




2時間後。


秀は、広大なフィールドを探索していた。


草原、森、山、湖。


それぞれのエリアには、独特の生態系と美しい景色。


「このゲーム、マジで綺麗だな……」


秀は、思わず呟いた。


湖のほとりで、夕日が沈んでいく。


オレンジ色に染まる空と水面。


「……すごい」


秀は、ただただ景色を眺めていた。


チャット欄も、静かになっていた。


『綺麗……』

『これ、リアルタイムレンダリング?』

『ゲームの枠超えてる』


秀は、深く息を吐いた。


「このゲーム……本当に楽しい」


心からそう思った。


新しい世界を探索する楽しさ。

謎を解き明かしていく面白さ。

美しい景色に感動する喜び。


全てが――最高だった。




3時間後。


秀は、ある村に辿り着いていた。


村人たちが、平和に暮らしている。


秀のキャラクターが、村の中を歩く。


すると――


一人の少女が、駆け寄ってきた。


『お兄ちゃん!助けて!』


少女が、泣きながら訴える。


『村の外に、怖い魔物がいるの!お母さんが、まだ森にいるの!』


画面に、選択肢が表示された。


『A: 助けに行く』

『B: 断る』

『C: 他の村人に任せる』


秀は――迷わず『A: 助けに行く』を選択した。


「当然、助けに行きます」


チャット欄が、温かいコメントで溢れる。


『優しい』

『そういうとこ好き』

『秀くんらしい』


秀のキャラクターが、森へ向かう。




森の奥。


そこには、巨大な魔物と――怯える女性がいた。


「あれが……魔物か」


秀は、慎重に近づく。


魔物が――こちらに気づいた。


戦闘開始。


秀のキャラクターが、剣を構える。


魔物が、巨大な爪を振り下ろす。


「速い……!」


秀は、ギリギリで回避。


そして――カウンター。


だが、魔物は強い。


「これは……苦戦するな」


秀は、集中力を高める。


回避、攻撃、回避、攻撃。


完璧なタイミングで、魔物の攻撃を捌いていく。


そして――


必殺技を叩き込んだ。


『CRITICAL HIT!』


魔物が、崩れ落ちた。


「よし……!」


秀は、女性のもとへ駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


女性が、涙を流しながら頷いた。


『ありがとう……あなたが来てくれなければ……』


秀のキャラクターが、女性を村まで送り届ける。




村。


少女が、母親と再会した。


『お母さん!』


『○○ちゃん……!』


2人が、抱き合う。


そして――


少女が、秀のキャラクターに駆け寄ってきた。


『お兄ちゃん、ありがとう!』


少女が、小さな花を渡してくれた。


『これ、お礼だよ!』


アイテム取得:希望の花


秀は――画面を見つめたまま、小さく笑った。


「……どういたしまして」


チャット欄が、温かいコメントで溢れる。


『泣ける』

『このゲーム、心温まる』

『神崎灯、優しすぎる』


秀は、深く息を吐いた。


「このゲーム……本当にいいな」




配信終了後。


秀は、満足そうに伸びをした。


「めちゃくちゃ楽しかった……」


5時間の配信。


だが、全く疲れを感じなかった。


むしろ――もっとプレイしたかった。


秀は、Twitterを開いた。


タイムラインが、『#アストラルオデッセイ』『#神崎灯』で埋め尽くされていた。


『神崎灯の世界初プレイ、最高だった』

『このゲーム、絶対買う』

『グラフィックも内容も神』

『神崎灯のプレイ、見てて楽しかった』


秀は、画面をスクロールしながら――笑った。


「みんな、楽しんでくれたみたいだな」


ピロン、とDM通知。


『白石莉乃:秀くん!配信見てたよ!めちゃくちゃ面白かった!私もやりたい!』


秀は、すぐに返信した。


『開発会社に聞いてみます。一緒にプレイできたら楽しそうですね』


『やったー!お願い!』


秀は、笑いながらスマホを置いた。


そして――窓の外を見上げた。


夜空には、満天の星。


「ゲームって……本当に、無限だな」


秀は、心からそう思った。




その夜。


開発会社の田中から、メールが届いた。


『矢代さん


本日の配信、拝見しました。素晴らしいプレイでした。

視聴者の反応も、想像以上に良好です。


実は、追加でお願いがあります。

次回の配信で、白雪リノさんとのコラボプレイをしていただけないでしょうか?

2人協力プレイのモードも実装されているので、ぜひテストしていただきたいのです。


ご検討ください。』


秀は――即座に返信した。


『了解しました。次回、リノさんと一緒にプレイします』


送信。


秀は、ベッドに横たわりながら――天井を見つめた。


「次回も……楽しみだな」




翌日。


秀は、莉乃に連絡を入れた。


「もしもし、莉乃さん」


『秀くん!どうしたの?』


「実は、次の配信で一緒にアストラルオデッセイをプレイしませんか?開発会社から、協力プレイのテストを依頼されて」


『本当!?やる!絶対やる!』


莉乃の声が、弾んでいる。


秀は、笑いながら言った。


「じゃあ、明日の配信で」


『うん!楽しみ!』




翌日の配信。


「おはようございます、神崎灯です。今日は特別ゲスト……」


画面に、リノのアバターが表示される。


「白雪リノです!今日はアストラルオデッセイ、一緒にプレイします!」


同接:92,348人。


過去最高の数字だった。


『きたああああ』

『この2人でアストラルオデッセイ!』

『協力プレイ!?』


秀とリノは、ゲームを起動した。


「じゃあ、始めましょうか」


「うん!楽しみ!」


2人のキャラクターが、同じフィールドに現れる。


そして――


広大な世界を、一緒に冒険し始めた。



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