第27話 初めての狩り

 探知魔法……神の間でも試したことがあったが、頭の中に緑色のレーダー画面みたいなのを想像し、そこに動物や人がいると反応する魔法である。


 それを使うと大きさによってピンの大きさが変わったり、色が変わったりするように設定してあり、今回は小動物を狩る為、小さい反応を俺とメアリーは追いかけた。


 移動中は動物にバレないように消音と消臭の魔法をかけているのでまず見つからないが、こちらも声を発声するわけにもいかないので念話の魔法で会話する。


『探知魔法で周囲1キロを探してみるが……結構な動物が生息しているんだな』


『村の猟師達も狩りはしているんだけど、熊や猪も多いから複数人で行動しなくちゃいけなくて効率が悪いんだよね。だから沢山増殖しちゃって……』


『前方30メートルの茂みに反応あり……鳥かうさぎか』


『どっちが仕留める?』


『俺にやらせてくれないか?』


『じゃあカバーするね』


 俺は目の前の茂みに狙いを付けると、指先に電気を集めて電撃の矢を放った。


 バチンと何かに当たる音が響き、近づいてみると雉っぽい鳥が感電して亡くなっていた。


『えっと鳥の解体は確か……』


『僕何度かやったことあるから見ててね』


 メアリーは異世界に転生してから動物の解体を何度かしたことがあるらしく、指の爪を伸ばす魔法と、硬化、更に鋭利にする魔法を重ねがけして爪をナイフの様にすると、雉の肛門周りの羽を毟り、肛門が見えるので、爪で切り込みを入れて肛門を広げる。


 爪を切断して元の流さに戻すと、広げた肛門に指を入れて腸を引きずり出す。


 ズルリと腸が出てくる。


 案外綺麗に出てくるものなんだなと感心していると、ズルリンと腸が全部出てきた。


 そしたら木に吊るして羽を全部むしっていく。


 こういう時に便利なのが魔法というもの。


 脱毛の魔法というどこで使うかいまいち分からなかった魔法をそのまま転用して雉の亡骸にかけるとスポポポと気持ちよく羽が抜けていき、一瞬で鶏肉っぽい容姿に変わる。


『ナイス! ナツ!』


『こちらこそ脱腸部分をやらせて済まなかった』


 俺はここでバトンタッチして、肉を解体していく。


 頭を切り落として、部位ごとに分けていくと、可食部はもも肉2枚、むね肉2枚、ガラ、砂肝、レバーとなる。


 食べられる量としては600グラムぐらいか? 


『鶏に比べると食べれる量少ないんだな』


『そりゃ野生動物だし、飼育された鶏に比べたらね……』


 それでも1人300グラム。


 子供の体だと300グラムも食べたらお腹いっぱいになる。


 さっき芋を食べてお腹いっぱいになっておくんじゃなかったか? 


『お肉食べる?』


『さっき芋食べすぎてあんまり食べれそうに無い……異空間に収納しておいて良い? 異空間なら腐る事も無さそうだし』


『はいはい』


 俺は異空間の中に雉肉を収納していき、初めての狩りは成功で幕を下ろすのであった。






 安全圏まで戻ってきて、消臭、消音を解除し、肉ってどれぐらいの頻度で食べられる物なんだとメアリーに質問してみる。


 ナーリッツ君の記憶だと1週間に1度薄くて小さいベーコンみたいな肉片が塩のスープに入っているだけでご馳走扱いであったが……。


「自作農の僕の家でも2日に1回小さな肉片の入ったスープが出てくるのがせいぜいだね」


「ああ、そっか、この世界のエルフって普通に肉食べるんだよな」


「他の異世界のエルフは分からないけど、肉は食べるよ。まぁ油でギトギトした食べ物は苦手っぽいけど……この村だとそんなに油を使ったら怒られちゃうからね」


「なるほどなぁ……他の家もそんな感じなのかね?」


「領主様は比較的まともな食事をしているんじゃないかな? シュネの家の地主階級も毎日ベーコンが食べられると思うけど……確かシュネの家は領主から家畜を飼うことが許されていたから鶏や豚を飼育していたはずだよ」


「うへ……こりゃ都市部に転生した方が良かったかな?」


「まぁその代わり、森に入ってしまえば野生動物狩って肉食べ放題だし、森の恵みを食べられるわけだからさ」


「確かにそうか……転生者の特権ってやつか」


「そうそう」


 メアリーが木でできたコップの中に水魔法で出現させた水を入れて俺に渡してきたので、ありがたく飲ませてもらう。


「ふぅ……冒険者になれるのって確か10歳からだったよな」


「そうだね。あの空間の本には9歳から冒険者の予備校で勉強することができて、10歳から冒険者として働くことができるって書かれていたね」


「予備校って金かかるんじゃなかったか?」


「お金かかるけど入学試験で良い成績を残せば特待生として学費が免除になるって書かれていたけど」


 10歳でそのまま冒険者になるのでも良いが、冒険者予備校を卒業して冒険者になると冒険者としての階級を1つ上げた状態で仕事を受けることができるのである。


 まぁ冒険者のランクと言っても通貨と同じ鉄のアイアン、銅のブロンズ、銀のシルバー、金のゴールド、白金のプラチナで帝国の冒険者は区切られている。


 異世界物だと冒険者は国に属さないみたいな小説や漫画もあったけれど、この世界だとガッツリ国に属する事になる。


 ただなんならゴールド以上の冒険者は貴族がパトロンになる代わりに優先して仕事を受ける契約を結ぶ……実質的な従者契約みたいな感じも普通に起こり得るらしい。


 仕える貴族が大きな貴族で、優秀な冒険者として認められれば、貴族の最下級の騎士に任じられたり、魔法使いの部隊の隊長格として召し抱えられたりすることもあるらしい。


 多くの冒険者が目指すべき到達点がそことなっている。


 最初から町スタートで運良く貴族引いて……なんてのも転生前は考えたが、貴族は貴族と結婚するのが当たり前であり、庶民と結婚するとなると明確に差ができてしまう。


 それに女性の場合は家が結婚先を指定してしまう場合もあるので都市スタートをしなかった理由はそれである。


 僻地から来たお上りさんが実力で成り上がる……この方が全然良いだろう。


「特待生入学するためにはどれぐらいの実力があればいいんだろうか」


「うーん、この世界の強さの基準が分からないんだよね。とりあえず強そうな魔物を倒せるようになっておけば良いんじゃない?」


「となると……山に挑まないと行けねぇな」


「全員揃うまでは森で鍛錬しておくに留めることにしましょう」


「そうだな」

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