第8話 明日へのリフ

「茜、もう帰ろう。」

「私、まだ諦めきれない。つぐもさっきの演奏聞いたでしょ?私、運命を感じたの。」


茜はさっきの2人の演奏に完全に魅了されてしまったようだ。


「あの2人はギタリストを探してる。バンドは組まないって言ってたでしょ。どうやって2人の気持ちを変えるわけ?」

「そこは…んまあどうにかなるよ、多分。」


無計画か。まあ、きっと明日にでもなれば茜も2人のことは諦めがつくだろう。そう信じるしかない。


「茜、帰ろう。」


そうして私たちも英二たちの後を追うようにして改札を抜け、ホームまでの階段を下った。



「ふう~。」


湯船にゆっくりと浸かる。身体に溜まった疲れはお湯に吸収され、私に熱エネルギーを溜め込む。


一息つくと、今日のことを思い出す。軽音楽部での初日は、はっきり言って失敗だったと思う。


2人との関係性をこれ以上悪化させないようにどうこうするつもりはないけど、もし解決の糸口があるとするならば、まだ一度も口を開いてない大智こそが糸口なのかもしれない。


…いや、そんなわけないか。


それにしても、バンドは組まない、か。てっきりみんなバンドが組みたくて軽音楽部に入るもんだと思っていたから、あの考え方には正直驚いた。


ため息が思わず。


「…メンバー早く探さなきゃ。」


それなりに頑張ってあの高校に入ったのにこんな惨状で終わってたまるか。


明日こそ、明日こそは良いメンバーを見つけてみせる。なに、簡単なことだ、ベーシストとドラマーを探せばいいだけ。



風呂から上がり、階段を駆け上がって自室の扉を開ける。おもむろにギターケースからギターを取り出す。私のギターはお兄ちゃんが使っていたもののおさがり。


お兄ちゃんはメタルが好きで、私のメインギターは7弦だ。


軽くアドリブで弾いていると、身体のうずうずが収まっていくのを感じる。この安心感だ。



しばらく弾いていると、ドタドタと階段を上がってくる音がする。これはおそらく茜だろう。


「つぐ!7弦貸して!」

「今日は遅いからそっちの家行かなかったのに、茜が来たら意味ないじゃん。いいけど。」


茜にギターを渡すと、しかめっ面をしながらネックをさわさわとする。


「茜、どうして急に?」


茜が突然家にやってくるのはいつものことだが、7弦を貸してほしいと言われたのは数えられるくらいしかない。


「私、この7弦弾けるようになれば英二に認められるかな。」


一体何がどうなってそんな考えになったのかはもはや想像すらできないが、英二に認められるには絶対に超えることの出来ない壁があると私は見ている。


「多分だけど、茜がどんなに上手いってわかっても英二は勧誘したりしないよ。」

「えーなんで?」

「女だから。私の予想だけど、あいつらは男子の3ピースを組みたいんじゃないかな。」

「じゃあ男子になる!」


何をおっしゃるのですか、お嬢様。というかなぜそこまでしてあの2人にこだわるのだろうか。


「無理でしょ、茜はかわいいんだから男子になったらもったいないよ。それに、男子になったらセーラー服着れないよ?」

「それは…盲点だった…。男子になるのやめる…。でも7弦はちょっと練習させて!」


そうして、私が普段あまり鳴らさない低い音を部屋に響かせる。茜は鳴り響く低音にびっくりしている。


「低い!低いよつぐ!」

「そりゃ、7弦だからね。低いBが追加されてるよ。」


それを聞いた茜は少し考えた後、7弦のペグを緩めた。ブーンと音が更に低くなる。


「こうすればAじゃんね、そしたら…7弦と6弦同じフレット押さえるだけでパワーコードじゃん!」

「そうだね。」

「これで7弦マスターした!英二にも見せられる!」


低いパワーコードをズンチャカ鳴らしたところで英二の心に響くかはわからないけど、7弦をDropAにした途端メタル感のあるフレーズをジャンジャカと鳴らしていく茜。適応能力が高すぎる。


「私も7弦欲しくなってきちゃった…。でもそれは今の子にとってみれば浮気…英二に見せる時はつぐのギター借りるね!」

「2人で7弦持ってたら、それはもうメタルバンドだよ。もっと可愛い感じのバンドやりたい。」



「それじゃおやすみ!7弦借りてくねー!」

「おやすみー。」


茜は私のギターを持って家に戻っていった。彼女が家の中に消えていくのを見届けて、私も部屋に戻った。布団に入り、目を閉じる。


明日こそ、メンバーを見つけてやる。

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