オカルト研究倶楽部ー坂本流星の調査報告ー
りんくま
第1話 伊豆急で、やって参りました!!
これは
秀と愛里が死出の旅路へと向かい
残された母たちの悲しみの結末から
38年後の物語である。
西暦 2025年
「オカオカけんけん、くらくらぶ〜〜♪」
眼鏡をかけたサラサラヘアの少年の元気な歌声が、海辺の街に響き渡った。
「くらぶ〜〜〜♪」
その後ろから、猫耳付きの帽子を被った少女が、調子外れの声で追いかけるように歌う。
「ぜんたーい、止まれ!!」
「ピッピ!」
ザッザッ、と足音を響かせて二人は立ち止まった。
「点呼、いち!」
「にー!」
「ちろるくん!」
「はい!」
掛け声とともに、二人は胸を張る。
「我々は今、何処に来ておるか?!」
「はっ!静岡県は伊豆市に来ております!」
「我々の目的は?!」
「はっ!三十八年前の心中カップルの亡霊の噂を調査しに参りました!」
「宜しい!」
少年は誇らしげに頷き、懐からボロボロになった新聞紙を取り出した。
「これは、爺ちゃんの箪笥の引き出しの敷物になっていた古い新聞紙である」
「ふむふむ」
彼は新聞記事の一部を指さした。
「この辺りの海辺で、カップル心中事件があった」
「注目すべきはここである。――遺体が、見つかっていない!」
「ふぉ〜!不思議であります!」
猫耳帽子の少女が両目を輝かせる。少年は大きく頷き、声を張り上げた。
「そして!この一帯の浜辺でイチャついていると、そのカップルの亡霊が現れて、海の底へ引きずり込まれる!そんな噂が立っていたのだ!」
「ネットで調べたのであります!」
「ちろるくん!この事件をどう思うかね?」
「超常現象であります!」
「そうだ!これは心中事件ではない!神隠しである!我々はその真相を確かめ、学級新聞の一面を飾るため、こうして遥々やって来たのであーる!」
「そして、心霊系ユーチューバーデビューでありますね?!部長!」
「その通り!早速調査開始だ!」
二人は同時に大きく腕を振り上げた。
「オカ!」
「けん!」
「くらーー!!」
潮風を切り裂くように、海辺に二人の掛け声が響き渡った。
海岸線をしばらく歩くと、先ほどまでの観光客の喧騒が嘘のように消え、二人はひっそりとした住宅街へと足を踏み入れた。
「古い建物ばかりで、すっかりさびれているな……」
流星は辺りをきょろきょろと見回す。潮風にさらされた木造の家々は色あせ、どこか時代から取り残されたような空気を漂わせていた。
ふと、隣を歩く千露瑠が妙に静かなことに気づく。
「どうした? ちろるくん」
呼びかけると、千露瑠は顔を赤らめ、足をぴたりと閉じて、もじもじと身をよじらせた。
「ぶ、部長……小生、ちと、もよおしたようで……あります……」
その様子を見た瞬間、流星の顔がサッと青ざめる。
「……え? え? なんで? 電車降りた時にトイレ寄らなくていいか聞いたじゃん。君、平気だって言ったじゃん。なんなん? マジで」
「急に浜っ子口調!!!」
千露瑠は腰をぐんと曲げ、必死に耐えている。
「うわっ、今のショックで波がきた!」
「待て待て待て! えっと、えっと……」
焦る流星が辺りを見渡すと、ちょうど一人の年配の女性が道を歩いているのを見つけた。藁にもすがる思いで駆け寄る。
「すいません! あの……」
女性は驚いて振り返ったが、小さな流星を見て、ふっと微笑んだ。
「どうしたの、坊や」
流星は、もじもじしている千露瑠を指差す。
「あの…こ、コイツが……」
女性の目がハッと見開かれ、すぐに声をかける。
「もう少し我慢できる? おばあちゃんのお家、すぐそこだから」
「……ここが……踏ん張りどころであります……!」
千露瑠は歯を食いしばりながら、女性の後ろを必死に歩いていった。
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