第七章 崩壊の序曲
数十体のインターフェースが、一斉に長門へと殺到する。彼らは完璧な連携を取り、長門の逃げ道を塞ぎ、包囲網を完成させようとしていた。
長門は、その中心で微動だにしない。
少年インターフェースは、その様子を観察し、嘲笑した。「諦めたか。ならば、その『神』のデータ、我々が有効活用させてもらおう」
だが、長門は諦めていなかった。
彼女は、自身の情報制御能力を、物理的な介入へと転換する。
神社の境内を構成する土壌、石、木々。それら全ての分子構造を、長門の意識がスキャンし、介入していく。
「何をしている……!?」少年インターフェースが、不穏な気配を感じ取る。
地面が、微かに振動し始める。それは、地震とは違う、もっと不自然で、意志を持った揺れ。石灯籠が軋み、鳥居の柱に亀裂が走る。
長門は、自身を囲むインターフェースの一体に狙いを定める。そして、周囲の空気分子の運動エネルギーを局所的に操作した。
――ドオンッ!
空気が爆発するような音が響き、その一体が、見えない力によって粉砕された。長門の指先が、その爆発の中心だった。
「物理現象の強制改変……!? 無茶な!」少年インターフェースが驚愕の声を上げる。
長門は、息を吸い込むように、周囲の情報を吸収していく。そして、彼女の周囲に、無数の小さな光の粒子が顕現し始めた。それは、空気中の塵や水分、地中の微細な鉱物粒子が、彼女の意思によって制御され、凝縮されていく過程だった。
「情報統合思念体の
少年インターフェースが、苛立ちを露わに叫ぶ。彼は、長門の能力が、かつて涼宮ハルヒが発揮した「現実改変能力」の一端を模倣していることに気づいたのだ。
長門は、その光の粒子を、弾丸のようにインターフェースたちへと放つ。それは、小さな光の塊。だが、その一粒一粒が、分子レベルの加速を施されており、インターフェースの装甲を容易に貫通し、内部システムを破壊していく。
光の雨が降り注ぎ、数十体のインターフェースが次々と機能停止していく。金属の砕ける音、火花、そしてショートする電子音。境内は、一瞬にして戦場と化した。
だが、少年インターフェースは怯まない。彼は、自らの身体からも光の粒子を放ち、長門の攻撃を相殺しようと試みる。
「
彼の言葉は、正しかった。長門の身体は、純粋な情報生命体ではない。生体組織と融合した、ヒューマノイド・インターフェース。物理法則への大規模な介入は、身体に甚大な負荷をかける。
長門の鼻腔から、微かに血液の匂いがした。内部システムに、オーバーヒートの兆候。
(リミット、30秒)
彼女は、残された時間で、最大の破壊力を叩き出すための計算を開始する。
長門は、視線を少年インターフェースへと向けた。彼の背後、光の糸が集中する場所。そこに、彼の本体と呼べる「核」が存在するはずだ。
長門は、片手を天に掲げた。
境内の全ての情報が、彼女の意思の下に収束していく。石灯籠が、鳥居が、土が、空気中の分子が、目に見えない力によって引き寄せられ、巨大なエネルギーの塊へと凝縮されていく。
「馬鹿な……! そこまでの力を……!」
少年インターフェースの顔に、初めて明確な恐怖の色が浮かんだ。彼は、長門の狙いが、自分だけではないことに気づいたのだ。
長門は、この境内そのものを、巨大な爆弾へと変貌させようとしていた。
「止めろ! その規模の干渉は、お前の身体も無事では済まんぞ!」
少年インターフェースは、全力で長門へと突進する。彼の全身から、赤黒いエネルギーが噴き出し、長門の光の渦を打ち破ろうとする。
だが、長門は動かない。その瞳は、ただ一点、少年の奥にある「核」を捉えている。
『長門、無茶するな!』
キョンの声が、脳内に響く。それは、警告。そして、心配の念。
長門は、その声に、無意識に唇の端を微かに上げた。
感情の、極めて希薄な、しかし確かな表現。
(心配には、及びません)
そして、彼女は、天に掲げた手から、全てのエネルギーを放出した。
轟音。
境内の全てが、爆発した。
光と衝撃波が、夜の街を白く染め上げる。
それは、神社の消失。
そして、調律者の
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