第33話
「ありがとう、ヨーイチ」
「ヨーイチ! 本当にありがとう!」
リーゼロッテとリトリラは、広場の石像の前で微笑んだ。
「いやぁ、俺は俺にできることをしただけだよ」
「だが、お前のおかげでこの聖域が守られたのは事実だ。感謝する」
「そういえば、なぜこの場所が聖域なんだ?」
俺が尋ねると、リーゼロッテは背後の石像に振り返った。
「ご先祖様が仕えていたご主人様が、我々に『待て』を命じた地だからだ。だから我々は、ご主人様が帰ってくるまで、この地を守り続けるのだ」
「なんという忠犬っぷり……」
この石像の風化っぷりからしても何百年と経っているのではないだろうか。凄まじい忠誠心だな。
「さあ、脅威は去った! 宴だ!」
「ちょちょちょ、ちょっとまった! 俺はベルモンド・フラワーを急いで持って帰らないといけないんだよ!」
「ああ、そうだったな。では好きなだけ持って帰るといい。特別に、この広場の花を持って帰る許可をしよう!」
リーゼロッテはそういって両手を広げた。
ここに生えている花がベルモンド・フラワーだったのか。
俺は両手いっぱいに摘んで、背嚢にしまった。
「ヨーイチが着ていた服は預かるね。これで一族のみんなに匂いを覚えてもらうから、次に来た時は襲われなくてすむよ」
「ありがとうリトリラ! 助かるよ! それじゃ!」
俺は廃墟都市を後にした。
目指すはナハラートト。チコの下だ。
グレイシュタットの森を抜け、荒れ地を超える。
崖の上から、ナハラートトが見えた。
「あと少し!」
俺は勇み足で向かう。
ナハラートトに入ると、なんだか妙な感じがした。
「なんでこんなに静かなんだ?」
昼間だというのに、働いている者がだれもいない。
いつもならありえないことだ。
不審に思いつつも、俺は占いの館を目指した。
けれど占いの館には誰もいない。
「これは?」
占いの館の入口に、一枚の張り紙がしてあった。
『ヨーイチ様へ、チコは集会所にいます』
俺はすぐさま集会所へ向かった。
「ここにチコはいるか!?」
集会所に飛び込むと、そこには村中の娘がいた。
みんな、円を描くように座っており、その中央にはチコが横たわっている。
あと、なんか部屋のすみっこに鉄製の檻が置かれていた。
「あ、ヨーイチ様だロボ!」
なぜか片腕が欠損しているイヴが残った右腕で俺を指さした。
「ヨーイチ様! ベルモンド・フラワーはあったのか!?」
ピーコが人混みをかき分けてやってきて、俺の胸倉を掴んだ。
「もちろんだ!」
「おお! それではすぐに薬を煎じるとしよう!」
サタファニにベルモンド・フラワーを渡した。
「それで、これはいまなにをしているんだ?」
「これはみんなで祈祷を捧げていたロボ! イヴが媒介になって、みんなの少ない魔力を集めてチコを回復させていたロボ!」
「そうだったのか……ありがとうイヴ。おかげで助かったよ」
イヴの頭を撫でると、彼女は嬉しそうにはにかんだ。
「ところで、どうして左腕がないんだ?」
「実は、長老とクルーシオがチコを殺そうとしたロボ。これはその時に、チコを守るために負った傷だロボ」
「なんだって!? 大丈夫だったのか!?」
「みんなが助太刀してくれて事なきを得たロボ。長老とクルーシオはいま仲良く檻の中に射るロボ」
イヴが指さした先を見ると、檻の中で長老が悔しそうにこちらを睨んでいる様子が伺えた。
檻は、ナージャとクー、それにキャスカが監視している。
三人とも体のあちこちに包帯を巻いているが元気そうだ。
「みんながチコを守ってくれたのか……ありがとう、本当にありがとう」
「さあさあ、薬ができたぞ! すぐに飲ませるからな!」
涙が込み上げてきていると、集会所にサタファニが戻ってきた。
彼女は煎じた薬をチコに飲ませた。
すると、みるみるチコの顔色が良くなっていった。
「うっ……ここは……?」
「チコ!」
「きゃあ! よ、ヨーイチ様!?」
俺は感極まって、チコを抱きしめた。
「よかったチコ! 本当によかった!」
「あわわわ、み、みんなが見てますよヨーイチ様!」
「よかった! よかっ……」
あれ、なんだか気が抜けた途端、一気に瞼が重くなってきた。
「ヨーイチ様!? ヨーイチ様ーーーー」
チコの声を聞きながら、俺は深い眠りへと落ちていったのだった。
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