タイムトラベル①
時空移動から目が覚めた。
辺りは木々で生い茂っており、自然豊かだ。
傾斜があり、おそらく花火の夜に彼女が殺された付近の山の中だと思われる。
日付を確認した結果、今日は月曜日。
彼女が死ぬのは今週の土曜日だ。
あらかじめ決められたとおりで猶予はある。
ひとまず、正確な場所を把握するために山の頂上を目指した。
山の頂上といっても、確かこの山は入り口から頂上まで40分程で到着できる。
地元からはすぐに自然を感じられ、頂上も広場のようになっており、ゆるく休憩でき軽い運動にもなる。
ちょっとした憩いの場となっていた。
上り続けると頂上に着いた。
そこには街並みの景色を眺めている少女がいた。
顔を見ると井原花音だった。
いきなり出会うことになるとは。
「すみません。ここで何をしているんですか」
「うん?たまにね、こうやって街並みを眺めに来るの。
そうすると、私も、私のちょっとした悩みもとても小さな悩みだな~って実感できるから」
彼女は制服姿だった。学校終わりにそのまま来たのか。
「しかもね、街並み以外にも鳥や虫たちもいるしね~。
この持っているデジカメで写真を撮るのも、ちょっとした楽しみになっているかな~。持っているAndroidじゃ画質が悪くなっちゃうからね」
「アンドロイド?まあ、簡易的な家事専用とかで、映像の画質が悪いものはあるけど。てかまだこの時代には実現できていないんじゃない?」
一瞬彼女はえっ?という表情をした後、笑いながら返事した。
「なにそれ、そう考える方がメジャーなの?
奏ちゃんと一緒の答え。
普通スマホの方でとらえると思うんだけどな~。
もしかして、昭和生まれのおばあちゃんですか~」
なんなら、未来から来ているんだが。
そういえばこの時代にはスマホの機種でそういったものがあったか。
「おばあちゃんにしては肌はスベスベ、むしろ綺麗すぎてお人形さんみたい。
すっごい美人だね」
別に容姿を誉められたところで、そう言った風に作られたに過ぎない。
ロボットの外側に特別な樹脂をつけて人間に見えるようにしているだけ。
「あなたは何しに来たの?
見たところ私と同じくらいの年齢だけど。
それに一応しょぼいけど、ここは山なんだからそんな恰好じゃ虫に刺されるよ」
私の格好はデニムのショートパンツに白いブラウス。
持ち物はかわいらしいポーチのみ。
たしかに山登りの格好ではない。
「大丈夫。私はアンドロイドだから虫には刺されない」
「ふふっ、も~笑わせないでよ。
わざとぼけているかしら」
頭の中で即座に様々な思考が流れてくる。
その時代の人にあわせられるように、10%ほど嘘を混ぜた状態でしゃべる方が円滑に指令を達成できると思われます。
もしくは部分的事実をクローズアップし、意図的に誤認させることを推奨します。
また未来に起こる核心部分は隠匿する方が計画が立てやすく、イレギュラーを少なくすることが出来ます。
「同年代でしゃべるのは久しぶり、今までずっと引きこもっていたから。
ここに来たのは、初めての家出のようなもの」
「へ~。そうなんだ。ちなみにどういった理由?」
「ひきこもりは学校での人間関係に少し疲れちゃったこと。
家出の方はその関係で少し親と喧嘩をしたからかな」
初めて人間に嘘をついた。
秘密を打ち明けることで同様の内容を相手から引き出そうとした。
彼女の事件前で学校の人間関係と家族について情報を得られる確率が高いと演算結果には出たからだ。
こちらを見ながら数秒間沈黙の時間が続いた。
「まだあなたと話していたいけど、そろそろバイトに行かないと。
ここにはよく来るの?」
「うん。おそらくここ1週間はよくいるよ」
「そうなんだ。じゃあまた明日来るかな。
それじゃ~また明日!」
そう言って彼女は去ってしまった。
今度は山を道なりに少し降りていく。
山を出ようとしたところで、体が動かなくなった。
規則⑥:事件が起こるまでは山から出ないこと
なぜだ。こんな規則、出発前に私が確認した時にはなかったはず。
誰かが付け加えたのか。
優先指令①:事前に犯人を山に来る前に無効化する。
どう考えても不可能だ。
犯人が事前に都会で通り魔をする時間と場所を把握していたのに。
他の規則や指令を確認する。
規則①:最優先指令に従う。
規則②:可能な限り優先指令に従う。
規則③:可能な限り自身を傷つけないこと。
規則④:最優先指令②以降は最優先指令①完了まで閲覧不可とする。
規則⑤:井原花音、佐藤賢一、中村友哉、新島奏以外には見られてはいけない。
最優先指令①:犯人から井原花音を守る。
規則①~③までは以前と変わらない。
だが、規則④以降については知らない。
そもそも最優先指令は「犯人から井原花音を守る」だけだったはず。
他にも付け足されたのか。
いったい誰が。
たしか私の最終調整は新島奏だが。
優先指令に関しては変わっていなかった。
そこだけでも安心だ。
とはいってもすべて彼女を救うための副次的なミッションみたいだが。
少しだけ道を巻き戻って、ある地点で少し外れてみると川が流れていた。
そこには新島奏がいた。
読書をしているみたいだ。
この人は未来の私の生みの親。
それなのに彼女のことはデータ上でしかよく知らない。
ほとんど話したこともない。
そして彼女がどういった気持ちで私をここに送り出したかも。
「そこでなにをしているんですか」
「読書」
それは見てわかるんだけど、それだけかな。
「どんな作品なんですか」
「SF」
…本当に口数が少ない。
旧型のアンドロイドレベルだ。
「なぜここで読んでいるんですか」
「…自然でリラックスしながら読みたいと思ったから。
元々は頂上の広場で読んでいることが多かったけど
同級生でちょっとした知り合いがウロチョロするようになってからはここに退避している」
「もしかして、井原さん?
話しやすい人だと思うけど」
「誰にとっても話しやすいという人はいない。
私にとって彼女はそうでなかったというだけ」
そう言って彼女は去っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます