エンディングA ――「光を止める」(救済)
私は鍵束の中から、非常遮光の黒い鍵を選んだ。
レバーを倒す。
場内の光が、一斉に死ぬ。
ランプは冷え、スクリーンはただの布に戻る。
——映写孔は目であることをやめた。
静寂。
その静寂に、はじめて「人間の声」が戻ってきた。
ヴィヴィアンがすすり泣く。エリオットが深く息を吸う。
私は懐中時計を開いた。針は12:05ではない。
いまを指している。
「これで、もう誰も“再演”されない」
私が言うと、ヴィヴィアンは涙を拭き、舞台に上がった。
白い布に手を触れ、観客のいない客席に向かって頭を下げる。
「私は、彼女(メアリー)を演じた。
でも、これからは私自身を演じるわ」
帰り際、ロビーでリリーが古いプログラムを抱えて立っていた。
彼女は紙束を差し出す。
「刷り直します。リールの順番を“正しく”」
その笑顔は、光ではなく朝の色をしていた。
数週間後。
〈レガート座〉は再開した。
新しい看板に、白いペンキがまだ柔らかい。
ヴィヴィアンは舞台に立ち、映画ではなく朗読劇を始めた。
光は布を透かさず、言葉だけが客席に降る。
観客は、涙を拭いながらも笑って帰っていく。
エリオットは映写機に布をかけ、レンズを祭壇のように磨いた。
「光は、人を刺すナイフじゃない」
彼は小さな声で言った。「灯りだ」
私は最後列に座り、静かに掌を打った。
物語は止まった。
止まることで、ようやく前へ進み始めた。
ENDING A:光止む劇場(The House Where Light Rests)
——罪の輪は閉じ、朝が来る。救済のエンド。
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