第6話
「うおおおおお!」
体育館の裏に回るなり、男子生徒が叫びながら俺に殴りかかってきた。
あまりにもいきなりだが事実だ。
少林寺拳法百段の俺はとっさに相手の体に組み付いた。
そしてケンカ慣れしていない者同士の超絶グダグダな掴み合いになった。
「いきなりなんだよお前!」
「綾ちゃんで妄想〇〇◯した回数は絶対ボクが一番なんだよ!」
「いやだから誰だよ!」
控えめに言ってキモすぎる。
柔道レインボー帯の俺は大外で妄想野郎を地面に転がした。
額の拭うのも束の間。
体育館裏の空き地では、あちこちで野郎同士のつかみ合い乱闘が起きていた。
「てめー綾ちゃんに話しかけられたことすらねえだろ!」
「はあ? お前だってあいさつされただけで好きになっちゃったレベルだろ!」
ざっと見ても十人ぐらいいる。急にここだけ世紀末だった。
なんなんだここは。一体何が起こっている。野郎どもは全員ハッスルしていて状況を聞ける雰囲気にない。
しかしこういうときこそ冷静だ。
殴り合いを見回していると、空き地の隅っこの大木に目が止まった。木の陰に女子の制服が見切れている。近づいて声をかけた。
「おい、そこで何してる」
うおでっか。
すべてがどうでもよくなるほどに胸がデカかった。パツンパツンである。
黒髪ロング巨乳女はスマホを横向きに構えていた。
「そっちこそ何? まだ残ってるわよ、戦いなさいよ」
アッ、はい。
と答えてしまいそうになるほどに偉そうな命令口調だった。
俺ははち切れんばかりの胸元に向かって尋ねた。
「これなに? どういう状況?」
「なに? 途中参加? 最後まで生き残ったものが綾ちゃんに告白できる権利を得られるのよ」
なるほど? わからん。
「で、それはなに? 動画撮ってる?」
「ふふっ⋯⋯これは愚かな男たちの末路を収めているの。本当ならここで綾ちゃんと一緒に男の愚かさをわからせてあげるはずだったんだけど、いつまでたっても来なくて⋯⋯」
話しながらスマホのカメラを戦場へ向けている。
まるで俺のことなど眼中にないかのようだ。
ということはなんだ?
もしかして俺が釣ったと思って呼び出したのは⋯⋯。
俺はスマホを取り出すと、通話アプリを開いて、
「ごめん忘れてた。いますぐイクね♡」
と返信してみた。
「あっ、綾ちゃんから返信来た!」
巨乳女は撮影を中断してスマホを食らいつくように見つめる。
やはりそうだった。俺がメッセージでやりとりしていたのはこの女だ。
「あ、それ俺です」
「は?」
「俺、綾たん」
「えっ?」
理解できてないようなので俺のスマホの画面を見せてやった。
向こうは口半開きで固まった。フリーズタイムが思ったより長い。
それからやっと俺の顔に目を留めて、
「あっ! 不破陽斗(ふわはると)!」
フルネームで名前を呼ばれた。俺が自己紹介を決める前に言われた。
ていうか俺この人のこと知らないんだけど。
「ってことはあんたがカレン?」
「き、気安く呼ばないでくれる?」
アプリでの名前はカレンだった。
てっきりアニメキャラのなりきりとか痛い系のID名かと思ったが本名っぽい。
⋯⋯ん? ちょっと待てよ。
ってことは⋯⋯。
「お前かああああ!! 人のこと〇〇とか〇〇とか書いた手紙俺によこしやがったのは!」
「そ、それが何!? 私は事実を羅列しただけよ!」
いやガチで犯人かよ。
しかしこれは意外だった。
野郎に書かれたのならともかく、相手が女の子となると⋯⋯どんな顔であんな卑猥な言葉を書いたのだろうか。などと想像が膨らむ。
「で、何? きみ、綾のことが好きなの?」
「好きよ。私、美少女を保護しているの。今日は綾ちゃんにむらがるコバエどもを同士討ちさせて一網打尽にしようと思っていたところなの」
情報量が多すぎて話が理解できない。
これ以上絡むのやめたほうがよさそうなムードがすごい。
「美少女を保護って⋯⋯綾ってそんな?」
「彼女は私の学園の美少女ランクリストTierSよ」
ドヤ顔で言われてもそんなランクは知らん。
「男とデキた時点で美少女は美少女ではなくなるの。私はそれを阻止したいの。この世から美少女が減っていくのを」
信仰も強そう。
やはり関わり合いにならないほうがよさそうだ。
「そうなんだ、頑張ってね。とりあえず手紙のことは許すよ、うん。俺って美少女には手を上げない主義だし⋯⋯」
「へっ⋯⋯?」
カレンは自分の顔を指差した。
「び、美少女?」
俺の基準からすると十分に美少女といっていいだろう。中身はともかく。
一見優等生っぽい見た目で清楚系を装っているが、胸が大きくなってしまってコンプレックスに感じているタイプと見た。そして自分に自信がない。
美少女にはそういうストーリー性が大事だ。
俺はイケボを作って言った。
「俺はそう思うんだけどね⋯⋯。ところでカレンちゃん自身はそういう経験はないのかな?」
「そ、それはもちろん⋯⋯」
恥ずかしそうに顔をうつむかせた。
コトが始まる前のインタビュー感ある。
「興味自体はある?」
「えっと、そ、それは⋯⋯」
立て続けにネットリ質問を浴びせていると、とんとん、と何者かに肩を叩かれた。
無視しているともう一回叩かれた。
「なんだよ、今いいところなんだから⋯⋯」
肩で手を振り払いつつ俺は振り向いた。
するとそこにはよく見慣れた顔⋯⋯沙希がじっと俺を見上げていた。
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